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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第105話


「う……何があったらこうなる?」


辺りを包む濃密な血の匂いに臓物が飛び散った時特有の臭気が混じり吐き気を催す惨状…


「アレッツィオの奴等が例の“幽霊船“に絡んだと報告は受けましたが…これは酷い」


地面には首を狩られた哀れな死体が転がっているが…それはまだマシなほうだ。

その中でも悲惨なのは上半身だけだったり身体に穴が空いていたり…まるで無理矢理引き裂いた様な死体など直視するのも嫌になる。


「どうやらよっぽど機嫌を損ねたらしい。これではアレッツィオも生きているのか疑わしいな」


ここではよくあることだ、この島では力が全て。

アレッツィオは個人の武力では俺達に及ばないが組織力で均衡を保ってきた。その手腕は大したものだがそれを上回る力には対処しようがない。


「…(くだん)の船はどんな様子だ?」


「それが…特に変わった動きはしていないらしくて…生者に襲いかかる気配もなければアンデッド特有の気配もなく…ただ黙って船の見張りをしているらしいです」


「今回は…血塗れの時と少し状況が違うな。奴は暴れるだけ暴れて甚大な被害が出た訳だが…一体何が目的なのやら」


話している間に街のあちらこちらから人が集まってきて街の掃除夫達と混ざって死体を片付け始める。

この街では死体なんて毎日出る。昔は放置していたがそのせいで疫病が流行り危うく街が全滅しかける事態になった際…死体を片付けたら賃金を支払うという体制をこの街の権力者で作り上げたのだ。


「酒場のマスターから聞いた話ではシルフィードのロッシと傷顔(スカーフェイス)の女に従うスケルトン…ボスは傷顔(スカーフェイス)の女だという事が分かったらしいですがそれ以上は…」


あの人がそれ以上探れないという時点でこの街にいる大半の人間はその女に手も足も出ないだろうな。

目の前で片付けられていく死体を見ながら納得する。


「あまり会いたい部類の人間ではないが…会って話をしないと不味いな。このまま放置するとまた死体が増えそうだ…」


状況を考えるとあまり賢い選択とはいえないが…一応用心はしておくか。


「リンドウに連絡を。”使える兵隊を選んで連れてこい“とな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


引っ張ってきたは良いけど…なんか駄目そうね。


さっきからぶつぶつと何かを呟く男を見てリンはため息を吐く。


「たまにいるのよ、現実を受け止める事が出来なくて自分の世界に籠る奴…こうなるとちょっと面倒になるわ」


「どうしますかい?一応この街の偉い奴の1人みたいですし…使い道はありそうですがね」


カディスもさらっと怖いこというわね…まぁ確かに使い道は色々あるけれども。


「やっちゃった私が言うのもなんだけど…どうしようかねぇ?ロッシ、あんたはコイツがどの程度の立場か知ってるんでしょ?」


「…アレッツィオファミリーはこの街を支配している勢力の1つで…他には”煉獄”という武闘集団に今は出払っている”サフィール海賊団”が主な勢力だ」


三大勢力の内1つが…コレかぁ。


「なんだか大した事なさそうね。荒くれの集まる街にしてはレベルが低いっていうか…」


「それは仕方ない、数年前から聖教国と帝国のせいで有名な海賊はかなり狩られたからな。サフィール海賊団は帝国と繋がってるらしいが…他は基本的に見つかれば容赦なく沈められる」


