未努力
ーーー努力をしない人間って、いつも同じことしか言わない。
どうして、そんなことしか口にできないんだろう。
同じ言葉を繰り返すだけで、自分の頭で考えようともしない。
やっぱり……
努力だ
ーーー私は、萩山しずく、ごく普通の家庭教師だ。
教える科目は数学。
数学を、誰よりも、いや、人十倍は努力してきた私だからこそ、教えられるレベルまで昇華させることができた。
それが、私。
努力を重ねてきた人間だからこそ、時々、教えることの難しさに息が詰まる瞬間がある。
すぐに”わからない”と言われると、どうしてもっと自分で考えようとしないのかと、つい思ってしまう。
私の教え子、柊さんも、その一人だ。
『先生!!わかんないです。』
「どこがわからないのかしら?」
『全部です!!』
15分も黙って考える時間を与えたのに、どこがわからないのかを言葉にできない。
「さっき教えたばかりでしょう?」
頭では小さな不満を覚えながらも、つい口に出す。
『だってわかんないんだもん』
なぜだろう。わからないことを当然のように主張できるその態度。
少し、苛立ちが胸に湧き上がる。
それでも私は、解法をノートに写す手を止めない。
自分が教える立場にあることを、頭では理解しているからだ。
「これでわかる?」
『わかったよ?』
しかし、目はまだどこか迷子になっている。
何かを求めているような、その小さな表情が、私の胸をもやもやとさせる。
「本当に?」
『ほっホントだよ!!』
「じゃあ次の問題、解いてみなさい」
なぜか柊さんは、少し不満げな顔をして問題を解き始めた。
その様子を見て、少しだけ怒りがふつふつと湧き上がる。
だが、私は家庭教師。怒ることが仕事ではない。
それを頭で理解していても、表情は変えられない。
きっと私は、不器用なのだろう。
10分が経った。
いまだノートには答えが書かれていない。
途中式も、めちゃくちゃだ。
「あのねぇ、柊さん」
『はい?』
「今が4月ならまだ許すけど、もう12月なのよ」
『それが何か?』
「あなたは受 験 生なの。わかってる?」
『でも、私、ほめて伸びるタイプなので……』
何を言っているの、この子は……。
才能があるならまだしも、努力なしには何も成し得ないはずなのに。
何も。
何も、変わらない。
教えることの難しさと、自分の努力の意味を再確認するたびに、心の奥底で小さなため息が漏れる。
努力を積み重ねることしか、未来を変える手段はないのに。
でも、私は諦めない。
それが、私の役目だから。
そして今日も、黙ってノートを開き、ペンを握る。




