第2話「友達、アンダーテイク」
二話です、よろしくお願いします。
かっしーと菊梨が教室を出て、間もない頃合いのこと。
「あーあ行っちゃった。一緒に食べよ、藤のん!」
私はかっしーの席を問答無用で奪い、座って藤のんの机とくっつける。
腕に残った未練のような温もりを、今はどうにかしてごまかしたかった。
「うん、そうしよっか」
柔らかい笑顔で受け入れてくれる藤のんの優しさが沁みるなぁ。にしてもあの相棒め、私と藤のん以外の女に目移りするとは許すまじ!私の説明次第で藤のんの評価を変えることだってできるんだからね!
「「いただきます」」
と、私たちは向き合って昼食を摂り始める。
今日は二人してお弁当。割と茶色一色の中身に対して、藤のんの方は彩り豊かでバランスがいい。
「藤のんはお弁当作ってもらってるのん?」
「うん、今日は作ってもらったんだ。お母さんってば、私が作るって言ったのに任せてって張り切っちゃって」
親が張り切って作ってくれる、と。確かに手間がかかっていそうなおかずが多いから、きっと娘思いの親なんだろうと見て取れる。
「なるほどなるほど、藤のんは家族に愛されてると見た!きっとかわいがられてるに違いないね」
「そんなことないと思うよ。たまに過保護な時はあるけど、普段は適当に話をするくらいだもん。椎名ちゃんは両親との仲はいいの?」
「そだねー……」
少しばかり思い返してみる。会話があるかないかで言えばない方ではあるけど、だからといって空気が悪いわけでもない。昔は趣味に懐疑的で一度揉めたことくらいあったけど、今はお互い線引きして干渉しないことを取り決めたお陰で折り合いをつけて接している。
普段は世間話の一つはするくらいの関係かな。かっしーと会えたことを話したらまるで自分のことのように喜んでくれたんだし、そう思えば大事にされているのかも。流石に過保護に陥る、なんてことは一度もなかったけど。
「多分藤のんと同じ感じがするかなー。私の趣味のことで揉めたことはあるけど、今はちゃんと仲良くやってるよ」
「け、喧嘩したことあるんだ……」
「ほ、本当に昔のことね!その時は何て言うか、かっしーとの共通の趣味だったから捨てたくないって駄々こねたことが発端なわけで……」
大事だったことは否定したくないが、それはそれとして子供だったなぁと今更ながら思い至る。黒歴史を自分で掘り返すようで恥ずかしい。少し照れながら、私は藤のんに軽く話した。
「きっとそれだけ椎名ちゃんにとって大切なことだったんだよ。私は譲れないものでぶつかって喧嘩したことないから、何か羨ましいな……なんて」
「いやいやいやいや!喧嘩なんてしないにこしたことはないって!疲れるし空気悪くなるしフツーに地獄だもん!やっぱ何事も平和が一番だーって実感するよ」
喧嘩したときは顔を見たくなくて、家に帰ることが苦しい時期だった。家族どうしの喧嘩なんてやらないに越したことはない。居場所がないようで、とてつもなく寂しいことなのだから。
「たしかに、自分自身も家族も苦しいのは嫌だなぁ。……うん、今の話はおしまい。ちょっと強引に話を変えるんだけど、椎名ちゃんと柏ちゃんってどんな関係なの?さっきからものすごく気になってたんだけど」
純粋無垢な眼差しにガツンと頭を殴られる。
ま、まぁそりゃあ突っ込まれるよね、うん。部分的に話してかっし―が悪いという印象を植え付けるのは簡単だけど、何か後で報復されそうなのが怖いところ。昔だったらじゃれついて終わっていたところだけど、今は本当に何しでかすかわからない怖さがある。はぁ、しゃーないなぁ。藤のんも友達だし、私たちのことを知ってもらうのは道理かな。このまま置いてけぼりで、かっしーと二人きりの空気になっちゃうのも悪いし。
私は思考を回し、食べ進めながら話始めた。
「私とかっしーは小学校以来の幼馴染だよ。一年生の時に図書館で出会ってね、そこから小学校四年生までよく一緒に遊んでたの。一緒に本を読んだり、お互いの家に遊びに行ったり、何をするにも大体一緒だったくらいにはね」
