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第3話「交わす約束、懇親会」(前編)

遅くなりました、第三話前半です。書いてる途中で分けるかどうか悩みました。

 椎名が帰ったあの夜のこと。

 晩飯も風呂も終え、ゲームをしながら椎名と通話を開いていた。

「さっきはごめん、椎名。勢いで色々悪かった」

『まあ私も話題振った側だったし、お互い様だよ。今度はじっくり部屋の中見たり、昔みたいに一緒にゲームしたりして遊ぼうよ。気になるタイトルあったし、触ってみたいんだよね』

 笑みが混じった明るい声音を耳にする。

 やっぱりさっきはお互い何かおかしかったんだな。再会して間もない分、きっと変なテンションだったに違いない。

「ああ、来てくれるならいつでも歓迎する。それで気になってたんだが、今日は何でいきなり家で遊ぼうなんて言ったんだ?」

『単純にかっしーの家の場所知りたかったんだよね。これでいつでも好きな時に行けるよ』

「ほ~ん、椎名の家は昔から場所変わってないん?」

『変わってない変わってない。ずっとあの一軒家だよ』

 変わっていない、とすれば駅またぐ必要はないな。というか普通に徒歩圏内だしいつでも行けるじゃん。

「ああ、じゃあ思ったより近そうだな?今度遊びに行くわ」

『本当?私も色々見せたいものもあるし、いつでも来なよ!』

「そかそか、椎名の部屋がどんなになってるか楽しみにしとこう」

 椎名の部屋か。昔は割と殺風景そのものだった記憶しかないが、どのように化けているのか。期待していいんだな?

『きっとかっしーも気に入るんじゃないかな。……って大事なことを忘れてた!』

 大事なこととな?

 例の押し倒し事件については一応落ち着いたはずなんだけどな。

『菊りんとかっしーがお昼でいなかったときに藤のんと話してたことがあったんだよ。提案も藤のんで、せっかくできた縁だから懇親会やりたいねーってさ。さっきかっしーの家で話そうと思ってたのに忘れちゃったじゃん!』

「それに関しては自分は悪くねぇ!ってもういいわこのくだり」

 やめだやめだ、終わったのに蒸し返して何になるっての。

「……にしてもそうか、懇親会か」

 ぶっちゃけロクな思い出がない。

 一度中学上がりたての頃に参加したのだが、元々出来上がっていたグループの中に入れないうえに何故か男子に話しかけられてた記憶がある。その場で特段何があったというわけでもないのだが、モテると勘違いした女子からいろんな意味で揉まれることになったんだよな。勘違いではなくなってたんだけど、まあこの話はいいや。

 とにかく今の自分が形作られる要素の一つとして、ある意味では全ての始まりの日と言える。男女の色恋沙汰には辟易としたね。

 そんなわけで懇親会という単語そのものに負のイメージを持っている。

 ただ、椎名の口ぶり的にはクラス全体で開催する意図ではなさそうだ。第一提案者の藤が自分たちと仲良くなりたい思いで話していたなら、自分は素直に行きたいと思う。

 今のところの結論としては、とりあえず話を聞いて内容次第で考えるというもの。

「詳しく聞こうか」

『後でグループにも送るんだけどね。メンバーは藤のん、私、かっしー、菊りんの4人だよ。日程は休日のどこかのタイミングで出来たらいいね、くらいしか決まってないかな。場所も今は相談中だし、本当に話が出始めた程度だよ』

 メンバーについては理解した。内容については追ってのことらしいので、そこらへんは本人同士に任せておこう。とりま少ない人数で限定的に開く程度の規模なら、行ってもいいと判断してよさそうだ。トラブルも起きなさそうだし。

