piece11:化
ユトを探し回る間も人々の悲鳴は止まない。
血しぶきが容赦なく僕の体を染めていく。
左右から、下から苦痛に歪んだ人間の視線が飛んでくる。
吐気は酷くなる一方。
レンは無事かな。
名前を呼びながら探すけど、どこからも返事はない。
早く見つけなきゃ。
早く、しないと。
誰かに殺されてしまう。
「助けてくれえぇ!!」
一人の男の人が、僕のほうに助けを求めてきた。
だけど、僕の瞳を見ると歪んだ顔をさらに歪ませて叫んだ。
「化物…っ来るなあぁああぁ!!」
『化物』?
僕が?
どうして。
僕は何もしてない。
何もしてないのに。
しりもちをついたその人間をただ呆然と見下ろしていると、後ろに忍び寄った吸血鬼がそれの頭を弾き飛ばした。
頭を失った体がその場に倒れる。
うっすらと白くなった地面を、赤黒い液体が侵食していった。
そんな光景が目の前に広がっているのに、頭の中では『化物』という言葉だけが渦巻いた。
バケモノなんて、言わないで。
僕らも生きてる。
普通に生きてる。
吸血鬼たちだって、こんな風になりたいなんて望んでいなかった。
世界を壊したのは 貴方達じゃないか。
たった今人間をただの肉塊にした吸血鬼と目が合って、正気に戻った。
こんなところで止まってる場合じゃない。
レンを探さなきゃ。
「化物…!!」
違うよ。違う。
ねぇ、そうだろう?
僕らは 化物なんかじゃない。
********
「化物、かぁ。」
「酷いものだな。」
「でも確かに化物だよね。アレ。」
「お前が作ったんだろう。」
「そうだけどさ、ちょっと惨すぎない?」
「自分でやっておいて…。」
「ここまでなるとは正直思わなかったんだ。これならいっそ吸血鬼も人間も一気に滅ぼしちゃう方が良かったかな?」
「そうすればまた後で『簡単に片付けるんじゃなかった』と後悔するだろう。」
「あぁ、そうかも。…化物か。ふふっ…あははははっ」
「何を笑っている?」
「ううん。…本当の化物はどっちかなって思って。」
「…どちらも、だな。」
********
「レン!」
どこに行っちゃったんだろう。
家にもいない。
ただ、レンのお父さんがズタズタに引き裂かれて倒れてた。
無事、かな。
「レンー!!」
かたんっ
物音のしたほうを振り向くと、レンが建物の陰に座り込んでいた。
何か抱えてる。
「レン…」
ゆっくりと近づくと、レンは怯えた目でこっちを見た。
暗くてわからなかったレンの抱えているものが、初めてなんだかわかった。
あれは、レンの お母さんだ。
でも、もう手遅れだろう。
それには右腕も左足もついてない。
血を流しながら、レンの腕の中で力なくぐったりとしている。
「レン…」
「…っな…!」
「え?」
「来るな化物ぉ!!!」
レンが泣き叫んだその言葉は、僕の脳を突き抜けた。
嗚呼
嗚呼
神様。
何が悪かったんだろう。
僕らは何を間違っていたんだろう。
唖然としてレンを見つめる僕の瞳から、知らないうちに涙が流れた。
悲しいんじゃない。
苦しいんじゃない。
怖い。
そんなことを言われるくらいなら、いっそ、いっそ。
目の前のレンの首から上が、綺麗に吹き飛んだ。
勢いよく噴き上がった血しぶきは、薔薇の花びらの様。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
けれど、地面にごとりと転がったレンの背後に立っていた吸血鬼の姿を見て、無理矢理理解させられた。
レンは、殺されたんだ。
僕ではない、アレに。
僕じゃない?本当に?
レンを殺した吸血鬼は、僕になんてまるで興味を示さずに身を翻した。
待って。
僕も 殺していって。
あ ああ ああああ あ
誰か僕を殺して。