Chapter 5
和樹からの返事は来なかった。怒らせたのか傷つけたのかも知れないけど、部活で忙しくて確認する暇もなかったのかもしれない。多分、平気、と言い聞かせながら横になっていた布団から起き出し準備を始める。
今日からうみねこレストランでのアルバイトが始まる。昨日の夢ではそのレストランが記憶のものではなく突然現れた大きな狼に皆食べられてしまったが、目が覚めてからもし記憶のレストランでなくても大丈夫だと頭の中で呟く。だって、他のレストランの事を知っているかもしれないし、第一日本の都会に大きな狼はいないでしょ。
昨日小鳥さんに説明されたとおり、制服として着る白いシャツと黒いズボンを鞄の中に入れる。小鳥さんはスカートで、私もスカートにしようか迷ったけど動きやすい細身のズボンにした。学校で毎日スカートを履くんだから、働いてる時までそうじゃなくてもいいだろう。バイトがお昼頃始まるのでお弁当などは要らなかったが、ペットボトルのお茶と適当なお菓子も一応鞄に入れた。準備をしている間はずっと携帯を確認していて、そんな自分に苛立って思い切り電源を切りそれも鞄に放り投げた。
「じゃあ、行ってきます」
等身大の鏡の前で自分に挨拶する。
小鳥さんは、幸せを呼ぶレストランだと言った。それは十年前の男の子が言った事と一致していて、そしてその上その子が悠馬みたいにオーナーの息子だったらレストランにいた説明がつく。それでも「来る人を幸せにする」なんてお客を呼び込むための宣伝なのかも知れないし、そんな事を言うレストランもうみねこ限定ではないのかもしれない。
「早くあのレストランが見つかるといいけど」
出かける間際、私は声に出して言ってみた。そして大きく深呼吸をすると、家の外に踏み出した。