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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第125話


“私も頑張れば師匠みたいになれますか?“


“研鑽を続ければ辿り着けるだろうよ。だが…”


“お主は得た力を間違った方向へ使うな、それは覚えておけ”


師匠…何故あなたは私を…


「桔梗、剣術と家事は必須なのにあなたって子は…」


「母様…私だって不本意なんです。剣術は合格したのにまさか家事が不合格とは」


毎日の鍛練を終えて家に戻ってきた桔梗を待っていたのは桔梗の母である(すみれ)だった。


修羅の国では文武両道が当然であり、女性もそれは例外ではない。

女性であろうと学校では勉学、武芸を教えられる。


男女関係無く国民全員が戦う術を持つ事で修羅の国は周辺一帯の国からの侵略をはねのけているのだ。

ただし、全員が動員される戦はそうそう無いので普段は農業や狩り、工芸品や魔道具の作成などを生業として生活している者が殆どではあるが…


「まぁ良いではないか、桔梗は武芸を極めたらよい。そしていずれワシと同じ“武人衆”に入るのだからのぅ」


「あなたったら!そうやって桔梗を甘やかすからいつまでもこの子は家事を覚えようとしないのです!少しは叱って下さい!」


「ま、まぁあれじゃ!桔梗も菫の言うことを聞いて立派な婿をだな…」


「…分かりました、明日からはちゃんとやりますからもう汗を流して寝ますね」


「…全く、一体誰に似たのかしらね?」


「桔梗は若い頃のキミにそっくりだぞ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…桔梗には知らせるな。これは我らが調査している最中だ」


「承知しました…しかしまさかあの御方が…」


「我も信じられぬ、我が師は竜を単独で討つ事も出来る手練れ…転移先で竜を討伐して帰還するだろうと思うがな」


「シリュウ殿の仰る通りだろうとは思いますが…何やら胸騒ぎがするのも事実…」


「うむ。…我は明日から暫く外界を捜索する予定だ、桔梗には任務で空けるとでも……やれやれ…どうやら聴かれたらしいぞ」


微かに走り去る音が聞こえたシリュウが溜め息を吐く。


「…桔梗は私が対処致しますので。シリュウ殿は…」


「くれぐれも桔梗が暴走せぬようにな。桔梗にはまだ外界は早すぎる故に」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


その数日後…


「下手人を捕らえよ!!」


カンカン、と警鐘が鳴り響き慌ただしくなる城内の一室…


「フハハ!まさかお主の様な娘っ子が我が宝物殿から”止水“を盗み出すとはなぁ!」


目の前で刀を突き付けられて尚眼をギラつかせている娘を眺めて笑うは修羅の王…阿紅羅(あくら)


