『噂の街』
街は今日も「噂」であふれている。
芸能人の不倫、政治家の裏金、友達の秘密、そして都市伝説。
とある街の一角。といっても、裏路地の普段あまり人が通らないような場所。
そこに、その店はひっそりとあった。
『噂屋』
取り立てて繁盛もしていないような、寂れた看板。
ドアを開けると、緑の観葉植物に白い机が1つ。その上には赤いパソコン。
応接間セットが手前に1つ。そこには、可愛らしい少女が心配そうに座っている。
白い机の向こうには、眠たそうな、ぼさぼさ頭の女が座っている。
そこに、1人の男が飛び込んでくる。
「大変です!マコトさん!!やっぱりですよ!JOKERがでました!」
「入るときはノックくらいしなさいって言ってるでしょ?ふぁー。」
マコトと呼ばれた女は、白い机の向こうで眠そうに答えた。
「場所は?」
「みさき街の東大橋です。」
「ビンゴ。ふぁー。じゃあ寝るわ。」
「ちょっとマコトさん!行かなくていいんですか!」
「もう私の仕事は終わってるから。じゃねー。」
マコトはそういうと机に俯せた。
「あ、依頼人に結果報告しといて。反町探・偵・見・習・い。よろしく。」
「もー。いつもこんなのばっかり。」
反町と呼ばれた男は、しぶしぶ店を出た。
夜の東大橋。
JOKERは、1人の少女の背後に立った。手には真っ黒な銃。
「噂通りだな。好みの女がここにちゃんと現れた。」
少女は驚いて振り返る。
JOKERは銃の引き金を少女に向けた。瞬間、サイレンの音が鳴り響いた。
大勢の警察が突如として取り囲む。
「お前の出現場所は既に情報が入っている。観念しろ!」
JOKERは訳がわからなかった。
ターゲットの少女が1人になる噂は、確かな筋から手に入れたはずだ。
「こうなったら!」JOKERは迷わず引き金を少女に向けて引いた。
カス。カスカス。弾が入っていない。JOKERは完全に混乱した。
遠くで黒い影たちがその様子を眺める。
「やっぱりか。」
JOKERまもなく逮捕の情報を得た密売人たちは、
足がつかないよう、JOKERに銃の偽物を回していた。
JOKERはなすすべもなく御用となった。
「残念ね。あなたの噂、もう街中でもちきりだったの。あなたの好みに見えたかしら。」
少女はウィッグを外した。そこには、凛々しい女性刑事がいた。
女性刑事は、ようやくやってきた探偵見習いにウィッグを渡した。
「噂屋に、指定の口座に振り込んどくって伝えて。・・・妹の分、貸しが出来た。」
「あ、結果報告は?」探偵見習いはウィッグを鞄にしまいながら聞いた。
「今度まとめて送る。とりあえず、妹に家に戻るよう伝えてくれ。JOKERを護送しないといけないのでな。」
女性刑事は言い終わりざま、JOKERに強烈な蹴りを入れる。JOKERが雄たけびをあげた。
「つ、伝えます・・・。で、では、また噂屋をご贔屓に。」
探偵見習いはそそくさと現場を離れた。
女性刑事は空を見上げる。
・・・『噂屋』か。
たかが「噂」とばかにしていたが、この街には必要なのかも知れない。
噂を知り尽くし、噂を生み出し、そして噂でしか知られない存在が。
「へっくしょん!・・・誰かが噂してるな」
マコトは、眠たそうにパソコンを開いた。