催眠術師の書き入れ時
「
はいはい。
順番に。
順番に。
大丈夫ですよ。
私はそこらの催眠術師と違ってほんの三秒数えるだけで催眠にかけることが出来ますから。
はいはい。
だから、順番に……。
はい。
おまたせしました。
あなたはどんな催眠術をかけてほしいんですか?
え?
明日も平和な一日が続いている催眠を?
なんだってそんなのを……。
あー、いえ。
構わないんですがね。
どうせ、最期の時間を過ごすんですからせっかくなら幸せな日常をって思ったのですけども。
え?
何事もない平和な一日こそが最高の幸せだと?
はぁ。
まぁ、別に構いませんけども。
じゃ、かけますよ。
3
2
1
はい。
では、次の方どうぞ。
はいはい。
順番に。
順番に。
」
*
「
はー、やれやれ。
今日の仕事はおしまい。
流石にこんなに催眠術を使い続けたら体力がもたないよ。
にしても、終末論様々だね。
おかげでこんなに儲かるんだから。
」
催眠術師はそう言って自分の目の前に積み上げられた硬貨の山を見て笑う。
今、世界に蔓延る終末論。
空から星が落ちてくるだとか――。
そんな予言が広まってくれたおかげで催眠術師はこのように大儲けをしていた。
まぁ、事実として空の星々は一日ごとに大きさと光の強さを増しているけれども。
「にしても皮肉なもんだねえ。差し迫る破滅を前に皆がすることが現実逃避だなんて」
けらけらと催眠術師は笑い、そして。
「おっと、いけないいけない。そろそろ切れちまう」
鏡に向かい自分に向けて催眠術をかける。
『お前は楽観的に商売を続ける』
と。
これのおかげで催眠術師が本来持っていた不安や恐怖は胡散した。
「さてさて、明日も頑張って稼ぐぞぅ」
そう言って催眠術師は心安らかに眠りにつく。
とっくに太陽の大きさを超えた巨大な星が輝く空の下に建つ、家の中で。




