第19話 リン、頼まれる
「おい、居るならもう大丈夫だから出てきてくれ!」
ガストロノフが声をかけるが返事はない
「…ま、とりあえず探してみましょうか。もしかしたら恐怖で気絶したりとかしてるかもだし」
それから家の中を探してみる、すると…クシュンと床の下からくしゃみが聞こえた
聞こえた方をみると、確かに床は一部が蓋のように
なっている。
リンは小声で
『子供のくしゃみだったけど…出てこないのはもしかして怖がられてるんじゃない??主にあんたが』
リンはガストロノフをジト目で見ると
『馬鹿な、怖がられてるとしたらリン、お前だろ?さっきの魔物を蹴散らした場面を考えろ、あんなのを見たら誰でも怖いと思うが…』
『なんでよ!あんたなんて全身真っ黒で見るからに怪しいじゃない!大体なんでそんな格好してるのよ?中二病じゃあるまいし』
『なんだと…、チュウニ病がどんな病気かは知らんが、これの格好よさが分からんとは……まったくこれだから女ってやつは……』
そうしてお互いに責任を擦り付けあっていたが
「面倒ね、居るなら早く出てきなさい!私たちは敵じゃないから」
すると床下からガタンと音がした後
「…………母さん…??」
そんな返事が返ってくると、床の蓋が少し上がってその後完全に開いた後出てきたのはやはり子供だった
「え?」
思わず声が出ていた
見たところ憔悴しているようだけど、10歳位の男の子で目鼻立ちが整っていて、意志が強そうな目は綺麗な真紅…それより気になるのは…
「銀髪?リン、お前子供いたのか?やけにお前にそっくりだが…」
ガストロノフがそう思うのも無理もないのかも。私から見ても私に似てる…と思う
「確かに似てるけど…キミ、とりあえず私達と一緒に避難するわよ?」
「………!!母さんじゃない…の?」
男の子が驚いた表情で私を見つめてくる
「私ってそんなに似てるの?あなたのお母さんに」
「声も顔も一緒なんだ…!だけど…」
すると男の子の目は見る間に涙が溜まっていき
「逃げる途中で魔物から襲われて……」
「落ち着きなさい、お母さんはちゃんと探しに行くから…ね?だから安心しなさい、こう見えてお姉さんは強いのよ?」
そう言いながら男の子の涙を優しく指で拭っていく
「…お願い…します、母さんを……」
男の子はそこまで言うと緊張の糸が切れたのかその場に崩れ落ちてしまった
「大丈夫だ、ただ気を失ってるだけみたいだな。しかし、リンはこの子の母親によほど似ているのかもな」
確かに、でもそんなことあり得るのだろうか??世界にはそっくりさんが3人居るってよく言うけど、私はこの世界には来たばかりだし…世界が違ってもそんなことがあるのかしら
改めて男の子を見ると服は血で赤黒く染まっていたが男の子自体は怪我をしているわけではなかったからこの子の母親の物だろうと思うけど、この返り血をみると恐らく……
リンは自分の上着を脱いで子供に掛ける
ガストロノフが凄い勢いで目を逸らすが気にせずに
「お母さんは魔物にって言ってたわね、この子の服についた返り血の量…恐らく生きてはいないだろうけど一応近くを探してみるわ、ガストロノフはその子をお願いね」
「わかった、気を付けてな。この子が目を覚ましたら話を聞いてみるさ」
それからリンは民家を出て、付近にある血の後を辿っていく。
そして近くの路地に入った所で血塗れの女性が倒れているのが目に入る
近づくとまだ微かに息があったが…リンは傍まで行くと女性を抱き抱える
女性は抱き抱えた時に少し目を開くと一瞬驚いたような表情を浮かべた
見ればやはり自分によく似ていると言わざるを得なかった
私の脳裏には元の世界でも有名な話…ドッペルゲンガーの話が浮かぶ
あの話は世界のどこかにいる自分のそっくりさんに会ってしまったら死んでしまうといった内容だったけど……
改めて見てみると違うのは自分より歳は上だろうということと、瞳の色が真紅という点だけだった
私の腕を掴んで
「!?……お、お…ねが…い…します…、息…子を…息子を助け………て……」
彼女は息も絶え絶えになりながら必死に訴える。
胸からの出血が酷い…これは……もう…
「子供から魔物を遠ざけようとしたのね……、大丈夫よ…貴女の子供は無事だったわ」
リンは優しく語りかけた
「よ…かった、あ…の子…が無事で……」
次第に呼吸が弱々しくなっていく
「えぇ、可愛らしい息子さんでしたね…。あなたの事を助けてって頼まれちゃいましたよ?だから、息子さんの所へ必ず連れていくわ」
そして彼女は自分に似ている私になにかを感じたのか「息子を、レンを………お願い」と最後の力を振り絞り声を紡ぐ
「出来る限りの事はするわ、だから安心して」
リンがそう伝えると彼女はそれを聞いて安心したように息を引き取った
リンはそのまま彼女を抱き抱えて立ち上がると
「まさか違う世界に来て自分に似た人と会うことになるなんてね…だけど、もっと違う出会いがしたかったわ」
いや、もしかしたら会わなかった方がよかったのかもね…彼女にとってのドッペルゲンガーは私だったのかもしれないから……
名前も知らない彼女を抱えて歩きながら別の世界にいる両親達の事を考える
「皆元気ならいいんだけど……。変態神に最後の挨拶だけでもなんとかしてもらえばよかったかな、きっと今ごろ私を探してるんだろうな」
でも、どうしよう?出来る限りの事はするって言ったからにはなんとかしないと…
そしてリンは1つの決断をする
「頼まれた以上、あの子さえ良ければ独り立ちするまでは……とにかくあの子に聞いてみないと始まらないわね」
そんなことを呟きながら男の子とガストロノフが待っている家を目指し歩きだした




