第11話 またトラブル。休みはない。
バドじぃの店を後にした私はギルドに来ていた
もう、昼過ぎなのでギルドの中にはそれほど人は居ない。
私がギルドに入ると皆の視線が私に向けられるが無視して依頼掲示板まで突き進む
掲示板には様々な依頼が張り付けてあるのだけれど、なにを受けたらいいのか……
ふと、隣の掲示板を見てみると冒険者ランキングと書かれた掲示板があった
「へぇ、ランキングは20位以内ならここに表示されるみたいね。どんな奴がいるのかしら?」
ランキングを見ると5位から2位まではすべてSSランクだった
5位 《獣人王》レオパルド=アクシオン(SS)
4位 《夜の支配者》アストラッド=ジルベルト (SS)
3位 《灰塵》ベアトリクス=シュヴァイツァー (SS)
2位 《天剣絶刀》ガストロノフ (SS)
…なんどか聞いた事がある。名前は初めてみたけど、その内闘ってはみたいかなぁ
しかし、私はその上の…1位はどんな名前なんだろうか?
「あら……?」
1位の欄は上から線が引いてある、なぜ?消せばいいだろうにこんな風にしてるんだろうか?
線の下にはこう書かれている
《双剣乱舞》 アルフレッド=バーグラー (EX)
EXランクか…
「あ、リンさん!丁度良いところに!ギルドマスターがお呼びなんです!一緒に来てもらえませんか??」
慌てた様子でフランが走ってきた
「アルバートが?だけど……」
「緊急事態なんです!これからギルド全体にも緊急依頼が出されますがこの街にいる高ランクの冒険者は全員ギルドマスターの部屋へ集合しています」
そうして私はギルドマスターの部屋に来たんだけど…アルバート以外に部屋に居るのは二人だけだった
「リン、昨日登録したのにこの様な事になってしまって申し訳ないが、こちらとしても今回ばかりはこの街にいる高ランクの冒険者には必ず参加してもらわねばならん。もちろんワシも参加する」
アルバートは真剣な表情で私たちに語りかける
「別にいいわ、それより…事情を説明してもらえるかしら?そちらの二人とも私は初対面だし。先に自己紹介をするわね、私はリン=ハヤサカ。昨日登録をしたばかりだけれど一応SSランクになってるわ、よろしくお願いしますね」
そう私が言うと
燃えるような真紅の髪を腰まで伸ばし、その背中には背丈と同等な位に長大で幅広な大剣を背負い、気が強そうなのが現れているような細く切れ長な目。服装は胸当て、腕には髪と同じ色の籠手を身に付けている。身長も私と並ぶ位はあるだろう女性が
「へぇ、登録時点で私たちと同じランクとはね…。実力はともあれ、名乗られては返さないと。私はベアトリクス《灰塵》の通り名で呼ばれている」
そしてもう一人、こちらはくすんだ灰色の頭髪に眼鏡をかけた物静かな雰囲気の青年だった。彼の腰にはシンプルな鞘に収まってはいるのだが持ち手には複雑な刻印が施された長剣、黒い外套に黒のロングブーツと全体的に黒い色合いの服装をしている
「私は《天剣絶刀》ガストロノフ。よろしく」
それだけ言うと彼は壁に寄りかかって目を閉じてしまった。
「お互い自己紹介は終わったな、では本題に入るぞぃ。ここにお主らを呼んだのは他でもないある人物を討伐、もしくは捕縛してもらいたい。
ギルドの情報によるとその人物は今ここより東の街、アルセリスに向かっているらしい」
すると目を閉じていたガストロノフが
「ほう、一個人に対してギルドが動くのはなぜだ?」
「うむ、それはじゃな…相手が相手じゃからの」
「勿体ぶらないでいいなよ!誰なんだい!?そいつは!」
ベアトリクスが苛々して声を張り上げる
「そいつはな、アルフレッド=バーグラー。ギルド史上最悪の反逆者じゃ」
アルバートが言った瞬間にベアトリクスとガストロノフは目を見開いた