「了解。土日なら基本空いてるから、諸々決まり次第教えてくれればそれでいいや」

 了承の旨を椎名に伝えておいた。

了解(ラジャー)です。ありがとね~、かっしー。また明日』

「おう、また明日な」

 お互い話が落ち着いたところで通話を切った。

 ラジャーですって久々に聞いたわ。昔のノベルゲームかよ。

 あとでゲームを終わらせてLIN〇を見れば、グループに藤から懇親会の開催場所についての相談が来ていた。曰く「皆の家からちょうどいい距離の場所にしたい」とのことで、最寄り駅を聞き回っているそうな。他の皆は既に回答済みで、自分だけ遅れて返信する羽目になった。遅れて申し訳ないと一言断りを入れておき、椎名と同じ駅を指定した。

 メッセージを見たところ、皆家の距離が思ったより近い位置にありそうだ。

 藤は二駅跨いだあたりだし、菊梨に関しては一駅で済んでいる。その程度なら実質徒歩圏内なわけで、いつでも遊びに行ける距離だ。親密度を稼いだら遊びに行ってみようかな。

 自分の返信の折にとんとん拍子で話は弾み、店とスケジュールと時刻まであっさりと決まった。

 集合は土曜の11時、ちょうど自分も用事がある駅での待ち合わせとなった。

 服はまあ、適当でいいだろう。始発で電気屋行く用事もあることだし、その流れで合流できるなら御の字だ。

 

───────そして迎えた当日。

 電気屋で始発から並んだ甲斐あってか、目当ての用事は無事達成。ずっと待ち望んでいたプラモデルが手に入り、気分はとっても晴れやか!長時間組み立て椅子に座って、尻を痛めた甲斐があったってものだ。

 ぶっちゃけこの時点で満足してしまったのだが、別件の本命があるわけで帰るわけにはいかない。かといって今から集合場所に向かうのも早い時間帯だ。時刻は10時を数分回った頃合いのこと。息抜きがてら、適当な喫茶店で時間を潰そうか。

 駅周りをふらつき、開店中の人気が少なそうな喫茶店を見つけて中に入る。

 たまには冒険して、知らない店に行くのもいいだろう。

 引き戸を開け、自分は中へと足を踏み入れる。

 こじんまりとしたレトロな雰囲気を漂わせる内層で、店内に流れるクラシックな曲が心を落ち着かせてくれそうな第一印象を抱いた。

 カランカランと入口のベルが鳴り、気づいたオーナーらしき店員が歓迎の決まり文句を投げてくる。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「はい」

「ではカウンター席へどうぞ」

 口頭での案内を受け、言われた通りに着席する。一応客人がいたようで、自分の隣の席で珈琲を飲んでいた。そりゃ駅周辺だし、人はゼロではないか。

 足元にリュックをおろし、メニューを眺める。

 品物はそれなりで、飲み物は紅茶や珈琲でも茶葉や豆ごとに違ったり、食べ物に関しては朝食からランチまで幅広く、スイーツも適度に豊富だった。

 品揃えの豊富さに迷うところではあるが、初めてくる場所では絶対に頼むものがある。また来てもいいかどうか、見定めさせてもらおう。

「すみませーん、注文いいですか?」

 そうして頼んだのはベイクドチーズケーキと、ブレンド珈琲のホット。

 注文を受けた人が豆を挽く様子を尻目に、自分はスマホを眺める。

 直近で一つ、個人チャットでメッセージが来ているのを目にする。送り主は藤で、内容は「今隣にいるのって柏ちゃん?」というもの。はて、隣とは。ああ、いたな先客が。思い至ってさりげなく視線を送ってみる。見れば見覚えのある雰囲気というか、特徴的なウェーブがかかった青藤色の髪色は見紛うはずもない。

