13.
シーツの下で悶えている全裸のイケメンをひとまず放置し、俺は事情を説明するのと姉上に一時的に避難してもらうために2人でお隣のビークさん宅を訪ねた。
説明はあっという間に済んだ。
異世界人が現れた事。
言葉は通じるようなので“招かれた者”らしい事。
全裸で現れたので咄嗟に全力で撃退した事をジェスチャー付きで話すと、ビークさんは若干顔色を悪くしつつ1つ頷いて、着替え一式片手に家を出て行った。サーセン。
そして現在、場所は変わらずビークさん宅。
本来家族の団欒の場である筈の食卓に顔を揃えたのは俺と姉上、ビークさん夫妻とその子どもである双子。帯剣だけして駆け付けてきた鎧を外した軽装のハリーさん。そして俺と姉上から1番離れた椅子に所在無さげに座っている元全裸のイケメンだ。座り方がビミョーにぎこちないのはスルー。
ちなみに俺は入り口のドアを背にして立っている姉上に後ろから抱き締められている体勢である。
言わずもがな何かあったらすぐに逃げられるようにだ。首筋に当たる姉上の巨乳がやわっこくて気持ちえぇ〜とかは別に思ってない。
「さて…。もう1度確認するが、君は我々の言葉が理解出来ているんだね?」
「は、はい。分かります」
「それで、あっちのユーディットの上に落ちてきた、と」
「全裸で、ですか」
「変態」
「サイテー」
「うぅぅぅ…っ!確かにその通りだけど、その通りなんですけどっ!不可抗力なんです!!弁解させて下さい!!」
ガツンとテーブルに突っ伏して涙を流すイケメン。
旦那と同じで元冒険者であるスレンダー美人な奥さんと、金髪巨乳美女な姉上に、お年頃になったアーリャ。3人分の冷たい視線が彼の心に突き刺さったんだろう。見た限り深刻なダメージを受けているようだ。
“落ちてきた人”の中には言葉が通じないせいもあり危険な人間も稀にいるが、“招かれた者”にはその心配はほぼ無いと言っていい。よって俺たちとイケメンが敵対する事はありえないのだが。
現にビークさんやハリーさんはイケメンに同情の眼差しを向けているし、エールは初めて出会った異世界人に興味津々の様子。
だがしかし、女性陣からの視線は完全に、敵かあるいはゴミでも見ているかのように冷え切っていた。心象は最悪のようである。そりゃそうだ。
さてさて、そんなイケメンの弁解だが、俺的にもすごーく馴染みがあった。まぁ同じように”招かれた”んだから当然なんだが。
ただしイケメンは相当に悲惨なタイミングで招かれたらしい。そこは同情する。
この世界に招かれた者は、まず最初に周囲360度真っ白な空間に通される。
そこで出会うのがこの世界の創世の女神様だ。
引きずるほど長い、星を散らしたような夜色の髪に、萌ゆる葉の如き新緑の瞳。
大地を思わせる褐色の肌を惜しげもなく晒し、豊満な身体に空と海の青い衣を纏った美女。
俺も思わず見惚れてしまっていると、あれよあれよと言う間に加護を与えられてこの世界に落とされていた。
ちなみに説明は一切無い。
加護はこの世界に来てから発動される仕組みらしく、謎の真っ白空間では女神が何を喋っているのか全くもって理解出来なかったのだ。言語理解の加護くらいすぐに発揮させてくれれば良いのにな…。
ちょっと話が逸れたが、そんな感じで“招かれる”タイミングと言うのは理不尽なくらいに唐突だ。
俺は部活帰りのクタクタになっていたところで、騎士団が絶賛魔物討伐の演習中だった森の中に落とされた。正直鬼かと思ったが、こいつよりはマシだったみたいだな。
このイケメン、可哀想な事に風呂に入るため服を脱いだところを“招かれた”らしい。
だから全裸だったのか…。
「現実味が全然無くて、夢かと思ってる内にダーツ?みたいなの渡されて…。とりあえず的に向かって投げたら次の瞬間落っこちてたんです。全裸だったのも落ちた場所も事故なんです…!信じて下さい…!!」
必死だなイケメン。
まぁそんな事より俺は(あー、こいつはダーツだったかぁー)と自分の時を思い出してちょっと遠くを見ていた。
俺の時は福引のガラガラだった。
……何がって?
3つの加護最後の1つ、ランダムで決まる能力の選択方法が、だ。
謎空間で音の鳴らない鐘を振り振り、福引を引かせようとする謎の美女。
大変にシュールな光景であったとだけ言っておこう。




