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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第104話


さて…と。


リンは食べながら酒場をそれとなく眺めながらその時を待っていた。


騒がしい酒場の中で数人が此方を時折確認しながら酒を呷っているのを視界に捉えつつリンもジョッキを傾ける。


「姉御…」


「わかってるわ。もう少し待ちましょ」


懐から煙草を取り出して燻らせるリンがずっと同じ連中を注視してることに気づいたカディス。


「情報収集ってさ…私の担当じゃなかったのよ」


「?」


唐突なリンの言葉にロッシとカーニャが疑問符を浮かべる。


「昔…率いていた部隊での話よ。部下からよく言われたわ“隊長は最後の最後まで動かないでくれ、情報を集める前におわっちまう“って」


「…ははぁ、なるほど。そりゃ…さぞソイツ等は苦労したでしょうね」


「ええ。きっとね…ただ私だって1人で動くことはあるしそういう場面は何度も…でもね?だからといって任務に失敗した事はなかった」


注視していた男達がゆっくりと席を立つ。


「情報なんてね、いちいち聞いてまわるよりも…知ってそうな奴等の場所まで案内させたら良いのよ。丁度いい感じにネズミもいるしねぇ」


ロッシは黙って聞いていたが海賊という荒くれである自分からしても目の前の女が言っている意味が理解出来ない…いや理解はしているがそれを実行するならそれ相応の実力を持たないと不可能だと知っているからこその“理解出来ない“だ。


男達が店を出る間際…もう一度リンに視線を向けてきたのを見てリンは口角を吊り上げる。


その顔を見ていたロッシとカディスは自分達に向けられたものでは無いと分かっていても背筋が凍りつく感覚を覚えた。


「そうよ、これよ…今まで忘れていたこれこそが…」


カディスに指摘されてから考えていた…この街に着いてからずっとあるこの感覚。


トラブルはあった、それなりに修羅場も潜った、だけど…わたしにはこの前までの日常こそが非日常だったと今は分かる。

…勿論それが嫌な訳ではないし今でもどうにかして帰れるのなら帰りたいが…


「理屈じゃないのよね。この感じは」


「姉御…悪い顔してますぜ?」


「ふふ…まぁね。…さて、そろそろ行くわよ」


リンは立ち上がって近くにいた店員に金を払うとまだ食べていたカーニャの肩を叩く。


「じゃあね、カーニャ」


「ちょ、ちょっとまって!私も…」


「駄目よ。これ以上は見逃さない…分かるわね?」


ビクッとするカーニャの耳元に顔を近づけて囁く。


“次はもっと上手くやることね。…勿論他の人間に、だけど“


その囁きはカーニャを芯から凍りつかせるのに充分だった。


リン達が店を出るまで動けなかったカーニャ…そこに酒場のマスターがやってくる。


「カーニャ、お前は腕利きだが…まだ相手を見る力が足りねえよ。今回は生きてるがあんな化物にちょっかいかけてたら…消されるのも近いかもな」


「うぅぅ…」


こ、怖かった!本当に…!アレッツィオファミリーからの依頼だから引き受けた、そこにロッシという知り合いが居たから、大丈夫だと…そう思った。


全然大丈夫じゃない、食事をしている間は何も感じなかったのに…さっき囁かれたあの一瞬だけは…心臓を鷲掴みされた様に生きた心地がしなかった。


「マスター…部屋、借りていい?」


「良いけどよ…ってチビるほど怖いならやるんじゃねえよ…これに懲りたら見る目を養え!」


あと、そこ掃除しろよ?といってマスターはカウンターへと戻っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ロッシ、あんたは知ってたでしょ?カーニャがアイツらに合図してたってこと」


前を歩くリンの言葉にロッシは沈黙する。

それっきり黙って歩いていたリンが急に立ち止まると…目の前には酒場から出ていった男達以外にも10人程の荒くれ…


「別にあの程度は見逃すけどさ、私って裏切りとか嫌いなんだよね」


此方を囲むようにして動く男達を無視してリンは続ける。


「だからさ…これ以上は裏切ってくれるなよ?」


言葉と同時にカディスが無言で剣に手を掛けたがリンは首を振って止める。


「…姉御?」


「いつまで待たせるの?勿体ぶってないで出てきたら?」


…へぇ、あくまでも出てこないんだ?


