彼女が読書をやめた理由
初投稿です。
文章にクセが多いとよく言われます。
誰かのネタと大いに被った何番煎じか分からない内容だったとしても、一応頭を捻って考えてはいるので、温かくスルーしていただけると嬉しいです。
九月。夏休みが終わると別人のように化けている生徒というのは、全国どこにでも一定の割合で存在する。体型が変わるやつ、キャラが変わるやつ、果ては全く登校してこなくなるやつまで。
俺の隣に座る中谷も、夏の間にそういう変化を遂げたらしい。
小学校からほぼ変わらないメンバーで、一学年四クラス。中谷と同じクラスだったのは…小一と小ニ、小五と小六、それから中ニ。都合五年も見ている俺が言うのだから間違いない。
「中谷、お前何かあったのか?」
それに対する答えは当然のように、
「えっ…?」
というものだった。まぁ、これに関しては問題ない。いつも一人静かに現実と空想の世界を行き来しているようなやつだったので、こっちも慣れている。小さい頃、俺はこいつが本気で宇宙と交信しようとしていると信じた時期があったくらいだ。
だから、大切なのはそこじゃない。
「お前、何で本を読まないんだ?」
中谷と本はセットなのだ。小学校の図書室にある本は全部読んだという伝説を持つ彼女が、新学期以降全く本を読まなくなった。それは、夏休みに起きた他のどの変化よりも俺を強く惹きつけるものだった。
「それは…自分でもよく分からないの」
「何か部活入ったとか?」
「ううん。図書委員だけ」
「塾に通い始めたとか?」
「前から続けてる通信教育だけ」
「あー、彼氏ができたとか?」
中谷は首を横に振った。
気になる。これはすごい気になる。今日は部活が休みなこともあって、じっくり聞き出してやろうと思った俺は中谷の前の席に陣取った。
「病気…とかじゃないよな。運動会の練習とか普通にやってたし」
「うん。ただ、前みたいに本を読んでもワクワクできなくなって、それで少し時間を置こうと思って」
一応、俺の話を聞く気はあるらしい。
「本のジャンルはいろいろあるんだし、小説がダメならノンフィクションにするとかいろいろあるんじゃねぇの?」
「きっと、私がファンタジーを楽しめるのは今だけなの」
だから他のものを読んでいる時間が無いのだと彼女は言う。
「俺だって今さら幼児向けの絵本読めとか言われたら辛いものがあるけど。何でファンタジー読むの苦手になったわけ?中谷は活字だったら何でもいけそうな気がするんだけど?」
「なんていうか、都合が良すぎるとか、強引なような気がするの」
世界観から否定するのかよ。そこら辺は受け入れてやれよ。ファンタジーなんだから。
「でも、今の私が全部納得できるような話があったら、それってすごくつまらないお話になるような気がするの」
「反抗期かよ」
そうかもね、という答えを期待していたが、中谷からの返事は無かった。
いつまでも黙ったままだと宇宙と交信を始めかねない。沈黙に耐えられなかった俺は中谷にある提案をした。
「一緒に考えようぜ。ずっとファンタジーが楽しめる方法」
本ばかり読んでた中谷が空想の世界を手放したとして、それで現実世界を楽しめるのか。今までとは少し違ってても、上手く付き合っていく方法があるんじゃないのか。
「………」
中谷からの返事がない。会話終了か?
「ありがとう」
長かったタイムラグを経て、中谷は笑顔でそう言った。それは、二学期に入ってから最初に中谷の笑顔を見た瞬間だったと思う。