piece9:月
狭い地下牢に無理矢理押し込まれて、多くの吸血鬼が押し潰されて命を失った。
押し潰されて骨がぐしゃりと折れる音、子供が泣き叫ぶ声、多くの吸血鬼が叫ぶ声が牢から聞こえる。
中の状況を想像するだけで気分が悪くなる。
きっと地獄よりも酷い状況。
「早く!早く奴らを閉じ込めろ!!日が沈む!!満月になるぞ!!」
「急げ!!殺されてたまるか!!」
「早く扉を閉めるんだ!!」
「もう外に吸血鬼はいないか!!」
「探せ!!一人も外に残すな!!」
こんなの僕らの世界じゃない。皆の平和は 幸せはどこへ行ってしまったの。
ただ呆然とその光景を見ていた僕をレンが引っ張った。
驚いている間もなく無理矢理フードを被せられる。
「ユト!目隠して!!」
レンは必死に僕の目を隠そうとフードを引っ張った。僕の瞳は金色。
ハーフだけど、見た目だけでは普通の吸血鬼と変わらない。
見つかったら、僕も捕まってあの中に入れられる。
そんなことになったらレンを守ることなんてできない。
「ユト…どうしよう…怖いよっ…」
僕の手を握るレンの手が、小刻みに震える。
凄く怯えているのがわかる。
きっと今僕の手を握っているのも怖いだろう。ハーフとはいえ、僕の体には吸血鬼の血が流れてる。
でも、レンは手を離さない。僕を引き止めるようにしっかりと握っている。
「ユトっ…行かないで…嫌だよ…」
「…うん。心配しないで。僕は大丈夫。ここにいるから。」
僕はレンを守る。
僕だけはこの幸せを守りたい。
守らなきゃならない。
例え世界が滅びても。
滅びて しまうのだろうか。
僕らが生きてきた、作り上げたこの世界は。
「なぜっ…なぜなんだ!!我々が何をしたというんだ!!他に何か方法があるはずだ…!!」
懸命に叫ぶ吸血鬼の声は、地下牢の分厚い扉に遮られた。
この世界で初めて吸血鬼と人間の間に境界線ができた。
あぁ、日が沈む。
外に残った人間達が一斉に空を見上げた。
綺麗な満月が浮かんでいる。
不気味な光を放ちながら。
「満月…だ。」
レンは呟いて、さらに強く僕の手を握った。
こんなに綺麗な満月の夜なのに、どうしてこんなことにならなきゃいけないんだろう。
吸血鬼だけが満月を見られないなんて、神様は 不公平だ。
父さんは満月を見たかったかな。
■□■□
人間はたくさんの努力をした。
工夫をした。
また今夜も自分達の幸せを守った。
けれど けれど
それは本当?
彼等の幸せは 守られた?
綺麗な満月は
人間さえも狂わせた。
□■□■
僕らの幸せを返してください。
こんなことにならないために
僕らは努力をして生きてきたのに。
あぁ、神様は僕らを見放したの。
懸命に生きる僕らを どうして。
飽きちゃったから。
どこからかそんな言葉が聞こえた気がした。
満月なんて見られなくていい。
僕は平和な日常が 好きなのに。
僕らはどうなってしまうの。
誰か教えて。
僕らは何か間違っていたの。
これは 罰なのだろうか。
神様教えてください。
僕らはこうなる運命だったのでしょうか。