「無理だ。《双剣乱舞》を討伐だと?なぜ奴が生きている!?奴はSSランクが全員で闘ってやっと倒したんだぞ!そのせいでSSランクやSランクが減った!こんな人数では死にに行くような物だ」
ベアトリクスも
「それには私も同感だね。あんな正真正銘の化物とは2度と戦いたくないわ、今生きているのも不思議なくらいだったし」
「それは分かる、じゃが、それでも頼む。既に何人かの冒険者が奴によって殺されているんじゃ。前にあやつと闘った冒険者がな…。お主らも例外ではない。必ず狙われるじゃろう…一対一では奴には勝てん、じゃからこちらから仕掛けられる今が好機なんじゃ…」
なんだか分からないけどかなり深刻な事態らしい。私って登録2日目の前にこの世界に来てから1ヶ月もたってないのになによこのトラブルの多さ。
「……わかった、俺は協力しよう。ただし、勝てない場合は速やかに撤退するぞ、まだ死にたくはないからな」
ガストロノフがそう言うと
「…しょうがないね。どっちみち生きてる事が分かった以上、倒さなければいつ狙われるのか分からない状態で日々を過ごすのは嫌だからね」
ベアトリクスも頷く
「リン、お主には関係ない話かもしれん。じゃが今は少しでも戦力が欲しい。きょうりょ「いいわ、私も行く。そろそろ身体を動かさないと鈍りそうだし」
アルバートの言葉を遮って言い放つ
「わかった、お主らの協力に感謝する。では準備を整え次第街の門に集合してくれ。ワシの使い魔でアルセリスへ向かう」
そうして一旦解散し、私はクライスの家へ戻った
「あら?リン、おかえりなさい。仕事は見つかった?」
マリーが迎えてくれる
「ええ、早速今日から出発するからしばらくお別れになるわ」
いつ頃帰れるか分からない事を伝えると
「そうなの…、わかったわ!でも終わったらちゃんと帰ってきなさいね?リンの事を預かっているのは恩人だからってだけじゃない。短い間だけだけど貴女は私たちの家族と一緒よ、それは忘れないで」
「…ありがとう、帰ってきたら話があるからその時は…」
マリーに言うと
「わかったわ。クライスと二人で聞くからちゃんと帰ってきてね」
そうして私は借りている部屋に戻ると壁にかけてある服を掴む
「あんなにボロボロだったのに…綺麗に直してくれてるわね、マリーは」
私が元の世界で着ていた服…これは私が所属していた部隊の軍服だ。
普段は野戦服を着ていたけどあの時は野戦服のスペアもなくなってしまったから着ていた。
軍服を肩にかけると、ポケットから煙草を取り出し火をつける。一息吸って紫煙を吐き出す
「……久しぶりに吸うと染み渡るわね…。まさか煙草まで開ける度に本数が回復してるとは…変態神、良い仕事をするわね」
そして右脇のホルスターにデザートイーグル、左の腰に村雨を吊り下げるとクライスの家を後にした
街の門にはすでにアルバート、ガストロノフ、ベアトリクスが揃っていた
「さて、全員揃ったな。では少し離れておれ、使い魔を呼ぶでな」
そう言うとアルバートは
「我、契約者アルバートの名の元に命ずる……今こそ契約に従い来たれ!」
そうアルバートが言葉を紡ぐと空中に魔方陣が展開されると、その魔方陣から一頭の竜が飛び出してくる
全身が黒の鱗に覆われ、その体は10メートル以上ありそうだ。
その竜が
『アルバート、貴様、随分と老けたじゃないか?まぁいい。我は貴様が生きている間は従うだけだ。それが契約だからな』
「すまんな、バハムートよ、今回はワシらをアルセリスまで運んで貰いたいんじゃよ」
『ふむ、いいだろう。貴様位だろうな、我を移動手段に使う輩は」
バハムートは私たちを見下ろすと、私の方を向いた所で動きを止める
『ほう、貴様…。まぁいい、乗るがいい。急ぐのだろう?」
そうして私たちはアルセリスの街へと向かった




