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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第98話


「キリがない!ベアト!あっちのデカブツ…抜けるわよ!?」


目の前に迫るキラーウルフを斬り捨てながら叫ぶ。


「分かってる!だけどこっちも手が足りないのよ!!」


そう言いながらも腕を振ると走り抜けようとしていたオーガを炎の柱が包み燃やし尽くす。


「魔力だって無限じゃないってのに!リン!あんたは大丈夫なの?!」


リンに視線を向けるとキラーウルフの群れに襲われていたが…刀が煌めくと襲っていたキラーウルフは残らず両断されていた。


「……相変わらず化物よね、あんた」


「失礼ね。…大氾濫ってどうやったら止まるの?」


狩り尽くしたリンがまた遠くから上がる土煙を見据えながら聞くと「大氾濫の核となる存在を倒す、それだけね」と地面に大剣を突き立てて座り込むベアト。


「…座ったら立てなくなるわよ?」


「これくらいの疲労で立てなくはならないから大丈夫」


そう、と言って懐から煙草を取り出して火を灯す。


「あんな感じで一定の波を越えたら次の波…みたいだったらどうにかなりそうだけど」


「これは、第一段階。良ければこの段階がずっと続く、悪ければ…」


「悪ければ?」


「核となる存在が早めに動き出す。そうなったら…波を無視して全部来る」


あぁ、それはしんどいな。

今でも私達以外は門の防衛をしているが疲弊してる…私達が止められなかった魔物が押し寄せたら止めることは出来ないだろう。


「リン、あんた…生徒達はどうしたの?」


「避難する住民と行かせたわ。あっちならシーラ姉さんが守ってくれるからね」


「なるほどねぇ。まぁあっちなら領主様とカリムもいるし確かに安全ね」


「ベアト、アンタこそガスはどうしたのよ?全然姿が見えないけど…」


「アイツは…偵察よ」


偵察?


「ああ見えてアイツって隠密スキルが高いのよ。ほら、アンタの生徒が拐われた時も誘拐犯に気付かれずに追跡してたでしょ?あの二人相手に気付かれないのってまぁ難しいんだよねぇ」


普段そんな素振りを見せないから分からなかったな。ガスは私達と同じバリバリの前衛役かと…


「…アンタ、今私の事アンタと同じバリバリの前衛だって考えなかった?言っとくけど脳筋はアンタだけだかんね?!あたしは元々後衛…」


「なにを下らない言い争いしている?どっちも脳筋だろ」


いつの間にか現れたガスがそう言った瞬間、リンとベアトの拳が腹と頭に叩きこまれて呻く。


「ぐぁ…?!……考えるより手が先に出るから脳筋って言われるんだろ……」


「乙女に向かって脳筋とかほざくからよ。…で?偵察の結果は?」


「……正直言って今すぐ街を放棄して逃げるべきだな。今向かってきている群れの中にタイラントドラゴンが4匹いた」


「…ホントに?」


「あぁ。間違い無い。だが問題はタイラントドラゴンじゃない…その後ろにとんでもない奴がいた」


「タイラントドラゴンよりヤバいの?」


「ベアト、お前は知ってるだろ?魔族の国に伝わっているお伽噺…」


「お伽噺…?……って!まさか…」


「ああ、多分な」


「何よ?私にも教えてよ?」


「ベアトに聞け。その事に関してはベアトのほうが詳しいからな」


「…あたしってさ魔族の血が入ってるのよ。といっても先祖にいたって位だったけど…先祖返りってやつで色濃く特徴が出ることがあるのね、それがこの膨大な魔力と赤い髪なんだけどさ」


髪を弄りながらそう言うベアト。


「昔からずっと両親に聞かされてきた話にご先祖様の話があるわけよ。昔あった人間と魔族の大戦…勇魔大戦の中に出てくる魔族の英雄…黒騎士があたしのご先祖って話」


「…その黒騎士が関係あるの?とっくに死んでるんでしょ?」


「そりゃあね、でも…居たんでしょ」


頷くガス。


「居た、見た瞬間にお前から聞いた特徴を思い出した。黒く歪んだ靄を纏ったフルプレートメイル…背丈程もある大剣、あんな強烈な存在感は初めてだった」


「大氾濫ってどういう理屈か知らないけどホントに何が核となって出るか分からないのよね…それこそ強力な魔物だったり、古代兵器だったり…古の英雄だったり…ね」


「実際どのくらい強いのか分からないんじゃない?」


「それはそうだけど…聞かされた話で覚えてるのが何人もの人族の勇者を葬った、とか…魔王に反旗を翻して殺した、とかだし…」


「とにかく…3人で挑めば勝てるかもしれん。勝てなくとも逃げるくらいなら出来るだろ」


「そう願いたいわね…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あれからどれくらいたったか…ひたすら迫る魔物を斬り捨て、撃ち殺し…そうしてギリギリで食い止めていた。