「……藤でいいんだよな?」

「うん、合ってるよ。奇遇だね、柏ちゃん」

 自分だとわかるや否や、にぱっとあどけない笑みを藤が浮かべてくる。

「あっかわいい、好き」

 あまりにも無垢な笑顔が尊すぎて、つい本音がこぼれてしまう。

「ありがと、私も柏ちゃんのこと好きだよ」

 好きと返されてしまった。いやぁ、目の保養で癒し枠の藤から好きだなんて恐悦至極にございます。柔らかい笑顔がさらに引き立つね。

 しかし一時間も前から来ているとは、一体どうしたんだろうか。

「そりゃ光栄だね。にしてもずいぶん早いな。まだ一時間近く前だろうに」

「えへへ、あまりにも楽しみだったから早く来ちゃったの。柏ちゃんも早く来てたみたいだけど、何か用事でもあった?」

 楽しみで早く来たっていう子供っぽい理由のギャップがかわいいね。

 まあこっちが早く来た理由は、プラモデル買う時間で暇つぶししたかったからってことでいいか。どっちも本命の出来事なんだし。

「まあそんなとこ。あるもの買うために始発で電気屋並んでてな、無事確保して今に至るってわけだ。今はちょっとした休憩だな」

「始発から!?朝から並ぶほどなんて、何を買いに行ってたの?」

 流石に驚くか。一般人からすれば始発で電車に乗ってまで買い物に行くことはないだろうから、無理もない反応だろう。

「ちょっとした趣味関連のものを。プラモデルって分かるか?」

「うん、知ってるよ。ガ〇ダムとかポケ〇ンとか色々あるよね」

 ご存知だったか、これは嬉しい。ぶっちゃけかなり意外だったけども。

「訊いといてなんだけど意外だったな。藤が知ってるとは……もしかして家族関係だったり?」

「そうなの。弟がロボットもの大好きでね、よくお父さんやお母さんにねだってプラモデルを買ってもらってよく作るの。休みの日は私も混ざって作ることもあるかな」

 ほう、藤には弟がいると。確かに落ち着いたお姉ちゃん力的オーラを感じることはここ一週間であったけども、実際に兄妹がいるとはね。しかも一緒に遊んでくれるタイプとか、藤の弟は前世で一体どれだけの徳を積んだというんだろうか。「立派なお姉ちゃんならここにもいるじゃない、ほら!」って頭の中で姉貴が張り合ってくる。立派なお姉ちゃんなら空気読もうね。

 なんて会話を始めた折に、注文していたものがテーブルに置かれる。

「すまん、飲み食いしながらでいいか?」

「気にしなくていいよ、声をかけたのは私なんだから」

「ありがとう、甘えさせてもらうよ」

 フーッと息を吹きかけて珈琲の粗熱を冷まし、一口カップを呷る。

 雑味はなく、ほんのり酸味と苦味が舌に乗ってくる。後味はすっきりとしており、鼻から抜けていく香りに癖がない。チーズケーキも、クリームチーズの味が濃厚で、ほんのり香るレモンとバニラの甘酸っぱさがちょうどいい。絶妙な味の加減に、頬が緩んでいくのが自分でもわかる。どうやら当たりの店を引いたらしい。

 幸福感は静かに、当たり前のように自分の心に届いた。味も見た目も丁寧で、どこにも嘘はなかった。ありがとう、それだけで充分だ。

「マジうめぇ……常連になろうかな」

 最近のバズ狙いみたく、派手さ可愛さ華やかさというよりは、質素で落ち着きのある喫茶店だ。一人で休みたいときは是非とも寄りたい店として、自分の中では高評価。メニュー制覇するのも視野に入れよう。

「柏ちゃんってお弁当の時もそうだけど、料理をすごい美味しそうに食べるんだね」

 藤は自分の顔を観察するように眺めながら、柔らかな微笑で言葉にしていた。

「まあ、昔から感じることには素直だから、表情に出るってのはよく言われるよ。いつもちゃんと美味しいから、そういう顔になってるんじゃないかね」

 不味かったときはともかくとして、なるべく出されたものや口にするものへの感情に嘘を吐きたくないのが本音ではある。顔に出やすいのはどっかの過保護な姉がかわいがってくれたからだと思うが、この話は置いておこう。「もう、素直じゃないわね」なんて脳内で姉貴が語り掛けてくるが気にしない。いややっぱ気になる。さっきからうるせえな、今は藤と話しているんだ。しっしっ!

