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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第114話


リン達が島を出発した頃…暗黒海域を目指して船を走らせていたカディスはライガットの帽子を見つめながら昔を思い出す。


「艦長……一緒に帰ろうって言ったじゃないですか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『お前は…生きたいか?生きたいなら俺と来い。真っ当な海の戦士にしてやる』


それは初めて俺がライガット艦長と出会った時にかけられた言葉。


あの頃はまだ海賊船の船長だったライガット艦長は餓死寸前で座り込んでいた俺にこう言ったんだ、『海賊だからお尋ね者になっちまうが…こんな路地裏で死ぬよりよっぽどマシだと思うがな。どうするよ、ボウズ?』


そういって手を差し出してきたその手はゴツゴツしていたが…暖かかった。


「カディス!成長したのは背丈だけか?!そんな腕じゃまだまだ俺は倒せねぇぞぉ!!」


「そ、そんな事いったって…!」


剣を振るライガットと必死に防ぐカディス。


「そんな事じゃまだまだ副船長は任せる訳にはいかねぇな!」


毎日鍛練に明け暮れ何度も挑んでは叩きのめされる。


そんな毎日だったが俺にとってはそれでも楽しく、そして…生きていると実感出来る日々だった。


それから幾つもの海戦や冒険を経て聖教国海軍と何度も戦ったある日…俺達に聖教国から使者がやってきて私掠船免状を交付する為に話し合いを設けたいと打診があった。


「お頭、どうするんだ?」


「…まぁ少し考えてみるさ」


俺の問いを聞きながら酒を呷るライガット艦長は酒を注いだグラスを眺めながら


「聖教国の犬………ってか……それもいいかもなぁ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


更に数年…


「父親として板についてきたか?中々…感慨深い事だ」


久しぶりの帰国…普段家に帰る事が出来ない期間が長い事もあって艦長は聖教国へ帰還すると必ず長期休暇を取る。

まぁその間に船の整備やらを終わらせるといった意味もあるが。


俺が家で息子に剣技を教えているとやってきたライガット艦長が俺と息子を眺めながら呟いたのを聞いて訓練を中断する。


「お頭に拾って貰ったお陰でさぁ」


「お頭って言うのはやめろと言っただろ?あとそのチンピラみたいな話し方ももうやめろ。俺達は正規の軍人ではないがそれでも聖教国海軍所属なんだぞ?」


ゴンッという鈍い音を響かせて俺にゲンコツをお見舞いした艦長に抗議の意味を含めて視線を向けるが彼の表情は…


「なぁカディス、今回の任務…お前は降りろ」


「はぁ?何でですか!?」


あの時艦長は…きっとこの任務の先にあるだろう不吉な予感を感じていたんだと思う。


「今度の任務は今までより遥かに長い期間帰ることが出来ないだろう、だから今回は家族とすごしてやれ」


「そりゃ気持ちは嬉しいですがね、俺はあんたに一生ついていくと決めてる…どんなに危険だろうが絶対に行きますよ」


「…むぅ」


「どうか連れていってあげて下さい…私と息子なら心配いりません。海の男に嫁いだのですから覚悟は出来ています……というより夫が陸で腐った姿を見るのが耐えられない、といった方が正しいでしょうか」


