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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第123話


着水した戦艦…”クレストリア“の艦橋に響く悲鳴…それを背に光輝はこの船を調べていたが…その性能は光輝からしても異常という言葉しか出ない。


「こんな馬鹿げた船が存在してるとは…元の世界なら世界相手に戦えるぞ」


何百年でもまともに動く上に空を飛ぶ戦艦だ。武装は古臭いがこんな物が空から攻めてきたら防ぐ手段がない。


「とりあえず一旦着水した以上問題は解決したとして…」


光輝は倒れているリンに近づいて抱き起こす。


「特に外傷は無さそうだし…隊長が無事で本当に良かった」


あの日…遠くで爆発が起こった時点で死んだ、と思っていたリンがこの世界で生きているかも知れないと知った時は信じられるかどうかも怪しかった。

だが実際に目の前で呼吸をしているリンを見ればもう今までの苦労などどこかへ吹き飛んだ。


「ぎっ!?や…やめ…」


「うるせえ。散々俺達を振り回しやがって…挙げ句にお嬢にまで手を出そうとしやがったよな?許すわけねぇだろ」


オラァ!と言いながら殴り続けていたランスに光輝がとりあえずその辺にしておきましょう。コイツらを裁くのはこの島の住民に任せるべきですし、と言ったのでランスは頷いて手を止める。


「…ふん。…で?お嬢はどうなんだ?」


「多分気絶しているだけですね。暫くすれば気が付くかと」


「そうか…なら良かったが…にしてもえらくバッサリといってるな、もし零士の奴がこの世界にいたら発狂するぞ」


リンの髪を見てランスがそう言うと光輝も頷く。


「あれだけ長かったですからね。どういう訳かどんなに戦闘続きでも隊長の髪は艶々してましたし…隊長本人も髪を切るのは頑なに拒んでたから見て驚きましたよ」


「確かにな。…光輝、無駄話は終わりだ。何か…来るぜ」


ランスが耳を澄ませるとここへ続く通路から足音が聞こえてくる。


「……なんですかね?やけに足音が軽い気がしますけど…」


「大人の足音にしちゃ妙だな。だが…子供だとしてもおかしいぞ?」


確かにこの船には子供も捕まってはいたが…危険だから外には出るな、と言ってある以上無闇に出ては来ない筈だ。


「光輝、いつでも動けるようにしろ」


「了解…」


直ぐにリンを庇う形でナイフを構える光輝と扉の側に張り付くランス。


足音が艦橋の扉の前に来るとピタリと止まる。


何故入ってこねえ…?


