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Chapter 2

地図を頼りにたどり着いたうみねこレストランは、まだ開店前なのか定休日なのか、レストランらしい活気は全くなかった。他の店から離れ、一つだけぽつんと建っている三階建の建物。灰色のレンガ造りのその建物は、綺麗に管理された無数の植物に囲まれていた。


シックなドアは半開きになっていて、エアコンの効いた店内から涼しい風を吐き出している。店の奥からくぐもった男女の会話が聞こえたので、人が居ることは確かだった。歩いてきたせいでうっすらと汗をかいていた私は、ありがたいエアコンの風を浴びながらドアをそっと押しあける。


中をうかがうと、明るく照らされた店内に無数の木造のテーブルや椅子が並べられていた。どれも白いテーブルクロスがかけられていて、上品そうな雰囲気を漂わせている。テーブルの上や窓辺、入口付近のカウンターの横にはやや大きめでだか決して目ざわり・邪魔ではない観葉植物があり、とても落ち着いて見える。


「うみねこレストラン・・・」


思わず、声に出して呟いた。名前はやっぱり聞き覚えがないけれど、店内は記憶のレストランに似ている。家具の配置は覚えていないし、覚えていても多分変わってしまったのだろうけれど、テーブルや椅子の色、そして植物が漂わせる落ち着いた雰囲気。どこか、懐かしい。


突然、店の奥の方から一人の女性が出てきた。白いフリルのついたシャツを黒いレースのリボンで結び、白と黒のカメオのブローチで留めている。スカートはゴスロリ、としか言いようがない黒いヒラヒラのスカートで、十字架やレースで飾ってあった。その上に白いウエストエプロンをつけているので、まるでゴスロリのメイドさんだ。丁寧なショートヘアーをしたその人物は緑色でプラスチックの、子供が使うゾウのじょうろを抱えていた。


私に気付くと、少しびっくりしたような表情をしたが、すかさず姿勢をただすと優雅な物腰で言った。


「も、申し訳ございません、うみねこは現在準備中でございます」


小さくお辞儀をすると、彼女は私の様子を窺うようにじっと見つめる。ゴスロリを来ているのに、控えめなメイクの彼女は、大人っぽくて可愛らしい人だ。私は地図をまた強く握りしめ、一回頷いてから一歩後ずさる。地図を握りしめた時、くしゃっと紙が折れる音がし、ゴスロリメイドの視線がそっちに移った。


「お、お客様、もしかして・・・」


「はい?」


「少々お待ち下さいっ!」


「え・・・」


ゴスロリメイドはゾウのじょうろを近くのテーブルに置くと、早歩きで店の奥へと消えてしまう。私はどうしていいか分からないままただそこで突っ立っていた。


二分ほど経過すると、ゴスロリメイドは戻ってきた。彼女の後には白いシャツに黒いズボン、シンプルな黒のウエストエプロンというスマートな格好なのにそれを台無しにするほど目立つ唇のピアスをした男がいた。背は私とゴスロリメイドより高く、多分年上だと思う。舌でピアスをいじりながら、彼はやや偉そうな態度で私を見る。彼がメイドより地位が高いのは明らかだ。


「君、高校生?」


よく響く強い声で彼が尋ねる。私が頷くと、満足そうにまた問いかける。「近所なの?」


「あ、いえ、家と学校はここから三十分ほどですけど」


質問の意図がわからずも、小さいころ教わったようにハッキリと答える。それが気に入ったのか、ピアスをした男はにっと微笑んだ。


「失礼ですが、何か部活動などされていらっしゃるのでしょうか?」


ゴスロリメイドがおずおずと聞いた。私は一応文芸部という廃部寸前の活動が全くない部に属している。一応学校がある間は図書室で集まる事があるのだが、部員三名で出席を取って解散になるというのが通常で、部活に入っているとは言えない。なのでゴスロリメイドの方を向いた私は首を横に振る。すると彼女も嬉しそうに微笑み、ピアスの男と顔を合わせた。


視線をかわすだけの会話が数秒続いたかと思うと、ピアスの男は私の方を向いて言った。


「面接クリアァ~!今日からあんたも立派なうみねこの従業員だ」


「え・・・え!?」


「その場採用だよ。おめでとな。俺は親父に報告してくるから、あんたはこいつと奥で待っててくれ」


こいつ、と言うときにゴスロリメイドの方へ頭で指す。ゴスロリメイドはいかにもメイドらしく会釈をすると、ピアスの男が居なくなってから口を開いた。


「ここは、来る人を幸せにするレストランって言うそうです。そんな所で働けるなんて、私たちはもっと幸せだと思いませんか?」

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