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SINTA(しんた)  作者: シマリス
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奈落の底へ落ちる信太。

『お疲れさまでした!』


『おつかれー!』


夜勤バイトも終わり帰宅する信太。


いつもの道を一人暮らしのアパートへ向かう。


オーナーから聞いた小池宅の前を自転車で通りすぎる。


大きな庭付きの白い外壁のモダンな家。


庭先で花に水やりをしている若い女性の姿。


確かに、週刊誌にでも出てくるモデルさんのような美しいスタイルと顔立ちをしている。


玄関前のシャッターが開き1台の高級車が出てきた。


スーツ姿の落ち着いた紳士が運転している。


彼は、庭先にいた女性に手を振り挨拶をして車庫を出た。


『あの人が、小池さん……俺も、あんな暮らしができる日が来るんだろうか。』


信太は自宅のアパートへ帰って風呂に入りビールとつまみ、それと鶏肉で軽く食事をして寝床に就いた。


昼過ぎまで寝ていただろうか……玄関ポストに1枚のチラシが入っていた。


【あなたの夢を叶える、ウロボノス銀行へ、預金額が10倍になる!、お急ぎください。


私たちは、あなたを幸せな未来へ導くパトーナーです。】



『洋司が言っていた、やつだ。』


信太は服を着替えて、もらったばかりの給料を持って早速、ウロボノス銀行へと足を運んだ。


銀行の自動扉を開くと、直ぐに案内係の女性が声をかけてきた。


『当銀行へようこそ。』


『番号札をお取りください。』


108番……そんなにお客がいるのか?


周りを見ると、どの客も信太と歳があまり変わらない青年ばかり。


眼鏡の細い男がもらったばかりの給料を換金用紙と、ともにカウンターへ差し出した。


しばらくして封帯がしてある百万ウロボノス紙幣が眼鏡男に手渡された。


眼鏡男は、小踊りして喜んでいる。


何やら、カウンターの受付係の女性から説明を受けている。


眼鏡男は、うなづいて銀行の自動扉を出ていった。


『108番のお客さま。』


信太は給料袋を握りしめてカウンターへ向かった。


『換金すると手持ちのお金が10倍になるって聞いてきたのですが本当ですか?』


カウンターの受付係の女性はニコリと笑い答えた。


『さようでございます。』


『お手持ちの金額の10倍のウロボノス紙幣をお渡ししております。』


所定の換金用紙に署名し金額を入れ五万円をカウンターへ差し出した。


『しばらく、お待ちください。』


彼女は、何やらコンピューター画面を操作して、その後、五十万ウロボノスがカウンターへ差し出した。


一枚の説明文が書かれた用紙が手渡された。


『当銀行のウロボノス紙幣は、ウロボノス自治都市でしか、ご利用できません。』




『……はぁ?』



『俺、そんなこと聞いてないし!』


『やはり、俺、換金やめとく!』


『ウロボノス紙幣と、円を交換してくれ。』


受付係の女性は笑顔で答えた。


『当銀行は、一度換金したお金は再度換金いたしかねます。』


『ご了承くださいませ。』


カウンターを叩きつけ怒鳴る信太。


『こんなん、詐欺だぁ!』


『俺の金、返せ!』


カウンターに置いてあった花瓶が振動で床に落ちて割れた。


すると、黒づくめのサングラスかけた屈強なガードマンが信太を両脇から捕まえた。


支配人らしき人物が現れて信太の前に立った。


『お客さま、騒ぎを起こされて当銀行としても困ります。』


『この花瓶は、当銀行の大切な備品で、とりわけ創立者が気に入っておいででした。』


『弁済金として、百万ウロボノスを当銀行へお支払いただきます。』


信太は、更に怒鳴った。


『俺に十万円、払えていうのか!』


『俺、はらわねーぞ!』


支配人は首を傾げて考え込んでから話し出した。


『それならば、労働力でお支払して頂くしかございません。』


信太は黒づくめの男たちに無理やり銀行の裏庭に止めてある大型ワゴン車へと詰め込まれた。


中には、既に5人の若者が入れられていた。


『お前もやっらに、はめられた口か……』


髪の長い男が話し掛けてきた。


ワゴン車の窓は鉄格子になっていて黒いシールで外の様子は伺えない。


ブルルルーーーン


エンジン音が鳴りワゴン車が動き出す。


『どこへ連れて行く気だ!』


信太はワゴン車のドアを叩きつけ叫ぶ。


『そんなことしても、ムダだ……』


赤い髪の男が呟いた。


『俺、以前、聞いたことがある。』


『奈落の底にある強制労働施設に運ばれる借金奴隷たちの話さ…』


『夢と絶望は一枚のコイン……どの目が出るか……投げてみるまでわからないもんさ。』



ワゴン車は、どれくらい走ったのか……


知らぬ間に寝てしまっていた信太は怒号の声で起こされた。


『お前ら!』


『出ろ!』


長いこん棒を持った大柄の制服姿の男が俺の首根っこつかんで、車外へ投げ出した。


すると目の前には大きなトンネルが口を開いていて


その中から、ひっきりなし大量の土砂を積んだダンプカーが出入りしている。


トンネルの側道を歩くように強制された5人の青年。


『もしかして……これは、タコ部屋とか言う重労働現場。』


長い髪の男が信太のその質問に答えた。


『その通りだ……これから俺たちは、この暗くてきっい職場で強制労働を強いられるわけさ。』


こん棒を持った大男が叫ぶ。


『お前ら!、さっさと歩け!』


『逃げようなんて、へたな事、かんがえるなよ!』


『逃亡したものは、更にきっい労働を課してやるからな!』


信太は暗いトンネルを進み、とうぶん、見れないであろう青空に別れを告げた。



トンネルの真上の頂きには……


ウロボノス帝国のロゴが燦然(さんぜん)と輝いていた。


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