癒し
ねぇ、けがしてるの?
ふわぁ、と弱い弱い、癒し。
まだ、幼いゆえか、その異形のものが怪我をしてることに気づき、習いたての癒しをかけた。
治らないね、痛い?
異形のものは首を振る。
そうなの。
それは、つまんないってこと。
異形のものは答えない。
うーん、そうだ!じゃあ楽しい歌を歌ってあげるね。
◇
人は愚かなもの。
くだらぬものを望み、同族を襲う。
愚かだ。
そのものは理に従い、ただ見ている。
◇
大軍の激突はすでに終わっている。
戦場は地獄のようだ。数多くの魔法使い、騎士、兵士、全て物言わぬものとなり、倒れている。
光を纏い、輝く剣、白い鎧。
勝利した軍の先頭には白き勇者。
◇
ある国の王。かつて、存在していた皇帝となることを夢見ているもの。全ての国を従える、誰もが成し得なかったことをなす。
この都ももっともっと美しく、豪華なものになる。この世の富の全てをかければ、もっともっと、美しい都となる。
煌びやかな冠をいただき、美しき都に住む、良い、良い、実に良い。
野心、もはや妄執と化したものに燃える王は重臣からの報告に歓喜した。やはり、やはり、伝承は正しかった。
◇
隣国に侵攻し、瞬く間にその王都を攻め落とす。その隣も、その奥の国も。
王は皇帝を名乗り、周辺の国々に従属を求めた。断れば、奴を差し向ければ良い。
皇帝は口元に暗い笑みを浮かべる。
我には奴がいる、伝承の儀式により見出したものがいる。
◇
周辺の国々は軍を集結し皇帝に挑んだ。
そして、集結した軍はことごとく破れた。
皇帝の軍の先頭の白く輝く騎士は桁外れの強さ。強力で大規模な魔法、皇帝の軍を強化し、敵対した周辺国の軍には減衰を浴びせる。
白き騎士は、皇帝の命により見出された勇者。
皇帝の軍は侵攻を続ける。
対抗した国々は負け続けたわけではない。
皇帝の軍の敗北は何回もあった。
だが、すると、次の戦いの場に、白き騎士が現れた。
◇
人は愚か、だ。
異形のものは、理に従う一族のもの。
黒い竜。
右目の下に赤い鱗を持つ。
野心を抑えきれぬ皇帝が周辺を侵し、抵抗する街、王族たちを踏み躙る様子を見ていた。
降伏した街も、皇帝の軍の略奪により大きな被害を受けた。
人は愚かだ。呆れるほどに。
癒しの光。
歌が聞こえる。
昔の出来事、だが、今もはっきりと覚えている。
◇
皇帝の軍は、とうとう、南の小国の近くまでやってきた。
皇帝の軍に、隣国の軍と共に挑んだ王は戻ってこない。
王の後継ぎはまだ幼く、この滅亡の危機には対応できない。
王の母が、王に変わり、国の運営を行うことになった。
その優しげな容貌と温かい癒しの技。
重臣達、いや、全ての家臣、この国の全ての民は、王の母に忠誠を誓っている。
あの皇帝に従うくらいなら、、、、。
王の母は、国母と呼ばれ、その国の全てのものから慕われていた。
◇
そうなったか。
異形のものは、赤いウロコに注がれた癒しの光を覚えている。
怪我、といっていたな。
小さなもの。この姿を恐れていなかった。
歌が聞こえる。
温かな癒し。
暖かなひと時。
理に従うことは、我らの役割。
だが、癒しの光は今も我を温める。
異形のものは、わずかにその身を動かした。
◇
小国は、残存した兵をかき集め、皇帝の軍を阻むため、小国の入り口にあたる山と谷に囲まれた狭い街道で迎え撃った。
国母は、自国の兵達が勝利に喜ぶ姿を見ていた。皇帝の軍は甚大な被害を出して後退していった。
国母は勝利にも浮かない顔をしている。
次はあのものがやってくる。
白き勇者が現れる。
◇
新たな名を与えられる前は王都と呼ばれていた。煌びやかな作りだ。
この国を統べるものは絶望している。
先ほどまでいた重臣達はすでにいない。
おそらくは逃亡しているのだろう。
自らもそうしようかと考えはしたが、これまでの行いを振り返り、できなかった。
開いていた窓から一人の男が入ってきた。
皇帝を絶望が包む。
男の纏うのは黒い鎧、なぜか一ヶ所だけ赤い。
「皇帝か?」
疑問形だが、問いかけではない。
野心を抑えきれなかった皇帝は、男の発する凄まじい威圧を受けて息をすることも忘れていた。
◇
わー、わー
小国の民も、家臣達も、英雄の帰還を歓迎していた。
黒き鎧を纏う騎士。
現れた勇者を一刀で葬り、皇帝の軍を追い返した。
そして、占領された国々全てを皇帝から解放した。
謎の黒き騎士だが、国母様はご存知のお方らしい。
国母の前で、黒き騎士は跪いていた。
一族の掟、理に従うことを破った。
永遠に近い寿命も、自慢の翼ももう失った。
だが、後悔はしていない。
国母に抱かれた幼子。
、、、よく似ている。あの時の姫に。国母の幼い頃に。
歌が聞こえる。
癒しの光の温かさも。
人は暖かなものも持っているのだ、な。
黒き騎士は微かに微笑んだ。




