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犬とゆきうさぎ

作者: 山本アヒコ

「行くよ!」


 女の子はいきおいよく家から飛び出した。

 横には一匹の犬。その首輪につながったひもを片手に持っている。


 犬は小さくため息をついた。

 犬は女の子の父親が子供のころから家にいた。つまり、もう年寄りなのだ。

 積もる雪にはしゃいでいたのは、もう何十年も前。

 寒い外より、暖炉で暖められた家にいるほうが嬉しい。


「ゆーき! ゆーき!」


 女の子が目指すのは、お気に入りの遊び場所である広い場所。

 春になれば緑の芝生が広がるそこは、一面白く雪が積もっていた。


 犬はまたため息をつく。

 去年もその前の年も同じように遊んだのに、なぜ飽きないのだろうか、と。


「ゆーきうーさぎー!」


 女の子が大きな声で言う。

 すると雪しか無い風景に変化が起きる。降り積もった雪のそこかしこが不思議なことに盛り上がった。


 大きさはスープを入れる容器ほど。フルフルと左右に震えると、二つのトゲが雪の塊から飛び出す。

 それは長い耳だった。


 耳ができた雪玉は、大きく上へ飛び跳ねる。着地すると一度ブルリと震え、雪でできたまぶたが開いた。

 そこにあるのは二つの赤い目。


 十をこえる赤いつぶらな両目が、女の子と犬を見つめていた。


「あそぼー、ゆきうさぎー!」


 女の子が笑顔で言うと、ゆきうさぎの群れは一斉に駆け出した。


「きゃー!」


 ゆきうさぎに跳びかかられた女の子は嬉しい悲鳴をあげる。

 しかし犬は嫌そうに小さく鳴いた。


 冷たい。ひたすら冷たい。

 犬の思いはそれだけだった。


 女の子の父親が子供のころは喜んでゆきうさぎを追いかけたものだが、今となっては間違ってもやろうとは思わない。

 ゆきうさぎは無邪気に跳びついてくるが、それにかまう体力がない。されるがまま、まとわり付かれたゆきうさぎたちで大きな雪玉となるしかなかった。


「まてー!」


 動けない犬と違い、女の子は元気よくゆきうさぎの後を追いかけた。その後ろをいくつものゆきうさぎが追いかける。


 女の子がつまずいて倒れた。

 ゆきうさぎたちが心配そうに女の子のまわりへ集まる。

 すると勢いよく女の子が顔を上げた。


「えへへー」


 雪にめりこんだ顔は冷たさで赤くなっているが、満面の笑顔が浮かんでいた。


 犬はゆきうさぎに押しつぶされながら、女の子を優しい目で見る。


 もう一緒にゆきうさぎと遊ぶことはできないが、ゆきうさぎと遊ぶ女の子をずっと見ていよう。

 あと何回見れるかわからないけれど、できるだけ長く。

 

 犬の頭に乗っていたゆきうさぎがバランスを崩し、犬の鼻先へ転がり落ちた。

 雪に埋まったゆきうさぎは、跳び上がり抜け出す。同時に雪が飛び散る。


 飛び散った雪が鼻へかかり、犬は大きく頭を振った。

 それを見た女の子が笑う。

 犬は不満そうに鼻から息を出す。

 犬の頭から落ちたゆきうさぎが、それを不思議そうに見ていた。

童話祭り用に書いていたけれど文字数足りませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 年老いた犬目線で、独特の哀愁漂う雰囲気のお話しでした! めんどくさそうな老犬ですが、ちゃんと女の子を生涯見届けるというところが保護者な感じですね!
[一言]  いい雰囲気の小説ですね。
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