永久に続くかと思われたこの時間にも終わりが来た。


巨大な金槌を振り下ろした1つ目の巨人…ギガンテスがリンの刀に貫かれて倒れ伏すと周りに生きている魔物は居なくなった。


「……っ、これで…終わり……??」


刀を杖にして立ち上がったリンが見回すが生きている魔物はいない…ベアトもガスもボロボロではあるが無事に生きている。


だが……


「…あれが、そうみたいね……」


リンは全身が固まったかのように動けない。

魔物の死体の中をゆっくりと歩いてくるソレはまるで“死“そのものが歩いていると思える程の恐怖を感じさせる。


自然と刀を握る手に力が入る…だけど動けない、今動けば確実に死ぬ…そう感じた。


『この魔力…勇者…?また…“召喚された“?』


「勇者…?召喚?」


歩いていた漆黒のフルプレートメイルの騎士は手に持っていた大剣を軽く振る…本当に軽く振った様に見えたがその一振で周りに転がっていた大量の魔物の死体が大剣に吸収されて消えた。


『…あなたは、勇者…?』


「残念だけど、勇者なんて呼ばれた事もないしなる予定もないわ」


『……そう、あなたも…祐奈と同じ事を…』


祐奈…?やけにハッキリとした日本語の発音ね…


「それで?あなたは何者で私達をどうしたいの?」


『……私は……戻りたい……あの場所に…あの日々に。だけど…私には…出来ない』


ゾクッと背筋が凍りつくような感覚と共に全身に警告が走る。

リンは無意識に刀を上げた、それは反射的な自己防衛…

ギィン!という音と衝撃…リンが防いだ黒騎士の一撃はリンが今まで経験したことが無いくらいに重い一撃だった。


逸らす所か耐える事も出来な……!


身の丈ほどの大剣とは思えない程軽やかに煌めく剣閃は下からの斬り上げでリンの刀を弾き、続く振り下ろしでリンの身体を斬り捨てる。


耐えられないと分かってすぐに全力でステップを踏んだお陰で致命傷にはならなかったが大剣の間合いから逃れるには足りなかった。


「リン!?…この!」


ベアトがすぐに駆け出すが黒騎士は地面にめり込んだ大剣を躊躇なく手放すと手元に別の、禍々しい意匠の剣を取り出して空を斬る。


ガスはベアトを援護するために動いていたが黒騎士の不可解な行動の意味を目の当たりにする…

黒騎士が振った剣の刀身がベアトの後ろに現れて右足を断ち斬り…そしてその光景をみたからこそガスは自身に迫る刃に気付いた。


しかしなぜか不自然に剣閃がずれて身体を斜めに斬られたが死ぬような深傷は避けられた。


『…………やっと身体の自由が……』


斬られて膝をついたリンに黒騎士が近づく。

黒騎士は手に持っていた禍々しい剣を振って手元から消すと弾き飛ばしたリンの刀に手をかざして手元に引き寄せリンの目の前に投げる。


『…良い剣だね。それなら充分私を殺せる』


殺せる…?何を言っているのよ……?


「何がしたい?あなたの目的が私には分からない」


『もうじき私の意識はまた封じられる、さっきみたいに身体が勝手に動かされる…今も耐えてるけど長くは持たない』


「あなたは…誰かに操られている?」


頷く黒騎士が指を鳴らすと兜が消えて素顔が現れる…長い紅蓮の髪もそうだが…リンは驚いて目を見開く。


「え…?」


似ていた、こちらを見つめるその瞳、紅蓮の髪、そしてその顔は…


「ベアト……?じゃあさっきベアトが言ってたご先祖様って…」


「やっぱり…そういう事か。私は…」


片手を振って何事か呟くとベアトとガス、私を暖かい光が包む。


「今の私じゃこれが精一杯…だけどこれで時間が経てば傷は癒える」


そう言った彼女の顔は何故か歪んでいて汗が頬を伝っていく。


「私はフィリア…あなたは?」


「リンよ」


「そう…リンね、何だか祐奈を思い出すなぁ」


どこか寂しげな顔をしたフィリアだったが…


「ねぇ、リンは私を止めたいんだよね?…私も元の場所に帰りたい…いや、帰らなきゃいけない」


まだ、やらなければいけない事があるから。


「…どうしたらいい?」


「さっきも言ったけどもうすぐ私の意識はまた封じられる。隷属の魔法のせいでね…今もずっと全身が切り裂かれる様に痛いせいであなた達に掛けた回復もあまり強力なものを使えなくて…」


