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短編もの

ただいまの記録

作者: 秋乃 よなが
掲載日:2025/11/08


 社会人になって三年目。仕事がとにかく忙しくて、少しでも会社に近くに住みたいと引っ越しをした。


 部屋はよくある1Kだ。新築で、オートロックはないものの、設備は比較的新しいものがついている。中でも気に入ったのは、訪問者が来たら勝手に録画してくれるインターホンだ。


 仕事で帰宅することが遅い私には、誰がいつ来たか分かるのでありがたい。深夜でも、留守でも、数秒の映像と音声が残る。


 実際に宅配便や新聞の勧誘らしき記録が残っていた。


「誰が来たか分かるって、便利だなあ」


 最初の一週間は、それだけの話だった。


***


 二週目の月曜日。二十二時半近くに帰って、インターホンが光っていることに気づいた。これは新しい記録があるということだ。早速、履歴を確認する。


 私が確実に出られない時間の二十一時頃に、見慣れない記録が一件だけ追加されていた。


 黒っぽい影みたいな映像と、女の人の声で『ただいま』とだけ。


 聞き間違いかと思って、二回目を再生したけれど、やっぱり同じに聞こえた。


「近所の人が押し間違えたのかな?」


 黒っぽい映像も、女の人がカメラに近づきすぎたのだろう。私は深く気にせず、記録を消した。


***


 それから数日、同じ時間に、同じような記録が続いた。二十一時よりも、少しずつ時間が遅くなっていく。


 最初は二十一時十二分。次の日は二十一時三十五分。そして土曜日、ついに二十三時四十四分になった。


 私は、途中からカレンダーに小さく数字を書き込んでいって、そこでようやく気づいた。


 ――私の帰宅時間とほとんど同じになっている。


***


 翌週の金曜日。私は、わざと会社をゆっくり出た。コンビニで雑誌を立ち読みし、改札の前でスマホをいじって時間を潰した。


 マンションの前に着いたのは、二十三時四十二分。エントランスを抜け、エレベーターで昇り、廊下を曲がる。


 部屋の前に着いた瞬間、インターホンが鳴った。


 腕時計に表示された時間は、二十三時四十四分。


「……え?」


 ここにいるのは私だけだ。けれど私はインターホンを押していない。ならばなぜ鳴ったのか? インターホンを押したのは、一体誰なのか?


 私は震える手で、玄関の扉を開けた。当然ながら部屋の中は暗い。私以外に誰も入れないように、自分の身体の幅の分だけ扉を開けて、滑り込むように中へと入った。


 自分の心臓の音がうるさい。ドクッドクッと異常な速さで脈を打っている。


 ――ピンポーン。


「っ!?」


 背後でインターホンが鳴った。怖い。誰? 怖い。どうして? 怖い。やめて。


 きっとインターホンのモニターには、あの黒っぽい影が映っているのだろう。それなのに『開けなきゃ』と、一瞬思った。


 引っ越してきたとき、不動産屋の人が『この部屋、前の方も若い女性だったんですよ』と笑っていたのを思い出した。


「――ただいま」


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