「………」


「良き眼をしておるなぁ、お主は確か…武人衆が一柱宗次郎の娘だな?」


不敵な笑みを浮かべて刀を桔梗の首筋に当てる阿紅羅だったが…


「その止水、お主が持つにはちと技量不足だぞ?何故身の丈に合わぬ得物を望む?」


「……身の丈に合わずとも、私の目的には止水が必要だからです」


「……成る程のぅ。先日の件絡みか?あれに関してはシリュウが調査する以上お主に出来る事はないとは思わぬのか?」


「…だとしても!私は師を…」


真っ直ぐに見つめる桔梗に阿紅羅はニヤリと笑って刀を納める。


「良いだろう、お主の技量で何処までやれるかは知らぬが…やってみるがいい」


阿紅羅の言葉に驚く桔梗に続ける


「但し、それは我が国の至宝…何の咎めも無しとは出来ぬ」


一月後、お主を下手人として手配し追っ手を差し向ける。

それまでに解決すればよし、しなければ追っ手に捕まり処刑されるか…無事に止水を返還するか…お主次第だ。


「…後恩赦に感謝いたします」


「良い、但し…それもまずはこの城から逃げおおせればの話だがな」


「承知致しております…」


「分かっておるならさっさと往け、そろそろ武人衆の奴らも動き出すぞ?」


阿紅羅の言葉に頷いて立ち去ろうとした桔梗に阿紅羅は…


「桔梗よ、これだけは言っておく…世の中には隔絶した強さを持つ強者がおる。己が目的を果たしたいなら挑むべき相手を違えぬ事だ」


あの時…阿紅羅王は今の様な事になるのを予見していたのだろうか…


目の前にいるこの女は阿紅羅王が言っていた“隔絶した強さ”と言われる者なのだろう


「いつまでも黙って立っているつもりですか?」


青髪の女の周りの気温が下がり地面が凍てつき始め…


「…っ」


一気に距離を詰めた青髪の女が振り抜いたサーベルが防御の為に差し込んだ止水と火花を散らす。


弾かれた止水を握り直し首筋を狙って突きを放つが女は溜め息を吐きながら躱してサーベルの柄で溝尾を殴って吹き飛ばす。


「桔梗!」「駄目よ!」


咄嗟に動こうとしたシリュウを止めたサラを見てユウコが笑う。


「終わるまで黙ってみていた方が良いですよ?邪魔するのなら私もリーニアさんも我慢(・・)するのをやめるだけですけどね」


「しかし…!」


「シリュウ、私達には口を挟む権利がないわ。あれはキキョウという子がやった事に対する彼女らのケジメです、少なくとも殺しはしないと約束してくれているだけでも寛大な処置だわ」


恐らく実力からして私達全員を纏めて相手しても勝てるという自信があるからこそ今は大人しく二人の戦いを眺めているのだろう事が分かる。


「……あなたは冷静ですねぇ。ま、考えている通りですよ?私達、というか私かリーニアさんどちらに挑んでもあなた方3人が生き残れる確率は0です。先日戦った貴女なら分かるでしょう?」


妖艶に微笑むユウコに頷くしかないサラ。


「さて、あの二人の戦いは見なくても明らかなので本題に入りましょうか…私が連れ去ったあの子供…あの子の親は誰ですか?」


「私は直接面識はありませんが…娘の話ではリン、と呼ばれていました」


サラの言葉を聞いたユウコの纏う空気が変わったのを感じたサラとシリュウだがサラは続ける。


「あなたが彼女の()ではないか、という話もあり、とにかく一度話を出来ないかと考えて…」

「……姉??いえ、私はリンの母ですが?」


???


「いえ、そんなことはどうでも良いのです…娘は…リンは今何処にいるのですか?」


「少し前に起きた災害で…」


「……死んだのですね」


「…分かりません、それを確かめる為に我々は帝国まで帰る途中だったのです」


「そう…だったのですか……」


目の前で話を聞きながらも遠くを見つめるようにして目を細めたユウコが一筋の涙を流す様子を見てサラは胸が痛くなる。


この人は…間違いなく人の親なのでしょう…確かに人外といえる強さを持っている、だが我が子を想って涙を流す姿は…


「しかし、まだ死んでいると決まった訳ではありません。私の娘やその友人の話ではそう簡単に死ぬような人物では無かった、と聞いています」


「大丈夫です、久しぶりに涙を流しましたが…リンは確実にこの世界に存在していた、それが確定しただけで充分です」


「……そちらの目的はそれで分かりました、ただ…私の同僚の事ですが…」


「ああ、それについてはもう私の従者を向かわせたのですぐにでも彼の傷は塞がると思います、ただ…あなた方に手を出した件に関しては謝りませんが。私もそれなりに色々と攻撃を受けた訳ですしねぇ」


確かに。お互いに不幸なすれ違いで戦闘になった以上責める事はどちらも出来ない。


「ただ、お詫びといってはなんですが…ついでにあなたの娘の…まぁこの世界ではなんといわれてるかは知りませんが魔術回路も綺麗に整えてあげます」


今向かっている従者は治療のエキスパートですから。


「あの子が魔術を使えなくなったのを何故知って…」


「これでも貴女より何百年と生きているので。ああいった症状にもそれなりに知識があるんですよ。それより…もうそろそろ決着がつくみたいです」


ユウコの言葉でサラが視線を向けるとキキョウの刀がリーニアの首を狙って振り抜かれた所だった。


「………!?」


「これで理解しましたか?あなた程度の剣では私に傷を負わせる事など出来ない、と」 


リーニアの首に当たった刀は肌に触れる直前で氷に止められていてそれ以上は動かせなかった。


「あなたが何故竜を憎むかなど興味はないですが…やった事に対する責任は取ってもらいましょうか!!」


リーニアはそう言い放つと首に当てられていたキキョウの刀…止水を手の甲で弾き飛ばしながら逆の手でキキョウの胸ぐらを掴み、力任せに空中へと放り投げると同時に無詠唱で細い氷の槍を無数撃ち出してコントロールし…