「へぇ…胸くそ悪い国の名前が出てきたわねぇ。というかそれなら何でこの島は無事なのよ?普通は海賊の拠点なんて潰すに限るじゃない」


「この島の位置的に潰そうとするなら2つの国の海軍が協力しないと無理だからな、仮に教国がここを襲撃してきたとして落としきるまで帝国が黙って待ってると思うか?」


ああ、なるほど。

綺麗に三竦みになってる訳か…どこかが攻めたら残りの国が仕掛けるからそれを警戒して攻められない。

海でたまたま遭遇した海賊を狩る事は出来るが拠点を落とせる規模の艦隊を動かすとなれば…そりゃあ他の国は漁夫の利を狙ってくる。


「数は減ったがこの島は常に海賊や傭兵…その他の犯罪組織の兵隊なんかも多い。罪人や俺達みたいな海賊なんかはこの街が無くなれば色々と困るからな…攻め込まれた場合はどんなに組織間にわだかまりがあろうと掟に従って必ず防衛する。そうなると仕掛ければかなりの被害を覚悟しないと落とせない以上下手に手を出さずお互いに黙って牽制しあうしかないのさ」


「…昔からそれは変わらねぇのか。俺達が生きていた時代も大体そんな感じだったからな」


「まぁ…それもこれからはどうなるか分からん。数年前から海賊が狩られだしたのも帝国、教国共に厄介な奴がこのレーヌ海域に配属されたからだ」


「厄介な奴?」


「ああ、教国は”聖銀”帝国は”鉄の乙女”…コイツらがこの海域に来てから争いが激しくなった。両者ともに個人としても相当な実力者だと言われてる」


次から次に厄介そうなネタが転がってくるわね…こっちは黒騎士、血塗れ、幽霊船にと忙しすぎて休暇が欲しいくらいなんだけど!