その後小学校四年生の頃にかっしーが父親の転勤で引っ越して別れたこと、昨日の入学式で数年ぶりに再会できたことを大雑把にまとめて伝えた。
「二人の友情が再会するまで続いてるなんて、ロマンチックだね」
聞き終えた藤のんの表情からは、どこか羨望に近しい思いを感じた。
「あはは、確かに!ほんとにね、憶えてくれてたのは嬉しかったよ。口調が男っぽく変わってたことにはびっくりしちゃったけど」
「えっ、昔は違ったの?」
意外と言わんばかりに、藤のんは目を見開いて驚いた。
「うん、全然普通の口調。見た目ももっと優しそうというかね、凄い明るい女の子だったんだよ。クラスの中心にいるくらいにはカリスマ的なものも持ってたかな。それがどうしてああなっちゃったのか、まだ話せてないんだよ」
単純にお互いの出来事を話すだけの時間がなかったというほかにないけれど、あの太陽みたいに明るいかっしーがどうして男勝りでくたびれたような性格になってしまったのか。
昔なじみの私視点でも、未だに見当がつかない。
「う~ん、それなら一つ提案してもいい?」
いいことを思いつきました!と言いたげに、藤のんが軽やかな笑顔を浮かべている。
「提案ね、聞こうじゃん」
「それはずばり、懇親会を開くことだよ」
コンシンカイ。あー、懇親会か。確かにお互いを知る場所、として考えてみればちょうどいいのかな。それになんかいいかも、陽キャっぽい!自然に提案できるあたり、やはり藤のんは今まで陽キャグループの天使枠だったに違いない!
「昨日の今日で気が早いと思うけど、せっかくこうしてお話しできる関係なんだから大事にしたいの。だからそのために、もっと椎名ちゃんや柏ちゃんのことを知りたいなぁって。もちろん私のことも知ってほしいから、皆でお話しできる時間を作りたいの。どうかな?」
「そんなん大賛成一択でしょ!私も藤のんの人柄とか何してきたかとか、そういうのを知りたいもん!かっしーにだって訊きたいことはたくさんあるし、問いただす意味でも私は懇親会賛成だよ!」
当然ながらの即答。
理由を聞くまでもなく結論は出ていたのに、尚更協力したくなった。
「じゃあ早速予定だね、先に二人で考えちゃおっか」
「だね~、いつ頃にしようか……」
近頃空いている日はあったかな、と脳内カレンダーをめくりかけたところでその思考は閉ざされることとなる。
「ういー、ただいま」
私を捨て置いた相棒が気の抜けた声で戻ってくる。なんか後ろに連れながら。
「おかえり~柏ちゃ……ん……?」
あ、藤のんが笑顔のまま固まった。
「あ、てめぇこの野郎席勝手にとりやがったな!?」
いやいや何の説明もなしってあり!?
でもって何で七条さんはずっと笑顔なのさ!
「いやいやいやいや、この状況で普段のテンションできるかあ!後ろの七条さんはどーしたわけ!?はぁ!?」
「どーしたも何も誘っただけだって。じゃ、適当な紹介よろしく」
何でもないことのように流し、かっしーは近くの席を借りて座った。その隣の席を七条さんも座り、さも当然のように席をくっつけてくる。
「知っての通り七条菊梨だ。柏に君たちの事を友人として紹介されてね、迷惑でなかったら仲良くしてくれるとありがたい。早速ではあるけれど、食事を共にさせてもらうよ」
ニコッと王子様スマイルを浮かべ、私たちを一瞥しながら一言とんでもないことを告げてくる。
友人として紹介された、などと。
あのカリスマ女優の七条菊梨に、私たちを友人と。
あろうことかこれから食事と。
ポク、ポク、ポクと三拍子の間思考が止まった。
やっと頭が回ったと同時に藤のんと目が合い、私たちは───────
「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?!?!?!?!?」」
と、同じタイミングで声を上げていた。
***
藤も椎名もやかましいな。人目があるだろう、人目がさぁ。すんません、あんま見ないでくださいね!
「ちょーーーっとタンマ!というか説明を!説明を求めます!」
「柏ちゃん、私たちにも心の準備は必要なんだよ!どういうことかな!?」
二人して顔が怖いな。そんなに驚くことか?