「メリダ…」


「普段からライガット様の話しかしない様な男ですよ?そんな夫が置いていかれたら…鬱陶しいです」


「少しでも感動した俺の気持ちを返せよ馬鹿女!」


カディスが声を上げるがメリダはやれやれ、といった感じで首を振る。


「寝言ですらライガット様の話しかしないくせに…私とライガット様とどっちが大事なの?」


「そりゃもちろん艦ちょ…「ふん!」ぐはっ!」


メリダが間髪いれずに放った平手打ちでカディスが倒れる。


「…こういう人なんですよね。だから連れていってあげて下さい、私達は無事の帰還を祈りながらお待ちしていますから」


そう言って息子のイグナスを連れ家へと入っていったメリダの背を見送っていたカディス。


「…良い家族を持ったな、カディス」


「ええ、俺には勿体ない女ですよ」


「出港は明後日だ、もしかしたらもうここには戻れないかも知れん…しっかり準備してこい」


「…了解です」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「カタ?」


「大丈夫だ、少し…昔の事を思い出してただけさ」


もうすぐだ、あの野郎との因縁ってやつにケリがつくのは。


遠くに見えていた船の影が揺らぎ、不気味な(もや)を纏いながら真っ直ぐ向かってくるのが見え、マストの見張り台から手旗信号が送られているのを確認する。


「『話をしたい』だ?今更話をしたいなんて何を考えてやがる…」


帆を完全には畳まずにゆっくりとベントの船と並ぶと渡し板を渡す。


「おい!随分と警戒してるな?そんなに警戒しなくてもなぁんにもしやしねぇよ」


「うるせぇよベント…!お前のせいで散々地獄を味わったんだ。また汚ねえ手を使われちゃ堪らん」


カディスが悪態を吐くがそれを気にせず見渡すと首を傾げるベントは続ける。


「ところで…ライガットはどこだ?俺にビビって出てこれないのか?クハハハハハハ!!」


「…艦長は、死んだ」


高笑いをしていたベントがピタリと笑いを止める。


死んだ(・・・)だと?あのライガットが?…そんな馬鹿な話がある訳が…」


「死んだんだ。呪いに飲み込まれた。俺の目の前でな」


「ライガットが…死んだ…?」


ベントは天を仰ぐ。


アイツを出し抜いて逃げきれば黒騎士の墓を…遺産を手に入れられると思ってあの場は合わせた。ライガットは『何か不気味な気配がする。…それに古の英雄が静かに眠ってるんだ…このままにしておいた方がいい』と。


馬鹿な男だ。黒騎士の遺産は計り知れない程の価値がある…それこそ国一つの国家予算なぞ遥かに上回る価値が。

そんなお宝を前にして大人しく引き下がるなんざ元海賊として出来るわけがなかった。


ライガットを騙して逃げたまでは良かった、だが呪いは俺達にも降りかかった。


身体は腐り、何度も共に荒波を乗り越えた船も朽ち永遠に日の光を遮る靄を放つ呪われた船となり…暗黒海域には立ち入る事すら出来ない事実を脳裏に刻まれ…


そして最後に…ライガット達が呪いに飲まれたら俺達も道連れになる、と分かった時は絶望した。


一生陸には上がれず、日の光を浴びることも許されずにただ毎日ライガット達が呪いに飲み込まれるかも知れないという恐怖に苛まれる日々…


だが…そんなある日明確に変化が訪れた。


それは理屈じゃなく…だが明確に分かった、呪いの一部が無くなっていることに。


そして今までずっと暗黒海域にあった筈のライガット達の気配が暗黒海域の外に移動していたのだ。


「…で、やっと再会したかと思えばライガットは死んだ?だと?じゃあ何故まだ俺達は呪われたままなんだ!?教えろよカディス!」


「俺が……知るか。……まぁ察しはつくがね」


ベントに冷ややかな視線を送るとカディスは腰からサーベルを引き抜くとベントへ向ける。


「まだ俺達の決着は着いてないって事だ!ライガット艦長からの伝言だ…『貴様のせいで故郷にも帰れず…日々呪われた海賊から追われ続けた我々の恨み…必ず果たすぞ』…俺達の恨み…思い知れ!!」


振り抜いたサーベルがベントを捉える直前ベントは身体を捻りながら躱し、叫ぶ。


「長かった…よなぁ!!俺達とお前達、どちらが残るに相応しいか…雌雄を決するとしようじゃあないか!!」


ベントの叫びと同時にお互いの船がゼロ距離に等しい距離で砲撃を開始、互いに鉛玉を浴びせながら帆を全開にし動き始める。


「気合い入れろぉ!弾幕を絶やすな!!今日こそベントを海の藻屑にしてやれ!」


号砲と怒号…鉛玉を喰らって破壊される船体…悲鳴を上げるように軋むクイーンオブヴェルサスとブラッドファルクス…互いに幽霊船である故に見た目はボロだとしても性能は当時の性能を維持している船同士なだけあって普通なら沈む様な損害を受けようとも関係無しに撃ち合い続ける。


「ライガットが居ないお前達じゃ俺には勝てねえぞぉ!!見てみろ…お仲間はどんどん減っていくぜ?」


スケルトンとベントの手下であるグールが斬り結ぶが一方的に吹き飛ばされて甲板に転がりバラバラになったのを見てカディスが舌打ちする。


「重さがそのまま凶器って訳かよ!」


骨しかないカディス達と違い相手は腐ってはいるが肉体が残っている。

カディスがリンとロッシを置いてきた理由の1つだ。


グールは生物に噛みついたりその体液を浴びただけであったとしても相手をグールへと変える…リンはそんなヘマはしないと思うが万が一を考えたら連れてくる訳にはいかなかった。