「やっぱり素敵だなぁ、柏ちゃんは。もし一緒の家族だったら、ご飯の時間がもっと明るくなりそう」

 揺れる瞳を向けて、藤は冗談めかしてそんなことを言う。ははは面白いことを言ってくれるな、尊くて致命傷を負ったよ。実質告白じゃんか。殺意たっけえなーおい。

「藤が求めるなら、一緒の家族になることもやぶさかじゃないね。その時は是非ともお姉ちゃんって呼ばせてほしいな」

 またしても脳内姉貴が湧いて「浮気!?」などとほざくが気にしない。姉力についてはあんたの上位互換だよ。姉力ってなんだ?

「嬉しいけど、柏ちゃんのお姉さんに悪いよ。間を取って柏ちゃんが私のお姉ちゃんってことでどうかな?」

 何の間を持ってのことだろうか。藤が、自分を、お姉ちゃんと、呼ぶ。その光景を脳内で思い浮かべてみよう。柔らかなお姉さん要素を取り除いた藤の「柏お姉ちゃん」と呼ぶ笑顔。ヤヴァイ、戦略兵器だ。耐えられそうにない。いつでも月が出ているツインサテライトキャノンじゃねえか。

「藤の可愛さで言われたら溺愛する自信があるぞ」

 と削れた精神的な何かを、コーヒーとケーキで回復して精一杯強がってみた。

「見てみたいなぁ、柏ちゃんがお姉ちゃんになるところ」

「柄じゃないっての、からかわないでくれよ……」

 悪戯っぽい視線から逃げるように目をそらし、顔が赤くなったのをごまかす。

 本当に勘弁してほしい。

「……まあさっきの話に戻るんだが、藤もプラモ作りの経験あったんだな」

「殆ど組み立ててるだけだよ。もしよかったら家に遊びに来ない?弟もゲームとかプラモデル好きだし、一緒に遊べるかなぁって」

 おっと、それは思いがけない提案だな。これ以上ない嬉しい話だ。

 藤と会ってから一週間。聖人君子と見まがうほどの優しさを振りまいてきた彼女の裏の顔と私生活にはそれはもう興味が湧くものだ。こればっかりは不干渉主義のポリシーを曲げるしかない。だって見たことねえもん、完璧に優しい天使みたいな人間なんて。きっとくたびれた顔の一つや二つあってもおかしくない。いやいや、流石にないか、自分じゃあるまいし。

「確かに共通の趣味があるなら興味はあるけど、本命としては藤と遊びたいかな。せっかく誘ってくれた本人がハブになるのは戴けないところだし」

 ただまあそれはそれ、これはこれ。確かに下心はあるが、せっかくの誘いを断るのは申し訳ない。ついでに藤の弟がどんな具合でプラモデルを作るのか見たいところでもある。今の自分の立場が趣味に理解がある姉の友人と考えれば、喜ばない理由もないだろう。藤と一緒の時間も増えるだろうし、断る理由はまずありえなかった。

