8.
家の裏から見張りの様子を窺い、こちらを向いていないのを確認してフリューゲルと2人でコソコソ移動して村の入り口に置いてある荷車の影に隠れた。何かこういうゲーム日本にいた頃にあったよな。気分は某ダンボールに隠れる爬虫類っぽい名前の主人公だ
…ってうっかりつられてるが何でこんなコソコソしてんだ俺ら
「やっぱり見張ってるか…」
「フリューゲル…まさか外に探しに行く気ですか」
もし本当に双子が剣を探しに行ったんなら、大人に相談して村人総出で捜索するべきだ。探しものには人海戦術が有効だし、何より森にはボアが出現しているんだから危険極まりない
助けを呼んだにいちゃんたちが騎士を連れてくるのを待ってたんじゃ到底間に合わないから、これでも苦肉の策だ
オジさんに相談する事を勧めたがそっぽを向かれてしまった。不可抗力とは言え約束を反故にされたのが余程腹に据えかねているのだろう。これだから子どもはメンドクサイ
引き止めても言うことを聞かないし、見張りの大人にチクりに行こうとすると逆に引き止められる。オジさんを探しに行ってる間にフリューゲル1人で飛び出して行ってしまうのは目に見えているしで、そうなるとミイラ取りがミイラになるのが火を見るより明らかだ
「オレは兄貴だからな。あいつらはオレが守るんだ」
「いつもの森でも危ないのに今は魔物がいるんですよ?まだギリギリ日は出てますがすぐ夜になりますし…」
「何だよ。怖かったら帰れよな。でも父さんたちには言うなよ!」
どうにも彼の決意は覆らないようで
ああ、もう!
行くよ行きますよ!
まだ幼い双子を見捨てるのも、まだ10歳のガキである幼馴染を見て見ぬ振りするのも寝覚めが悪過ぎるし、どれだけ濁った目をしていても決して外道じゃないんだ俺は
見張りの気を逸らすため、その辺に転がっていた石ころを村の入り口が死角になる方へ思い切り放り投げる。ビクリと反応した見張りの人がそっちへ向かったのを見て俺たちは全力疾走した
草木の影に潜り込み、村の方を見るといなくなっていた見張りが首を傾げながら戻ってくるところだった。脱出は成功。ホッと息を吐き出して、物音を立てないように隠れながら森へ急ぐ
フリューゲルの腰には小振りのナイフ。俺は手ぶら。まぁとてもじゃないが魔物はおろか通常の動物を相手にするのも不安極まりない装備だ。よって双子の捜索と保護を最優先にして、魔物や他の動物たちを見つけても相手にしないでまず逃げる、とケンカになりつつ約束させた
松明なんかの火種も持って来ていないし、日が落ちきる前に発見して村に帰りたいが……その前に勝手に村を出たのがバレて捜索隊が追いかけてくるのが先かな…
それにしても、だ
今世で初めて足を踏み入れた森の中は異様に静かだった
「フリューゲル」
「何だよ」
恐らく魔物が現れた影響で動物たちが警戒しているせいだろう。この様子なら魔物以外の動物に襲われる心配は無さそうだな
森の雰囲気に気圧されていたフリューゲルに声をかけ、発見した物を見せる。足跡だ
俺やフリューゲルのより更に小さなそれは、まず間違いなく双子のチビたちの物だろう。こんな森の中に子どもの足跡があるなんて普通じゃ考えられないし
「あいつらのか?」
「でしょうね。あの子たちの足ならそう奥には行ってないと思います。まだ近くにいるかも」
「よし、行くぞ」
グッと俺の手首を握りながら歩き出すフリューゲル。そういえばこいつも森に入るのは初めてなんだっけ
少し震えるその手に気付かないフリをしながら、俺たちは双子の足跡を辿った