「…どのみち俺達みたいな呪われた存在なんざ…仲良く海の藻屑がちょうどいいのさ」


「何をブツブツと…」


ベントの剣を弾きながらカディスが更に短剣でベントの身体に傷を刻む。


「昔からお前のソレには手を焼かされたよな!サーベルじゃなく短剣で攻撃してきてジワジワと攻める…かといって短剣を防げばサーベルで容赦なく斬り伏せる、懐かしいったらねぇよ!」


「そりゃどうもっ!!」


ギィンっと一際甲高く鳴り響いた剣戟の音に合わせてクイーンオブヴェルサスの舵が独りでに回りブラッドファルクスへと体当たりを仕掛けて船体が激しく揺れる。


「ヴェルサス号もお前達は許せねぇって言ってんぜ?見ろベント!俺達がどんどん減っていってるって言ったな?減ってんのはお前の部下だけだ」


バラバラになったスケルトンはすぐに元の姿を取り戻して戦い、相手のグールは何故かスケルトンから浴びせられた液体を受けて煙をあげながら海へと落ちていく。


「…あれはなんだ?カディス…てめえ、何しやがった!!」


ベントの問いにカディスは肩を竦めて笑う。


「アンデッドに対して戦う時に何が一番有効か…忘れたのかよ」


お互いにアンデッドだから、ベントは全く考慮していなかったが思い付くのは1つ…


「うぉ…!?聖水か?!」


「ご名答、教国の聖銀様から貰ったお墨付きだ。効くだろ?…言い忘れてたがよ、俺の武器にも聖水を振りかけてんだ」


「…傷が塞がらねぇのはそういう訳か!だが何故お前達が聖水を…アンデッド同士だろうがよぉ!!」


同じアンデッドなら聖水に触れる事すら出来ない筈…


「同じじゃねぇんだ、契約したからな!」


カディスのサーベルがベントの左腕を斬り飛ばし、ベントがよろける。


「…くそ!ふざけやがって…。まさかお前達があの海域を抜けたのは…?!」


ベントの傷口から流れ出た血が船の甲板に落ちると同時に腐敗していく。


「…やっぱりお前を姉御に近付ける訳にはいかねぇな。そのスキルだけは未だに健在って訳かよ」


カディスがリンを置いてきた最大の理由…


「そりゃあな。元から持ってたもんまで無くなったらたまんねえよ…呪われて身体が腐るなんて特大の地獄を味わってんだぞ?」


「ハッ!皮肉がきいてるじゃねえか。腐蝕スキルの持ち主自体が腐るなんてな」


「…あぁ、皮肉にしちゃ笑えねーがな」


地面に落ちた腕を拾ったベントが無造作に切断面をくっつけると腕が繋がる。


「聖水なんて使いやがって…お陰で繋がっても妙な感じだ」


腕を振りながらそういうベント…


「しかし…良いことを聞いたぜ。契約に姉御…従魔契約なら明確に弱点もあるよなぁ?」


「…てめえ、何考えてやがる?」


「簡単な事だろ、お前達と繋がってる本体を殺すのさ。魔力を辿ればすぐに見つけられるからな」


「俺がそれを許すと思うか?」


「くは!馬鹿か?許す許さないじゃねーんだ、もうすぐそこまで来てるんだからな」


ベントが指差したほうを見ると…


「…姉御を頼むって言っただろ。マヌケが…!」


帝国の船の船首に仁王立ちしていたのは一番カディスが遠ざけたかった人物…


「何で来ちまったんだ…姉御!」


カディスの叫びにリンは不敵に微笑む。


「カディス…あんた達、勝手に居なくなったら駄目じゃない。少し、ほんの少しだけね…怒ってるのよ、私」


リンとはまだ距離がある筈なのにカディスには一言一句しっかりと伝わり…いや、リンと契約している全てに伝わり、各々がその場で凍りつく様な悪寒を感じ…固まる。


やべぇ…目が笑ってねぇ。

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[一言] ちゃんと怒られるといい。絶対にちょっとじゃないけど。
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