リンが一歩前に踏み出すと同時に奥から二人…周りの雑魚とは違う雰囲気を漂わせる男たちが前へ出てくる。


「…待て、こちらとしては争うつもりはない」


「争うつもりがない?これだけ取り囲んでおいてそれは無いんじゃない?」


馬鹿にしたような声音で言いながら見渡すリン。


「…あっちの屋根、路地の奥、あとその建物の中にも5人位か?隠れるならもっと上手く隠れろ、素人が」


「……?!…これは参ったな、まさかそこまでバレるとはね。用心の為にこうしてるだけで争うつもりがないのは本当だ、港での話を聞かせてもらいたくてね…一応俺の管轄である以上何でも好きにやられちゃこっちも少々不味いのさ」


港での話ねぇ…


「ちゃんと指定された金額は払ったけど?何か問題でも?」


首を傾げるリンの態度が気にくわなかったのか隣でずっと睨んでいた大柄の男がリンの前に出てくる。


「…ボス、やはり締め上げますか?この女…」


見るからに力が自慢だと主張する身体を見せつけてくる男にリンはため息を吐く。


「脳ミソまで筋肉に支配されてるのかしら?ボスが指示してもないのに出てくるなよ、カディスみたいにスケルトンじゃあるまいし…脳ミソ入ってる?…ああ、でもそのスケルトンですら黙って控えてるのにそれも出来ないなら脳ミソなんて入ってる訳ないか!」


「おい…やめ…」


隣の男が止める声も聞かずにリンの顔を掴む大男と同時にカディスが剣を煌めかせて腕を落とそうとした瞬間…リンは掴まれたままカディスを手で制す。


「あー。本当に…最悪だわ。こっちの世界の大男って風呂に入らないのが普通なわけ?」


ミシミシと音が出るぐらいに力を込めている筈の男に構わずそう言い放つリン。


「…離せ、汗臭いんだよ…筋肉ダルマが!」


リンが叫ぶと同時に腕を掴み、太い腕を握り潰す。

鈍い音が響き腕の骨が砕けて声にならない悲鳴をあげて膝をつく男に…


「丁度いい位置に頭がきたな?」


思いっきり振り抜いた蹴りはボッという音を立てながら首を飛ばし周りに血の雨を振らせ…痙攣していた死体目掛けてヤクザキックをブチ込んで弾き飛ばす。

派手に回転しながら死体は男達の頭上を通過して建物に激突、建物が衝撃で吹き飛んだ。


「…カディス!1人だけ残せ。後は…」


獰猛な笑みを浮かべるリンが首を掻き斬る仕草をするとカディスが返事と同時に近くにいた男を叩き斬る。


「ま、待て!!」


視線を向けたリンは男に構わず1人、また1人と斬りかかってくる男達の息の音を止める。


「…そもそもこっちは最初から力で捩じ伏せる事が出来るのに話なんてする意味ある?」


敵の男が持っていた剣を取り上げて男に突き立て、返り血で濡れる顔も気にせず続ける。


「周りに部下を引き連れて囲んでくる相手が争うつもりはない?話がしたいならもっとまともなやり方をするべきだったな…阿呆が!」


暫くしてその場にはリン達3人と立ち尽くすボスと呼ばれた男しか生きた人間がいなくなった。


「まさかここまで暴れることになるとは…姉御の方が悪党って言われても違和感ないですね?」


カディスがサーベルに付いた血を払って鞘に納める。


「なによ?あっちから手出ししてきたんだから仕方ないじゃない!」


「で?…ロッシ、あんたもこうなる前に踏みとどまる事を勧めるわよ?」


私…敵には一切容赦しないからねぇ。


そう言って顔についた血を拭うリンにロッシは片膝をついて頭を下げる。


「2度と裏切りと取られる行動はしないと誓う!それで…」


ん、と頷くリンがロッシに手を差し出す。


「分かればいいのよ、最初に船を沈めたのはこっちだし…用事が終わるまで一緒に居ないといけないからさ、もう面倒なのはやめてよね」


「……あー、それはそうとして姉御。コイツはどうするんで?」


カディスが放心している男を指差す。


「まぁ…とりあえず協力してもらいましょ。…いいわよね?」


男の顔を覗きこんで笑うリンだったが…男の目には全く目が笑っていない冷たい笑みが映る。


悪魔…だ。


頷くしかなくなった男は観念してガックリと肩を落としたのだった。

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