3.
どうも、ユーディットです。9歳になりました
年に1、2回やってくる吟遊詩人に挙動不審になる(やめてぇえええ俺の最期のシーンや俺を讃える詩をリクエストするのはやめてぇえええ!!)以外は概ね何事も無く過ごしています
簡単な畑仕事や家事仕事を手伝いながら、14歳になり、更に光り輝かんばかりに美しくなった姉上に色目を使う馬鹿どもを、この濁り切った目でにらみつけ追っ払う毎日です
俺のメンチに負けるような腰抜けには、欠片の希望も与えないぜ
「ユー?ユーディットー?」
「何ですかー?姉さん」
畑で雑草毟りに勤しんでいたら件の姉上に呼ばれたので立ち上がる。が、それに気付いた姉上は少しだけムッとした顔でやってきた
あ、やべ
「もう、ユーディット!何なの、その格好は!」
姉上ご立腹の理由は俺の格好だった
サイズが合わずダボっとした作業用の皮ツナギを無理矢理はき、朝に着ていた姉上お下がりのワンピースは、汚れないよう部屋でさっさと脱ぎ捨ててきている
おまけに綺麗におさげにしてあった髪を適当に上げて、被った手拭いで縛ってまとめていた
「いや、あのこれは…」
「顔も泥だらけ!また汗を拭くのに手拭いを使わなかったんでしょう」
そう言われてみれば、無意識に土の付いた手や腕で顔を擦っていたかもしれ…すいません嘘ですワザとです。横着しました!
「一旦家に帰って綺麗にしていらっしゃい!髪は後で結ってあげるから、梳かしてから織屋に来ること!」
「うえぇ…」
「そんな嫌そうな声出さないの…。実際に織るのはまだまだユーには早いけど、そろそろ教わり出してもいい頃なのよ?」
織屋、と言うのは機織り小屋だ
ナバルの村は主に農業と狩猟と言う自給自足で成り立っており、特産品は女たちの織る通称ナバル織と呼ばれる布である
地球にある麻とよく似た植物の繊維を、赤や黄色の主に暖色系に染め上げて織る布は、丈夫でよく水を吸い乾くのも早く長持ちする
狩りと伐採(燃料となる牧を得るためだ)が男の仕事なら、機織りが女の仕事。彼らがそうして仕事をしている間に、狩りに出られない年寄りや子どもが代わり畑に入ると言うのが基本だ
一応生物学上は女である俺も、その内織り機の使い方その他を教わるようになるのだろうとは思っていたが、正直やる気は起きない。出来上がった布は綺麗だなぁとは思うが、出来る気もしないし、そもそもじっと座りっ放しの作業と言うのがいけない。飽きる。絶対飽きる
どちらかと言えば体を動かす方が好きな俺としては、機織りは姉上に任せてむしろ狩りの方を習いたいところだし、そちらの方が我が家の事情から言って都合が良いことも確かだ
口に出すと姉上が悲しむので言わないが
「さぁ、急いでね。私は先に行ってるから」
「…………はぁい」
「ちゃんと来るのよ」
びし、と鼻先に指を突きつけて釘を差し、姉上は金の髪をキラキラとなびかせて織屋へと去っていった
はぁ……仕方ない
これも普通の村娘のおつとめと言うやつか
被っていた手拭いを外して顔の泥を拭きながら、俺は任務遂行のため家に向かって歩き出した