ランスが息を潜めてジッと待っていると…ガチャ…という音を立ててレバーが下がりドアが一気に開け放たれ、通路からナニか…ランスに見えたのは服を着た骸骨だった。


「隠れても無駄だぜぇ?俺らは生きてる人間の気配に敏感でなぁ!」


骸骨が喋る、それだけでも驚いていたランスだがその骸骨は飛び込んで来ると同時に手に持っていたサーベルを振り、ランスがそれをナイフで受ける。


「ランスさん!?」


「光輝!!もう一匹そっちに行ったぞ!」


ランスのいう通り、光輝の目の前にまた別の骸骨が躍り出て光輝に強烈な蹴りをお見舞いして吹き飛ばす。


「船長!?カディス副船長!船長とソフィアさんが倒れてますよ!!」


「ちぃ!ソフィアまでやられたのか…!?アミィ!お前は姉御とソフィアを担いで逃げろ!俺がコイツを止める!」


「わかった、任せて…って?!」


アミィが最後まで返事をする前に吹き飛ばした筈の光輝がアミィに向けてナイフを突きだしてリンから離す。


「隊長に触るな!化物が!」


連続でナイフを繰り出す光輝にアミィもすぐ応戦してナイフを篭手で防ぐ。


「この人間…強い…!」


ナイフを振る手つきが尋常じゃないくらいに隙がなく、今まで見たどんな戦いかたにも当てはまらない動きにアミィが後ずさる。


無言で更に追撃してくる光輝のナイフを躱し、反撃を試みるが全て防がれてしまう。


「骸骨が動く…元の世界じゃ考えられないが…どうやって動いてるんだ?」


生きた人間なら急所を狙うなり組伏せたりも出来るだろうが骨しかないような存在に対して有効な手立てがあるとも思えず光輝も攻めあぐねていた。


「アミィ!何してやがる!さっさと姉御達を…」


「む、無理ですよ!戦い難くて堪らないんですから!」


ちぃ!こっちの男も厄介だってのに…せめて姉御が目を覚ませば…いや、そういえばコイツら…


「おぃおぃ…敵を前にして考え事かよ?随分舐められたもんだなっ!」


ランスの蹴りをサーベルでガードし、弾いて距離を取ったカディスが少し間を置いて叫ぶ。


「…アミィ!やめだ!戦闘中止!」


カディスの言葉でアミィが光輝から距離を置いて構えを解く。


「……何のつもりだ?」


「…姉御に危害を加えるような奴等が姉御を“隊長”やら“お嬢”なんていう筈ないな、と思ったんでな。一旦話をしてみるかと思ったのさ」


サーベルを鞘に納めたカディスを見てランスと光輝も戦闘態勢を解いてから息を吐く。


「…どうやら敵じゃあないらしいな。お前らはお嬢と…リンとどういう関係が??」


「関係……と言われりゃ…”(あるじ)“と“下僕(しもべ)“だな。俺達は姉御に助けられて一生ついていくって従魔契約を交わした関係ってやつさ」


「…契約?よく分からんが敵ではないということか。…良いだろう、リンが起きるまでは休戦といこうか」


ランスの提案に頷いたカディスだったが何かを思い出したようにそういえば…と言って艦橋を出ていった後、すぐに戻ってきて肩に担いだ男をランスの前に差し出す。


「コイツはお前らの仲間か?」


「サフィール!この野郎…見かけねえと思ったら…」


気絶しているサフィールを受け取ったランスは先程散々殴って気絶しているグレゴリオの隣にサフィールも放り投げる。


「コイツも襲撃した海賊の一味だ。…っても俺達もそいつらとさして変わらねえかも知れねえが…」


「…?そりゃどういうこった?」


カディスの問いにランスは今までの経緯を話し始める。


「……なるほどな。姉御を探す為に依頼を受けて協力していた、ってことか」


「ああ、だからこの騒動の原因の一部は俺達にもある……っ!?」


ランスがそこまで言った時、背後に気配を感じて後ろを振り返ると…頭を抑えながら起き上がったリンが立ち上がった所だった。


魔力不足で顔色は悪いが…どことなく戦場で最後に見た時より幾分か雰囲気が変わった、と思ったランスが口を開く前にランスの姿を見たリンが抱きついてきた。


「…っ!何でランス達までこっちにいるのよ…!折角あの時逃がす為に時間を…」


抱きつかれて驚いたランスだったがそっとリンの頭を撫でる。


「…お嬢、いや…リン。お前が泣くなんていつ以来だ?」


「うるさい…!泣いてなんか…ないわよ」


「……そうか、そうだな…昔はピーピー泣いてたのになぁ」


ユウコから追い回されて泣きながらダッシュしていたリンの姿を思い出したが…すぐにリンの抗議するような表情を見て首を振る。


「昔を思い出すなんざ……俺も老けたって事か」


暫く抱きつかれているままにしていたランスだったが…リンが落ち着いた段階で離れていったので話を始める。


「先ずは…リン。あの状況からよく生き残ったな」


リンが目元を拭ってから頷く。


「…生き残った、といえるかは微妙だけどね。実際はあの場で私は死んでたらしいし」


変態神の話だと元々私はあの時向こうの世界での寿命が尽きていたと言ってた。


「どういうこった?」


「そもそもあの時私は既に致命傷だったのよ。だから最後に周りを巻き込んで自爆しようとした…いえ自爆した、が正しいかな」


