piece3:常
「ユト学校行こう!」
ぼうっと宙を見ていた僕の耳に、レンの明るい声が届いた。
窓の外を見れば、レンがぴょんぴょんと飛び跳ねてこっちに手を振っている。
レンって少し子供っぽいんだよなぁ…。
純粋で素直だから誰にでも好かれるんだろうけど。
「ユト早く〜!」
「ごめん、すぐ行く。」
レンに急かされて、玄関を開けた。
空を見て 思う。
もうすぐ満月だ。
外気に晒された僕の掌をぐいと引く暖かいもの。
レンの体温。
「早く!」
「…うん。」
「あっ。…おはよう。」
おはようをいい忘れたことに気付いて、レンは恥ずかしそうに笑った。
今日もいつもと変わらない朝。
レンと一緒に学校へ向かって、そこに着けば沢山の友達がいて。
何気無い日常。
僕はこの日常が好きだ。
毎日そんなに変わらないけれど、このままでいたい。
「もうすぐ満月だね。」
誰かが言った。
多分今誰もが思っていること。
けれど皆レンほどは心配していないみたいだ。
フィルターがあるから。
吸血鬼が暴走することは、無い。
何年も平和が続いているのがその証拠。
満月を意識しても不安に思う人は少なかった。
「あと二日だな。」
街で人々がそんな話を始めた。
満月前には必ず見られる光景。
ただひとつだけいつもの満月前と違うことがあった。
それは、天気。
満月になる前の一週間は決まって晴れていた。
それなのに昨日も今日も空は重そうな雲に覆われていた。
それがよけいにレンを不安にさせたようで、ずっと塞ぎこんだままだった。