「ま、そんな連中と正面から戦う事もないでしょ。…それより、そろそろ正気に戻って貰うとするわ」


未だにぶつぶつ言っている男に近づくとリンは男の顔を覗きこむ。


「…あぁ、これは…アレの出番ね」


アレ?とは…カディスとロッシは何の事か分からず黙ってリンの行動を見ていたが…


おもむろにスッと腕を上げるリン。


「戻ってこーい!!」


振り抜かれた平手がアレッツィオの頬に炸裂してパァンと音を立てる。

ぶたれたアレッツィオが綺麗に回転しながら吹き飛ぶとカディスとロッシは呆然とする。


「あ、姉御?」


「なに?」


パンパンと手を払ってもう終わった、みたいな空気を醸し出すリン。


「…なんで殴ったんで?」


カディスの問いはもっともだ。彼からすればただ頬を殴っただけにしか見えないし…殴った、という結果にしては派手に吹き飛んでいて笑えない。


「現実は甘くないって思い出させただけよ。自分の世界に閉じ籠っても何も解決しない…そうでしょ?」


言ってる事は至極当然の事ではある、あるけども…


「大丈夫、私もこれで母から何度も引き戻されたから」


幼い頃修行が嫌で部屋に引きこもったり、家出してみたりしたが大抵最後には母に捕まってお仕置きを受けたんだよね。

…ただ見た目は派手に飛ぶんだけど不思議と大して怪我はしないし何度もやられたけどその時は何でこうなったのか記憶が一時的に飛ぶので不貞腐れる事は無かったのだが…

ま、結局暫くしてからどうしてそうなったかは思い出すんだけどね。

とにかく…母直伝の技は拷問の末心が壊れた人間でも現実に引き戻す。


「…姉御が強い理由が何となく分かったぜ。よっぽど強烈な親だったんすねぇ」


「強烈な親…って言われたら否定は出来ないけどね」


そんな訳で自慢じゃないが何度も受けてきた技だし今までこれで失敗したことはない。

吹き飛んで倒れたアレッツィオを掴んで近くの柱に縛り付ける。


「……はっ?!……何だこれは?!何で縛られ…」


気が付いたアレッツィオが混乱してるのを見てリンはほらね?と言う。


「目が覚めた?」


「お前達は…何が目的だ?!誰に雇われた!?」


「さてねぇ?そんな事より…ちょっと聞きたいことがあるのよ、黙って答えるか…そうじゃなければ…ね?」


ゆっくりと腰に提げたサーベルを鞘から抜き放つリンにアレッツィオは息を飲む。


「血塗れってのを探してるんだけど何か知らない?噂でも何でも良いんだけどさ」


「血塗れ…?あんな厄ネタを何故わざわざ探す…」


「余計な事は聞かなくて良いから、知ってる?知らない?」


スッと持っていたサーベルを首筋に当てるとアレッツィオは叫ぶ。


「や、やめろ!こんな事してこの街から生きて出られると思ってるのか?!」


リンは叫びに対して少しずつアレッツィオの皮膚に刃を食い込ませ始める…少しずつ、少しずつ…


薄皮が切れて血がサーベルの刃を伝っていく。


「自分の立場は理解してる?今あんたは私に捕まって首に刃が当てられてる、もし私がこれを…」


思いっきり動かしたら…どうなるか位想像出来るわよね?と。


「仮にあんたが言うように私が殺されたとしても…その時…お前は確実に生きていないから関係ないでしょ?」


「敵に捕まって生き残るって相当難しいって分かる?生殺与奪の権利を握られるって時点でほぼ詰みだし…微かな希望があるとすればその相手が求める物を差し出す、もしくは味方が助けに来るのを信じて時間を稼ぐ、そして…相手を理解して最適な命乞いをするか…」


ニヤァっと邪悪な笑みを浮かべるリンが続ける。


「で…あんたは今その条件を何一つ満たしていないのにも関わらず私の機嫌を損ねようとしてるわけよ。なら後はどうなるか分かる?」


「…そこまでにして貰えないか?ソイツに今死なれると色々と困る」


声が聞こえた方に視線だけ向ける。


「…さてね、私は困らないし従う道理はないんだけど?」


「話をしたいだけなんだが…聞いてはくれないか?」


「いきなり現れて話を聞け、ね…ならまずは名前でも名乗ったら?あと…後ろに控えてる奴らに言っとくけどさ…ソレ(・・)抜いた時点で敵として認識するわよ」


突き付けていたサーベルをアレッツィオから離して肩に担いだ所で男がこれは失礼した、と言って頭を下げる。


「改めて、俺は”煉獄”のリーダーをやってる久遠(クオン)だ。こっちの男は俺の部下で竜胆(リンドウ)という。リンドウは俺が指示しない限り勝手に抜く事はないから安心してくれ」


なーにが安心してくれ、よ!つまり指示さえ出せばいつでも此方に仕掛けるって事でしょうが。

別に仕掛けて来ても構わないけど…ロッシにはちょっと荷が重いのが数人隠れてるのよねぇ…

全員まとめて、と行きたいけど目の前の2人を相手にしながらロッシをカバーするのは少し面倒…一応カディスなら大丈夫そうだからそれが救いではある。


『…クオン、あの女…確かしばし前にサフィールが連れてきた魔術師が言っていた人物ではないか?』


『…帝国が探してると言っていたな。…そうだとすれば見逃せないが…』


帝国の研究所が探し回っているという女…顔に傷がありオッドアイで長い銀髪…だったか?髪は短いが切ったのか?