「ふふっ、流石に堅苦しいってば。……でも、ありがとね柏ちゃん」

 ふんわり柔らかな笑顔の傍ら、一瞬藤の表情に翳りが見えた気がする。一応見なかったことにしよう。今踏み込むのは早いんじゃないかと、なんとなくそんな気がしたのだ。

「ん?まあ、どういたしまして?んなことより日程はどうしようか」

「ん~、休みの日もこれといって用事はないし、連絡してくれたらいつでも大丈夫だよ」

「了解、とりあえず来週の土日とかその辺にしようぜ。明日は個人的にやりたいことがあるからな」

「わかった、来週ね。土曜日でいい?」

「ああ、問題ない。待ち合わせは藤の家の最寄り駅で、時間は今日と同じくらいでいいか?」

「うん、大丈夫。柏ちゃんが来る時間に合わせるよ」

 藤の同意を得て、自分達は約束を取り決める。

 今日はツキが回ってるな。まさか藤と遊ぶ約束ができるとは思ってもみなかった。

 テンションはすっかり最高潮。サクッと完食し、会計を終えて藤と一緒に店を後にする。

 それなりにゆっくりした甲斐もあって30分ほど時間を潰せたわけで、駅で待ち合わせるには程よい時刻となっていた。

 駄弁りながら駅までの道を行く自分たち二人。そういえば、と一つ気になっていたことを彼女に尋ねてみる。

「藤はあの喫茶店よく行くのか?」

 偶然とはいえ、よくもまあ人気がない場所で鉢合わせたものだと思う。

「この辺で買い物するときはよく通うかな。中学生の頃に友達と一緒に来たことがあってね、小さくて落ち着いた雰囲気のあるお店だったからお気に入りになっちゃったの」

 成程、友達の勧めだったか。なかなか通な人物だったんだろう。よい目をしている。

「ちょうどよさげな穴場知ってそうだな、その友人」

「ご飯場所なら何でも知ってます!って言うくらいだったし、よくいろんなお店に連れてってくれたんだ。柏ちゃんはそういうお店巡りみたいなことはするの?」

 オールラウンダーなジャンルではないが、父親の転勤先じゃ割と巡ってたと思う。カレー専門店だったり、家系博多系それぞれのラーメン店だったり、濃ゆい味のものは好んで回ってたな。最近は疎かになってるけども。

「こっちに戻る前はそれなりに。こっちに戻ってからはドタバタしてあんまり回れてないんだよ」

 単純な食の好みというより、外食で行く店の偏りは激しいと思う。それなりに作れてしまうものと考えると、選択肢から大方はずれてしまうものだ。いかんね、年を取るとなかなか冒険しなくなるもんだ。とはいえ昔いたときに比べて新しい店も増えたことだし、またぼちぼちグルメ開拓してみるのもありかもしれない。せっかく戻ってきたわけだしな。

「まあ何だ。グループの皆とでも、藤と二人っきりの時でも、ゆっくりご飯食べ歩きみたいなことしたい気持ちはあるな。変わったところなんかは見て回りたいし」

「私も同じ気持ちだよ。二人っきりでデート、しようね」

 悪戯っぽく笑みを浮かべて誘惑する藤の不意打ちに、自分のキャパは許容限界に達しかける。残り何とか持ち堪えられたのは、なけなしの根性精神が理由だった。イメージするなら、バッテリー残り1%のスマホの状態。おかしいね、休んで回復したはずなんだけどな。

「ああ、ぼちぼちな」

 精一杯の抵抗のように返事をし、それから間もなく歩いて駅に着く。

 既に菊梨も椎名も来ており、どこで藤と合流したのかと詰められたのは別の話。

 ともあれ無事集合できたのだから、さっさと予約していたお店へ向かうように上手いこと促すのだった。


***


 着いた店はバイキング形式の表向き洋食店。メニューとしては洋食から和食まで様々で、よほどのことがなければ飽きが来ない品揃えとなっている。

 予約した内容は貸切で120分のランチコース。食べながらゆっくり話すには程よい時間といえるだろう。

 中に入って多人数の予約席へ案内され、各々料理やドリンクを取って持ってくる。

 みんな揃って席に着いたタイミングで、ようやく懇親会の音頭がとられる。誰がやるんだろうと思ってたが、様子を見るに既に決まっているようだった。

「はーい、皆藤のんにちゅうもーく!」

 椎名がパン!と大きく手を鳴らし、自分たちの藤の方へ視線を促す。

 一同が静まり、皆の視線が藤へと集まる。

「僭越ながら音頭を取らせていただきます。みんな、今日は集まってくれてありがとう。食べながらお話しして、皆のことを知っていけたらいいなあって思って今日の懇親会を開いてみたの。もちろん私のことも知ってほしいから、たくさんお話しして楽しんでいこうね。これからの縁が続くことを願って、乾杯!」