ありったけの手榴弾全てを起爆させたのだから生きていられる筈がない。

そこをまぁ…癪だけどあの変態に助けられた訳だ。


「なるほど…だが今生きてるならそれが全てだろ。なんにしても…無事なら良いさ」


「そうね…」


リンは頷く。


「…ってそれよりまずはやるべき事をやらないと。まだ島の人達を助けに…」


「姉御、それに関しては問題ないですぜ?俺達が全てやっておきましたんで」


「流石ね、カディス。…なら問題はこの船か」


「こいつに関しては島の奴等に話を聞いてみるしか無さそうだが…」


ランスの言葉にリンは確かに、と頷く。


「とりあえず島の代表者と話をしてみるわ。カディス、それらしき人を探して来てくれない?」


「了解でさ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


いつかはこんな事態になると分かっていた。


クレストリアを目当てにやってくる学者やどこかの国の騎士など…様々な人物がやってきたが我々一族はその誰にもクレストリアを渡す資格はないとして秘密を守り続けた。


守人として襲撃してくる人間に対抗する為に我々も常に鍛練を怠らず、海賊程度には負けない自信もあったが…今回襲ってきた海賊は今までの海賊と比べて明らかに強かった。


目の前で頭を下げている彼らを抜きにしても我々では全員を守りきる事など出来ずに蹂躙されるがままだったろう。


だが助かった、途中で現れたスケルトン達やその主人だというリンと名乗る女性のお陰で村も破壊を免れた訳だが…


「…クイーンオブヴェルサスは暫く航行不能、と」


深刻な表情で砂浜に乗り上げた自分の船を見上げるリンにカディスが頷く。


「普通なら問題ないんですがね。今回損傷したのが俺達にとって心臓ともいえる“魔核“と呼ばれるヤツでして…本来は姉御の魔力で回復出来るんですが魔核を損傷した時姉御の魔力が補充出来なかったみたいですね」


多分私が魔力を使い果たした時か…


「…回復するまでどれくらいかかりそうなの?」


「姉御の魔力が回復すりゃすぐにでも。ですが…今見てる感じじゃ姉御の魔力が回復する気配がねぇ」


カディスはリンを見てみるがいつもは漲るレベルで溢れているリンの魔力が今はカディス達を維持する程度しか残っておらず、そこから回復する兆しすらない。


「原因は……アレよね」


リンの視線の先には海に浮かぶクレストリア…


「だろうな。先ほどからリンの魔力を吸い上げて船体を修復しているみたいだぞ?因みに私の魔力もギリギリまで吸われているがね」


ソフィアの魔力も…ということは…


「まさかあんたも?」


「はいぃ…吸われてます……」


縄で縛られて転がされているミーネも頷く。


「このまま回復しない可能性もあるな」


「私が思うに…多分ですけど私達3人が燃料タンクとして登録されてしまったのではないかと。その内魔力が満タンまで貯まれば皆さんの魔力も回復し始めるとは思います」


それがいつになるかは分からないですけど、とミーネが付け加える。


「詰み、って訳か。急いで向かわないといけないってのに…」


「……少し話を聞いて貰えるだろうか?」


今まで黙って話を聞いていたこの村の戦士長で確か…ザイン、だったかな?

リンが頷くとザインは片膝をついて頭を下げる。


「今回我々が生きているのは貴女方のお陰だ。だから…もし船が無くて困っているのであれば…“クレストリア“を受け取って欲しい」


「…でも貴方達はこの船を守るのが役目だったんじゃないの?」


「それは託すべき人物が現れるまで、の話です。貴女方はクレストリアを起動させて操った、かの勇者…ダイキも貴女になら託して良いと仰るはずです」


起動できた人間に譲る、それは我が一族に代々受け継がれてきたダイキの言葉であり…我々から見ても託すに足る人物だと思える相手だ。


「………それはありがたい話だけど…クイーンオブヴェルサスから離れる訳にはいかないわ」


短い間ではあるけれど共に航海してきた…それにこの船には意志を感じる以上私の仲間であると断言できる。


「私は仲間を見捨てない。それはいついかなる時であっても貫いてきた…今回もそうするだけ」


「しかし姉御…それじゃあ姉御の目的が…」


「…大丈夫。あっちにはジンもベアトもいるから。それにこの船を使うにしても不明な事だらけで無事に辿り着けるかも分からない以上無闇に動けないってのもあるし」


もし何かあればソフィアに連絡が入る手筈となっているし、相手がレンに危害を加える可能性自体低いと踏んでいる。


「まぁ不確定要素はあるが…私もリンの意見に同意する。どうやらあちらには私の夫もいるらしいからな」


「ああ、確か…修羅のサムライだっけ?」


「そうだ、シリュウがいるとなればそう遅れはとらんだろう」


「…というわけで私達は暫くここに留まる。カディス、ロッシと他の連中を使って島の復興作業の指揮を。私とソフィアはとりあえずザインに協力してもらってあの船を調べる…前に」