「落ち着いてくれ二人とも菊梨も、経緯説明の補足を頼む」
「些か衝撃が強かったみたいだね。心得たよ」
自分は菊梨を友人として接するようになった経緯を大雑把に説明した。
菊梨が今まで初めて見るタイプの人間として、雨月柏個人に興味を示したこと(というのは本人に建前としてアドリブ捏造をしてもらった)、でもって友達付き合いを提案して菊梨が賛同したこと、そして最後にみんな一緒の方がいいだろうから、といくらか付け加えた内容だった。一応本人の体裁とプライバシー順守のため、菊梨の「一個人として見てほしい」という本音は伏せておく。
人通りの説明を聞いた反応はというと、二者それぞれ違う色を見せていた。
「な、なんかすごい事になっちゃったけど、私はもちろん歓迎するよ、うん!菊梨ちゃんとできることならおしゃべりしてみたいなぁって思ってたし!ちょうどいい機会かも!」
藤は予想外のテンパり具合を見せ、何とか自分を納得させることに必死なご様子。一方で椎名はというと。
「そうだったそうだった、かっしーは天然でこういうことをしてくる人でしたねー、あはは!で済むかー!!この人たらしめ!」
とご立腹。誰が人たらしだ、誰が。
「人聞きの悪いことを言うなよ。別に女優やってモデルようが学生生活じゃただの同級生の女の子だろうに。仮にこいつが好きな声優だろうが絵描きだったとしても、それをひけらかすために学校通うわけじゃないってことくらい椎名もわかるはずだ」
「言い分はわかるけどさ、私ら一般市民にはハードル高いって。切り替えられるかっしーが異端な方だよ」
はあ、と椎名は大きくため息を吐いて頭を抱える。確かに一般人感覚の二人には、無理を強いていることもまた事実だ。いや待て、椎名はこっち側だったはずだが?自分の勘違いだったかな。
「切り替えてるわけじゃないが……まあ、確かに突然だったのは悪かったよ。これから菊梨と友達なら学校で注目されるだろうし、プレッシャーになりうることだと思う。それを承知の上で、二人を巻き込ませてもらいたい」
自分は一度、二人に向けて頭を下げる。
「ふむ、これは私のために頭を下げてくれているのかな?」
見ずとも声音で嬉しそうな顔してるなと、なんとなく伝わってくる。ある意味菊梨のためでは間違ってないけどさ、もっと大事な事だっての。
「馬鹿言え、自分の筋通すためだ。親しき中にも礼儀ありって言うだろうが」
多少仲がいいからって、善意に甘えるばかりじゃ痛い目を見る。せっかくできた縁を絶やさないためにも、自分の行為は必要不可欠なのだ。
「……いいって、頭上げな」
熟考した末か、椎名が口を開く。従って自分も頭を上げ、続きの言葉を待った。
「確かにいきなりのことでびっくりしたけど、どうせかっしーのことだから善意じゃん。だったら私から言うことなーし。それに、七条さんと友達なんてなかなか得られる機会じゃないっしょ。あ、でも考える時間をくれなかったことに文句はあるから間違えないように!」
「そこはまあ、はい」
実際悪いから返す言葉もない。
「ま、面白そうだからチャラにしたげる。というわけで私はオッケー!藤のんはどう?」
椎名は笑って答え、藤に話を振った。
「私も椎名ちゃんと同じ気持ちだよ。いきなりのことだったし、何より菊梨ちゃんはテレビで輝いてた人だから緊張しちゃうかもしれないけど、仲良くなりたい気持ちは強いから。私からも、よろしくお願いします」
なかなかの無茶ぶりに申し訳なく思うが、そこは藤の器の広さゆえか。真摯に向き合って考えて、肯定してくれた。一応藤にはさっきの要望に応えた形にはなるのだが、無理を強いてるようで少し心が痛い。この手の優しいタイプは爆発すると怖いんだ、取り扱いは十二分に注意しよう。
「宮之阪椎名に墨染藤だったね。不束者だが、これからよろしく」
どうにか落ち着いたあたりを見計らってか、菊梨が締めに短く挨拶を済ませる。
「ん、よろしくね菊りん!」
「ことらこそよろしくね、菊梨ちゃん」
ともあれこれで一件落着。受け入れてくれた二人の度量に感謝し、自分は安堵で胸をなでおろした。
「ねえ柏ちゃん」
「どした、藤」
「私たちが知らないところで大事なことを決めるのはめっ、だよ。今度同じ事したら怒っちゃうんだからね!」
頬を膨らませ、精一杯怒ってるアピールをする藤に愛くるしさを覚えてしまった。なるべくなら怒らせたくない。怒らせたくない、のだが……ちょっと見てみたいなぁ、なんて。はっ!自分はなんて邪なことを!何も考えてない、考えておりませんとも!