『ただ…アレは中々難儀するぞ?濃密な死の気配を纏っておる』


『あぁ。アイツの目を見れば分かる…あれは地獄を見てきた奴だけが出来る目だ』


『1人は中の上程度の実力、だがあのスケルトン…アレも良くないな、連れてきた奴等は半分以上持っていかれる覚悟をした方がいい』


『リンドウ、お前にあの女の相手をして貰うしかなさそうだが…やれるか?』


『無論だ、もとより手合わせしたいと疼いていた所…あの様な輩は修羅の国にもそうは居らぬ』


念話で話すクオンとリンドウに対して黙っていたリンが口を開く。


「…挨拶が終わったんなら忙しいしどっか行って欲しいんだけど?」


いつの間にか火を点けた煙草を吹かすリンにクオンは首を振る。


「それは出来ない、俺達は最初に言った通りその男を消されたら困るしこれ以上死体をむやみに増やされるのを黙って見てる訳にはいかない」


「勝手に絡んできて随分な話ねぇ」


ぶっちゃけ暴れても問題はない、ロッシという足手まといを計算に入れてもそれは変わらない。


「姉御、やるのは構わねえが…ちっとばかし分が悪い」


「よねぇ。なら仕方ないか…」


リンは肩を竦めてアレッツィオに近付き…鞘に納めていたサーベルの柄を握る。


「おい!やめろ…!」


クオンの叫びと同時にリンドウがカタナに手を掛けたが…

一瞬リンの腕が動きを見せたかと思うとアレッツィオを縛っていた縄が切れてアレッツィオが地面にへたり込む。


「ほら、逃げて良いよ?別にこの場にいる奴等全員皆殺しにしても良いけど…あまり暴れすぎてもね」


ここでコイツらと戦ってもどうせまた次が来るだろうし…そうなればあれよあれよと言う間に死体を増やしていくだけになる。


アレッツィオが立ち上がって何か言いたげな顔をしているのに気が付くとまだ何か?と首を傾げる。


「折角拾った命は大事にしたほうが良いと思うけど?」


「アレッツィオ!早くこっちに来い。俺達はお前が“三頭会“にとって必要だから助けたが…もう一度自分から猛火に飛び込むのなら知らんぞ」


わ、わかっている!と言ってクオン達の方へ走っていく。


「あ~あ、無駄な時間使ったわね…ってまだなんか用でも?」


なんとなく答えは分かってるけど…


スッと前に出てきたリンドウだっけ?が真っ直ぐ私を見てくる。


「お主…どこであの技を?あれは修羅の侍が修練の果てに身につける秘技だ」


「別にどこでも良いでしょ。修羅だか知らないけど私には関係ない」


リンがそう言って立ち去ろうとした刹那…白刃が煌めきそれを止めたサーベルとの間に派手な火花が散る。


「…なんのつもり?」


「これを止めるか…!」


火花を散らしながら競り合う2人…


「帝国からお前を探していると聞いているんでな…アレッツィオが解放された以上こちらもやるべきことをやるとしよう」


クオンの言葉にカディスとロッシが剣を抜き払う。


「…あん?帝国だと…?」

「全くツイてない!今日だけで二大勢力を敵に回すなんて…」


「そういう事だ、お主には悪いが…しばし付き合っ……!」


リンドウが最後まで言う前にリンがサーベルに力を込めて刀を弾く。


「…ああ、面倒だと思って見逃してやったのに…まさか帝国と関係あるとはね………ふふふ…アハハハハハハハ!!!」


顔を抑えて笑うその後ろにいたカディスが一歩下がりながらロッシを引っ張る。


「やべえ…ありゃ完全にキレてる。ロッシ、すぐに離れるぞ」


「おい、どういう事だ?!」


「お前が捕まった後一度聖教国の奴等と戦ったんだが…その時も姉御はこんな感じだった」


カディスは未だに何故あそこまでリンがキレたのか理由は知らされていないが…あの時のリンは今でも身震いする程の殺気を纏っていた。


「あの時も…笑ってたんだ。何かのタガが外れたみたいにな」


その時は教国の船6隻相手だったが…全て1人で沈めた。あの光景は一生忘れやしねえ。


狂ったように笑っていたリンが唐突に静かになる。


「……疾走れ(はしれ)“豪墜閃“」


サーベルが地面を削りながら振り抜かれ衝撃が地面を切り裂きながら走り抜け、クオンが躱した後ろの建物に当たった瞬間…建物が轟音を上げて派手に吹き飛んだ。


「…は?」


目の前で起きた現象が信じられずに間抜けな声を出したロッシをカディスがもう一度引っ張る。


「とにかく巻き込まれるな、俺が言えるのはそれだけだ」

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