頷いて走っていったカディスを見送るとリンは座り込んでいたミーネを縄で縛ってから担ぐ。


「え?」


何故担がれたのか分からず戸惑うミーネだったが…


「さて、アンタ達が仕出かした事を精算するとしましょうか?」


悪魔のような笑みを浮かべながらそう言ったリンがミーネを担ぎ、まだ気絶していて拘束されているグレゴリオとサフィールを引き摺りながら目指す先は…


「ま、まさか…冗談ですよね??」


「私が冗談で済ますような人間に見えるの?ならその幸せな考えを捻り出す脳ミソは役に立たないガラクタだわ」


クレストリアの甲板へと着いたリンが更に進んだ先にはこの船の主砲…


「きょ…協力したのに…!」


「協力したから助ける、なんて言ってないでしょ」


“砲身に詰めて吹っ飛ばす“


そう言っていたのを冗談だと思っていたミーネだったがまさに今から実行されそうになっているこの状況に焦る。


「お願いします!何でもしますから…!」


ミーネが嘆願する間にグレゴリオが砲身に詰められ、続いてサフィールも同様に詰められていく。


「嫌…!死にたくない………!お願いよ………」


ミーネの嘆願を無視してリンが指示を飛ばしていく。


「光輝!二番砲塔90度旋回!砲身一番二番三番仰角45!照明弾装填!」


「了解、90度旋回、仰角45、照明弾装填ヨシ!」


重苦しい音を響かせながら砲塔が旋回していく様を眺めていた時…


「リン、少し話がある。もしかしたら…クイーンオブヴェルサスの問題を解決出来るかもしれん」


「解決するって…私は回復を待つ、って言ったでしょ?」


「まあ聞け。クイーンオブヴェルサスはリンの従魔扱いだろう?そしてあの船はアンデッドだ。だから新たな依り代を…器を用意してやれば良いのではないか?」


帝国からすれば他国に渡すには危険ではあるが…リンならば無用な争いはしないだろ?というソフィア。


「そりゃそうだけど…そんな事が可能なの??」


「前例がない訳じゃないからな。アンデッド化した武器や鎧が別の依り代へ取り憑く事は珍しい事ではないし、幽霊船が別の船に取り憑く事例も実際にあったらしい」


「…なるほどね」


「カディスに確認したら魔核さえ移せるなら出来ない事はないと言っていた。それをリンが望むならば、だがな」


「私には決められない。従魔とはいえ意志がある以上それは無視できないもの」


「…そうだな。ならば直接問うしかあるまい」


カディスや他のスケルトン連中、それにライガットの相棒といえる存在なのだから私の一存で決めるべきではない。


「とりあえずこのバカ共を始末したら行くわ」


「待って!!私、魔核の!移植…!出来ます!!」


ミーネが必死の叫びをあげる。


「……ああ言っているぞ?協力させる代わりに生かしてやってはどうだ?もし何か仕出かしたらその場で首を斬り飛ばせば良いだろう」


「…仕方ないか」


リンが片手を上げるとすぐに近くにいたスケルトンがミーネを回収してリンの前に連れてくる。


「今回は助けてあげる。だけどアンタを自由にするわけにはいかない…私の目が届く場所に居てもらう、良いわね?」


何度も勢い良く頷くミーネを尻目にリンは艦橋を見上げ…


「…光輝!発射!」


スッと手を上げたあと前に振り下ろしたリンを見て光輝が頷き、轟音と共に空気を震わせ砲口から照明弾が発射された瞬間…一瞬だけ断末魔の叫びが聞こえた様な気がしたがリンは首を振る。


地獄で後悔してるがいいわ。


暗い夜空を明るく照らしながらゆっくりと落ちていく照明弾を見つめながら煙草に火を灯すリンだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 問題は山積みというのに仲間の元に戻れない。 この船さえ使えるようになればいい足になりますね。 周りからの脅威度も上がりそうですが。
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