でも、めっ!だなんて可愛らしい怒り方する藤も悪いと思うんだ。
「わかった、次はその場で連絡を……って手段ねえや」
今更ながら、藤や椎名との連絡手段を持ち合わせていなかったことを思い出す。椎名に関してはすっかり忘れていたので置いといて、藤とは昨日会ったばかりの仲ゆえに躊躇していたところではある。
「ごめんね、交換したものだと思ってた。L〇NEでいい?」
「ああ、大丈夫だよ。QRコードはこっちが出しとく」
「ありがとう」
雨月柏は、藤との連絡手段を手に入れた!次いで後の二名との交換も済ませ、サクッと共有グループも作成完了。椎名は〇INEとは別にDisc〇rdも交換した。ここ数分のうちに色々と事が進展しすぎて、これからのことがちょっと怖いまである。
「菊梨ちゃんとLI〇E交換できるなんて夢みたい。嬉しいなぁ」
えへへ~、なんてとろけた笑みを浮かべる藤は、歓喜のあまりに夢と現で行ったり来たりしている模様。これが有名人と知り合いになった一般人の反応かと、なかなかに新鮮な知見を得た。
「私も君たちとこうして普通のやり取りができることはとても喜ばしく思っているよ。やはり皆、一歩退いたような対応になってしまうものだからね。気を遣ってくれるのはありがたいけれど、緊張させてしまうのは私としても本意じゃないんだよ」
一口水筒を呷り、小さく溜息を吐く菊梨。一瞬覗かせた表情には翳りがあったように見える。
「有名人の悩みだねー。まま、こーゆーのは時間が解決するっしょ。皆昨日の今日で浮かれてるところもあるわけだし、慣れてくれるのをゆっくり待つっきゃないってね」
「確かに時に任せる他になさそうだ」
返された言葉に同意して頷く傍ら、菊梨の視線は興味深げに椎名を捉えていた。
「どしたん菊りん?」
弁当を食べながら、椎名は視線に問いかける。
「特別なことではないんだろうけど、君も柏みたいに冷静なんだと思ってね」
成程、椎名を同類なのではと感じているわけか。
「うーん、まあそうねぇ。そこの世捨て人に比べたらあれだけど、私も一応日陰者の趣味をしてるのよ。世間一般層の趣味とは畑違いだから表の芸能人の関心が薄いくらいで、声優さんとかイラストレーターの人とかだったら緊張しちゃう自信はあるかな」
世捨て人て。そりゃあドラマとかイ〇スタとか、キラキラした陽キャの常識はないけどさ。最近のニュースくらいは気にしてるし、世捨て人ってのは過言が過ぎるんじゃないかと柏さん思うワケ。
「椎名が日陰者とは意外だな。こんなにも愛らしい外見をしているのに」
「あくまで趣味の話ね。外見を褒めてくれるのは、まぁ、ありがと」
他人から不意打ちで褒められたことが嬉しいのか、必死に照れ隠しをしながらも一言礼を告げる椎名がどうも可愛らしい。なかなか珍しい光景を見せてくれた菊梨には心の中で感謝しておこう。
「とにかく、私が菊りんに緊張することはないからさ、そっちももうちょいフランクにしなよ。息詰まるのは嫌っしょ」
乱されかけた心を持ち直し、椎名はニッコリ笑顔で菊梨に返した。
「ありがとう。君たちの器の広さには感服してばかりだよ」
なんやかんやドタバタしたが、改めて七条菊梨が仲間になった!