「まず…ブレアの翼の分」


クイッと指を曲げて正確にキキョウの両腕を氷の槍が貫く。


「そしてこれはユウコを貫いた分!」


更に残った氷の槍でキキョウの腹部を貫き…


「そして最後…私と戦えるだけの技量も持たずに挑んだその愚かさの代償です」


悔いて眠れ…!“氷の墓標”


リーニアが指を鳴らすと同時にキキョウの体を氷が覆い巨大な十字架を形成して地面に落ちる。


「…リーニアさん、殺したら駄目だと…」


「死んではいません。もっとも…私が解除するまでは永久にあのままですが。そのほうがあの男には都合が良いでしょう?」


シリュウを見ながらそう言ったリーニアにシリュウも気が付いてあ、ああ。と返事を返す。


「それで…ユウコの方の話はどうでしたか?」


「一応探していた娘の情報は見つかったのですが…もしかしたら死んでいる可能性があるみたいです」


「それは…」


「ただし、それも確定ではないので私はリンが死んだ、と間違いなく認めるしかない証拠が出るまでは…探し続けますよ」


「そうですか…確かにユウコの子供であればそう簡単には死なないでしょう。我々の様に長命種は親の特徴を受け継ぎますから」


持っていたサーベルを鞘に納めたリーニアがサラの方へと近づきジッと顔を見つめ…


「あなた、その髪と魔力は遺伝ですか?」


「え、ええ…何代か前の先祖がこの赤髪だったそうで…」


「………“フィリア”という名に聞き覚えは?」


「…いえ、私は存じませんが…その方は一体…」


「私の妹で…過去にこう呼ばれていました、魔族の英雄、“黒騎士”と」


「?!?」


リーニアの言葉にサラとシリュウが驚き、サラが固まっている隣でシリュウが刀を地面に置いて片膝を着き修羅流の最上礼をして地に伏せる。


「まさか…黒騎士様の縁者とは知らず無礼の数々…平にご容赦願いたく…」


シリュウの言葉にリーニアは首を振る


「私が修羅のサムライに頭を下げられても困るので。妹が何をしたのか私は知りませんが…私を知る修羅はもう生きてはいないでしょうし…人間は私達魔族とは時間の流れが違いすぎて瞬きの間に世代が変わってしまう。あの頃…私に挑んできた“チドリ”や“キョウシロウ”は天寿を全うしたのか…今では知る術も…」


「くの一”千鳥“、時双流“凶士郎”は今もなお我々修羅の民では知らぬ物はいない程の豪傑…彼等には魔族の友人がいた、という話は伝わっています」


「友人…そうだったのですね」


「ええ、…それならば、キキョウを生かして頂いた礼としては些か不足ですが此方をお持ちくだされ」


そう言ってシリュウが自分の刀に巻いていた布を差し出す。


「それを持っていれば修羅の国に入国する事が出来る上に国内で自由に過ごす事が可能で…」


「シリュウ…!?あなた…それは…」


「みなまで言うなサラよ。俺は託すに値する方を見つけただけだ…それを持ってどうか…どうか1度だけ我が国の墓地に眠る彼等に手を合わせてくだされ。さすれば彼等も喜びましょう」


「…わかりました、近い内に必ず伺うとしましょう」


頷いたリーニアだがすぐにどこかを見て目を細める。


「…さてまだ色々と話を聞きたいですが…少しばかり厄介な気配が近付いて来ていますね。ユウコ、あなたはこの2人とあのサムライを連れてブレアの所まで戻って下さい、向かってきている気配の主は私が相手をします」


「良いんですか~?リーニアさんは戦ったばかりですし…私が排除しても良いんですよ??」


「ふふ…ありがたいですがユウコはブレアと置いてきたあの子供にちゃんと説明をしてあげるように」


「それはまぁそうですねぇ、分かりました。ではお任せします」


そう言ってユウコは氷漬けになったキキョウを自分の影に入れ、シリュウとサラを抱えて影に入る直前…


「くれぐれも無理はしないで下さいね」


とだけ残して消えた。


「私が心配されるとは…なんとも久しぶりの感覚ですね」


さて…お互いに死んだ筈になっているのですがまた私の前に現れるのならば…


あの時の恨み…忘れてはいませんよ…ルシウス。

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― 新着の感想 ―
[一言] 随分久しぶり、ありがたいですね。 こっちは決着、リンも早くこーい。 良い感じに話が絡んできた。
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