piece13:神
「なぜ彼は殺されない?」
「さぁ?『特別』だからじゃない?」
「『特別』、か。哀しい運命だな。」
「それ、僕に何か文句でもあるの?」
「いや。そういう訳じゃないさ。…そろそろ迎えにでも行ってやったらどうだ。」
「なんで僕が。死にたければ彼が勝手に死ねばいい。僕には関係ないよ。彼がどうなろうと次の世界には何も影響しない。」
「…ならば俺が行こう。」
「僕に許可なく勝手な行動するなよ。」
「…」
「そんな目するなよ。…まぁ丁度退屈してたところだし、遊びに行く位いいかな。僕が行こう。お前はここにいなよ。」
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どうしよう。
もう何もない。
死んでしまったほうが楽かな。
「ねぇレン…僕も君のところに行こうかな。」
空を見上げても、月が只静かに僕を見下ろしているだけ。
綺麗な、三日月。
いつもなら、こんな空の下で皆幸せそうに暮らしていた。
けれど
もう、無理なんだ。
「…レン…」
「こんばんはー」
久々に聞いた僕以外の生き物の声に、思わず肩が跳ねた。
とっさに振り向いたそこには、長い銀髪をなびかせた、一人の男の人が立っていた。
「え…だ、誰…」
まだ生きてる人がいた?
この人は金色の瞳じゃない。
吸血鬼じゃない。
じゃあ、何?
「僕?僕はね、神様。」
神様?
この人が神様?
「…神、様?」
「そう。神様。…大変だったねぇ。」
神様と名乗ったその人は、僕が抱えているレンを指さした。
鼻で少し笑って、指をぱちんと鳴らす。
すると、レンの目がぱちりと開いて僕を見た。
「っ…!!」
「でも楽しかった。やっぱりああいう醜い部分って見てて楽しいね。」
「あ、あなたが…アレをやったんですか…?」
「ん?フィルター?そうだよ。僕が壊したの。」
「どうしてっ…」
「どうして?飽きちゃったからだよ。もうこの世界に飽きちゃったから。」
飽きた?
そんな理由で僕等の平和をあんなに簡単に奪い取った?
こんな人が、神様?
「そんなに睨まないでよ。君には悪いと思ってるさ。君は死ねないんだものね。可哀想に。」
「そんなことじゃなくてっ…!どうして…僕達は幸せに暮らしていたのに…!!」
「それが飽きちゃったんだってば。平和すぎて何も面白くないんだもん。少し悪戯したくなるじゃない。いき過ぎて壊れちゃったけど。僕達神様はね、一人一人ひとつずつ世界を持ってる。それぞれが好きなように世界を作れるんだ。」
「僕達…?」
「あれ、神様って一人だと思ってた?神様なんて腐るほどいるよ。世界はここだけじゃない。いろんな世界があるよ。質や様子はその世界の持ち主の性格によるけど、絶えず殺戮を繰り返す世界を作ってる奴、何も起こらないつまらない平和な世界を作ってる奴、怠けて世界をどうにもしない奴。色々さ。僕はね、実験して遊んでるの。」
「実験?」
「そう。どの種族の組み合わせが一番面白いか調べてるの。色々試したけど、今回が一番続いたかな。人間と吸血鬼。案外長く続いたの、予想外。」
そんな風に、実験だなんて思って
「今まではね、悪魔と人間とか、天使と人間とか、獣人と人間とかやったんだ。一番短かったのは悪魔と人間で、二週間で世界が滅びちゃった。まぁあれはあれで面白かったけどね。」
この人は
一体
「あなたは一体命を何だと思っているんですか…」
「ん?何って、僕の玩具。」
玩具?
一生懸命生きてるのに。
懸命に、幸せを作って生きているのに。
それを、どうして。
「玩具じゃない…僕達は玩具じゃない!!」
「そんな怒らないでよ。僕はね、君にプレゼントをあげに来たんだ。」
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僕の玩具
僕の玩具
僕の玩具
もっと苦しんで
もっと悲しんで
踊り狂え。