「「「「かんぱーい!!」」」

 かちん、とグラスのぶつかる音が鳴る。懇親会っていうよりは飲み会の始まりな気はするが、細かいことを気にするのは野暮だろう。何事も、存外ノリと勢いってね。

 流れのままに一口飲み物を呷った後、早速椎名から話が振られてくる。

「はいはーい!早速かっしーに質問があります」

「はいなんでしょ」

 持ってきたサラダの塊に手を付けながら僅かに意識を向ける。

「いつからその口調になったん?」

 椎名の立場からすれば、当然の質問が飛んできた。というかむしろ、今までよく訊いてこなかったなと今更ながらに思う。

「……口調?昔から君は男勝りな話し方ではなかったのか?」

 なんのこっちゃと菊梨が首をかしげてこちらを見つめてくる。

「昔は普通に女の子だった……と思われる。主観で語るよりも見てきた椎名の方が詳しいと思うから、そこは後で聞いといてくれ。んで本題の口調がいつから変わったのかだけど、中一あたりに変わった。というか変えたが正確かな」

 当時の光景を思い返してみる。あれは自分が人間関係に疲れて引きこもってた頃の話だ。ネットの掲示板を漁り、人が良かった自分を捨てるためにスレッドを立てたことがある。いわばキャラ変だね。ある種早めの厨二病発祥の時期といえるかな。

「それじゃあ、柏ちゃんが引っ越しした後すぐの事なんだね」

「言うほどすぐでもないけど、期間的に見れば割かし越して直近にはなるかな。一応自分の経歴は菊梨にも話してた……よな?」

 菊梨と度々二人きりの時間になるときに、椎名との関係を問われて答えた気がするが、記憶違いじゃないと願いたい。

「一応直接君の口から聞いているけれど、口調が変わっていることだけ初耳かな。差支えがなければ、今の話し方をするまでに至った経緯を聞きたいところだね。構わないかい?」

 爽やかな微笑こそ浮かべているが、菊梨の目は真剣そのものだ。あとの2人も同じく真剣な眼差しでいながらも、それでいて興味を示している様子。

「経緯はそんな身構えることじゃないぞ。安価で決めたものだし」

「……えぇ?」

「「アンカ……?」」

 意味が通じたらしく困惑する椎名と、初めて聞く単語にぽかんとする藤と菊梨の差が面白い。一般人はそりゃ掲示板なんて触らないもんな。

「安価ってのはあれだ、ネットスラングだよ。主にネットの掲示板で使われるんだが、そもそも藤と菊梨は掲示板知ってるか?」

「私は小学校の時に名前だけ聞いたことがあるくらいかな。危ないから触らないようにって、よく先生が注意してたから印象に残ってるのかも」

 おお、健全だ。逆に藤が触れて育って、なおかつ今の性格に落ち着いてるなら恐怖を抱いていたかもしれない。吐きだめみたいな世界に触れて聖人なんて、同じ人間として認めたくない。

「私も同じく。職業柄SNSで出演作品の宣伝や感想を目にすることはあるけれど、インターネットの世界には触れたことがないからね。この機会に是非ともご享受願いたい」

 菊梨は菊梨で面白そうだと、未知の領域に足を踏み入れることを恐れない。好奇心旺盛なことは歓迎だが、民度的にお勧めしづらいという事情から解説だけにとどめておくことを決めた。

 匿名掲示板についてと、安価においての大まかな説明を済ませた。それなりに嚙み砕いて貰ったあたりで、ようやく大元の話に戻ってくる。

「説明終わったから話を戻すが、当時は安価スレ立ててキャラ決めしたんだよ。一人称、性格、口調、みたいな感じで安価方式で採用したら今の自分が出来上がったというか。でもってやってるうちに楽しくなって、デフォルトの状態になって今に至るというか。本当に大したことじゃないよ」