申し訳なさそうに顔を伏せたフィリアだったがすぐにリンへと顔を向けて言う。


「私を…殺して。元に戻るならそれしかないから」


「殺して戻る?大丈夫なの…?」


「問題ないよ、多分意識だけがこちらに飛ばされてるだけだから。この肉体も意識を元に構成されてるみたいだし…お陰で隷属紋なんて余計なものまで再現されてるけどね」


「…わかった、それで良い…っ?!」


一瞬バチっとした衝撃が走る。


「約束…ね、これで契約は終わった…そのままじゃ無理だから私の力を少しあげる。…じゃあ意識が無くなる前に…お願い」


リンは刀を握ると鎧を解除したフィリアへ向けて刀を構え…心臓目掛けて突き刺した。


「ごめん…!」


刀に伝わる感触…何度となくやってきた事だが…今までになく不快で…


「…っ!?…だ…駄目…!」


心臓を貫かれたフィリアの輪郭が歪んで消えかけた…だがすぐにフィリアを黒いオーラが包む。


そう、上手くはいかないって訳ね…だけど約束は約束…なら私は…!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


馬鹿だった、俺達は…本当に。


3人なら勝てる?逃げるくらいは?


俺は強くなった、それこそ血の滲む努力をして冒険者として実質最上級まで登り詰めた。

だが…そんなものに意味は無かった…どうしようとも勝てない敵、逃げる事すら許されない…絶望が形になったような存在が目の前にいる。


斬られた傷を抑えて近くで倒れているベアトリクスへと近づく…

最初の一撃でベアトリクスは片足を持っていかれ、俺はギリギリ生きている様な有り様だ。

ベアトを抱き寄せたとき俺達を何か暖かい光が包み少し身体が楽になった。

黒騎士とリンがいる場所へ顔を向けるが何か強力な結界があって何も見えない…

暫くして結界が解除されて見えた光景…リンが何故かベアトに似た女性の心臓を貫いていた。


そこからだった、貫かれた女性から黒いオーラが溢れだしてその身に漆黒のフルプレートメイルを纏う。

そして…凄まじい魔力を練り上げ始めた所でジンが転移してきた。


「大丈夫か?!」

「ああ、だが…」


ジンもあの異常な魔力を察知して来たんだろう…すぐにジンは俺達を抱えるとリンにも来い!と叫ぶ。

だが…振り向いたリンは首を振る。


”私は行けない。ベアトとガスをお願いね”


馬鹿な事を言ってないで来い!と叫ぶジン


「無理よ。もう契約したからね…彼女を止めるって」


「彼女?なにを言っているんだ…?早坂さん!頼むから早く…!」


「ガス、普段はふざけてるけどよく皆を見ているのはあんただから…皆をお願いね」


待て


「ベアト、生きて帰って…あの約束…守んなさいよ?」


待てって…!


「階堂君、カオリをちゃんと見ていてあげてよ?あの子…夜中に1人で泣いている時があるから」


そう言って最後に付けていたホルスターごと愛銃をジンに投げて渡す。


「階堂くんにあげる、もっと気の利いた物をあげたかったけど…無理みたいだし」


それじゃあまるで…遺言だろうが!


”じゃあまたね”


そう言ってこちらに背を向けたリンの姿が歪む…


「すまない…!」


俺とベアトを抱えたジンがそう絞り出した声と同時に視界が切り替わり街の門の内側へと転移した。


その直後…急に空が暗くなったのを感じて見上げると…


「なんだよ…あれは…」


「あれは…広域殲滅魔法”メテオインパクト”なのか…?」


物語にしか登場しない禁術…それは流れ星を引き寄せる魔法だとか言われていたが…そんな大魔法を使える存在がいるなんてあり得ない。


「ガストロノフ!俺が結界を張るから補助してくれ!」


「しかし俺だけでは…!」

「…あたしも……いけるよ…!」


「無理すんな!お前は足が…!」

「大丈夫…、何故か少し調子が良いから…!立てなくても魔力は使える…!それに…生きてあの馬鹿に文句を言ってやらなきゃ…ね!」


「もう時間がない、来るぞ!」


閃光、轟音…この世の終わりかと思える破壊の嵐が結界ごとカルドナの街を飲み込んだのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「つまり…この湖はその魔法のせいで出来た、と言うわけですか」


「…ああ。俺に言えるのはここまでだ、仲間を連れていかなきゃならんので失礼する」


力なく立ち上がると男は先程の片足を失っている女性の元へと行くと抱き抱えて崩壊した街へと消えていった。


「…魔法1つでこんな事が出来るのか…?」

「周辺の生還者に聞いた所…死者…というか行方不明者が一名だけみたいです。街は崩壊していますが…」


その先を言おうとした部下に首を振る。


「絶対にその先の言葉を言うなよ、俺達からすればそうかもしれないが…当事者、その家族にはそうじゃないんだ…」


視線の先には冒険者の男が立ち尽くし、湖の方を眺めながら涙を溢していた。


「…行くぞ、至急王都に戻って救援を送って貰わねばな」


こうしてカルドナを襲った大氾濫は幕を閉じた。

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