 色々あったが、最終的には若気の至りだね。当時のことを思い出すとこっぱずかしいけども、自分を形作る上でも必要なことだったのだ。忌避するような過去じゃない。実際口調だって気に入って馴染んでるわけだしね。

「この手の話で本当に大したことない事例あるんだね。驚いたよ」

 つまんなーい、と不貞腐れて膨れる椎名。悪かったね、つまらん話で。

「ありのままを話しただけで酷評する理不尽さよ」

 自分の過去なんて本当に大したことないんだし、物語性を求められても困るんだよな。強いて言うなら姉貴と喧嘩した時くらいのものかね。なだめるのに相当苦労した、くらいの内容しか出てこないが。

「決め方は突拍子がなくて驚いたけど、普段の生活に取り入れる心意気がすごいよね」

 藤からはかなり気を遣った感想を伝えられてしまった。視線の優しさが若干痛々しい。

 一方の菊梨は顔をまじまじと細部を観察するように、こちらを覗き込んでくる。

「ふむ、確かに飾っている様子でもないね。私が見るに自然体で話せているし、演技というわけではなさそうだ。意外と君はこちらに向いているかもしれないね」

「本業が言うと説得力があるな、ありがとう」

 まあ新しい自分になる、を名目にして今の自分があるわけだしな。それはそれとして、菊梨の感想は持ち上げすぎな気もする。

「もし君がよかったら、私のマネージャーに紹介するよ」

 菊梨から、一緒にいたいオーラがこれでもかと言うほどに伝わってくる。嫌だよ芸能界に揉まれるなんて。地元でそれなりの会社でリーマンやってる方が性に合ってるっての。

「結構です。面倒くさいんで」

 当然即行お断り。世間に注目される人生なんて御免です~!はいそこ、残念そうにしても揺れないからな!椎名も藤も、もったいないって目を向けるのはやめてくれないかな?

「つか、もう自分のことはいいだろ。菊梨はまあ、世間に公表されてるから割愛するとして、椎名と藤の話を聞きたいね」

「度々気になるが、君は私への対応が雑じゃないか?」

 半ばやけっぱちに話をすり替えようとしたところ、菊梨がちょっと待てと突っ込んでくる。どうにも珍しく、若干不服そうだ。

「気のせいだろ。どっちみちプライベート殆ど割れてんのに、今更掘り下げることあるか?」

 流石に友人に無関心というのもどうかと思ったので、それなりに彼女の出演作を見たり雑誌を買ってみたりと最低限の情報は得ている。メディア向けという事情を加味したうえで、大分公の場にプライバシーを晒されていることも知った。本音を聞くにしても、大筋はきっと変わらないはずだ。

「勿論あるとも。……ただ、聞くというのなら一つ約束してほしい。これから話すことは君たちにしか明かさない内容だから、決して口外しないことだ。頼めるかい?」

 コホン、と菊梨は一つ咳ばらいをし、神妙な面持ちで自分たちに訊ねてくる。

「うん、菊梨ちゃんの内緒話なら約束するよ。友達として、私は応えたいな」

 意外にも真っ先に返答したのは藤だった。一ファンとして知りたいのではなく、ただの菊梨の友人として知りたいと、対等の立場で聞くという誓いのように聞こえた。

「私も同じく。秘密の共有なら私ら適任だしね、任せなよ」

「言うまでもなくって感じだな。口は堅いぞ」

 とまあ、満場一致の結果に落ち着いた。

「ありがとう。では早速、私の恩人の話をしよう」

 そうして、菊梨は語り始める。食べたり飲んだりしながらも、自分たちの耳だけは傾けたまま語り口に意識を向けていた。

キャラプロフィール

名前:雨月(うづき) 桃花(とうか)

性別:女

身長:164cm

年齢:17歳

誕生日:6月10日

髪の色:白

一人称:私

二人称:あんた、あなた、苗字+さん

イメージアニマル:キーウィ

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