こうして新たに一人を加えて賑やかになった昼休みの時間は、やけに短く感じるのだった。
***
久しいフルタイムの授業を聞き流し、放課後のHRが終わった頃のこと。
教室はもうフリータイムのノリで、せっせと帰る者から早々部活動に勤しむ者まで様々である。かくいう自分も帰宅の準備は完了。ひとまず姉貴に連絡し、放課後どうするか訊ねることにした。
「もしもし姉貴、放課後そっちはなんか予定はあるか?」
『それがね、ちょっと用事が出来ちゃったのよ。悪いけど先に帰っててくれないかしら』
「了解、晩飯のリクエストは?」
『魚で適当によろしく』
「あいわかった。んじゃ家でな」
短い会話を交わした後、通話を切ってざっくり周囲を見渡してみる。椎名は近くの席の女子と話し込んでおり、菊梨は相変わらず揉まれている。藤も藤で男女混合の少人数で話しており、今の自分はフリーの状態といえる。
邪魔するのも悪いし、さっさと帰ろう。
唯一空いた自分は、食材の買い物でもしようと席を立つ。
うちの両親は共働きで、夜遅くまでは帰ってこない。故に姉貴か自分のどっちかが家事をする必要がある。姉貴は学校の友人とよく遊んでいた分、殆どが自分の役目と化していた。そのことに関して特に不満もなければ、寧ろ好き好んでやっているほどだ。
環境が変わってもある種変わらない日常に安心しつつ、教室を後にしようと扉に差し掛かった折のこと。
「う、雨月さん。今時間いい?」
と、唐突に声をかけられた。声の主は女子二人組の片方で、茶髪メガネのちんまりした印象の子だ。名前は何だっけ、確か、えーっと……そうだ、江坂さんだった。江坂さんは、怯え半分興味半分といった様子。小動物みたいでなんかマスコット候補に挙がりそうだな。
「あまり時間がかからないなら問題ない。どうしたんだ?」
返事を聞くや否や、ぱあっと二人組は笑顔を輝かせる。もう片方は誰だったっけ。眼鏡のない黒髪の中くらいのやつ、名前なんつったっけ。ほ、から始まったような……ああ、本町さんだった気がする。
「えっと、今朝七条さんに声をかけられてた後のことを聞きたくて。お昼休みの時、二人で何があったの?」
と、本町さん(仮)が早速訊ねてくる。なるほどあれだ、菊梨へのとっかかりが欲しいとみた。
「特別なことは何もなかったよ。適当にプライベートな話して教室戻ってきただけだから」
「ええ!?それだけなの!?」
「く、詳しく!何を話したの!?」
さっきまで気弱で謙虚だった二人はどこへやら、興奮して食い気味にぐいぐい袖を引いてくる。
話したい気持ちはあるが、内容が内容なだけに口外できない。だからって納得しそうにないもんなぁ……よし、本人に判断丸投げしよう。面倒だし。
目線を二人の中間くらいの高さまで落とし、顔を合わせて自分は話す。
「申し訳ないけど、自分から話せることはないんだ。代わりと言っちゃなんだが、本人と話せるように取り持ってみるが、どうだ?」
「「いいの!?」」
二人組は目を輝かせ、餌にたかる魚みたく食いついてくる。
「ああ、ちゃんと本人に聞いてくるんだぞ?」
「うん、わかった!ありがと!」
「よろしくね雨月さん!」
了承されたとわかるや否や、二人はそそくさと帰ってしまった。仕方なし、菊梨に〇INEで今のことを共有だけしておくか。忘れぬうちに送信し、自分は今度こそ教室を後にするのだった。
下駄箱で革靴を履き、校舎を去ろうと歩き出したところですっかり馴染んだ声を聞く。
「あっぶなぁ……置いてかれるかと思ったぁ」
全力で走ったのか、椎名が肩で息をしながら声をかけてくる。
「置いてくって言ったって、さっきまで話してたやつらはどうしたのさ」
「話し切り上げてきた。かっしーと一緒に帰りたかったからね」
屈託のない笑みを浮かべ、堂々と告げてくる。お前も大概薄情だな。
「スーパー寄ってくから真っすぐ帰らんぞ」
「私は気にしなーい。ほら行こっ!」
強引に手を引かれ、自分は椎名と道を共にする。
何を買うんだとか、帰ったら何するのとか、何の変哲もない雑談を交わしながら歩を進めていく。買い物をしてる間も、それは変わりない。友人とこうして落ち着いた会話を交える幸福感を味わうことは、自分にとってやけに久しいものだった。
ひとまず目当ての魚を買ったり適当なお菓子を買ったりで買い物は終わり。椎名とはこれで別れるかと思ったが、どうやら家についてくるつもりのようだ。曰く一緒にかっしーの家で遊びたいから、とのこと。嬉しい奴め。
こちらとしても見せたいものが山ほどあるので、互いにとっても都合がよかったわけだ。
流れのまま家に上げ、自分の部屋で戯れることにした。
「へー、これがかっしーの部屋かぁ~」
内装を見渡し、目を輝かせて置物に次々と移っていく椎名。
自分の部屋は言わばオタク部屋で、傾向は女子っぽさよりもこどおじ部屋に近い。7.5畳の間取りで、窓際にゲーミングデスクと椅子とデスクトップPC、壁一面の場所には本棚と硝子棚。クローゼットは服とプラモデルの箱の山、塗装道具と小道具入れやら雑多な物置場と化している。
「本格的じゃん~!いいなぁ、この部屋に住めるなんて!理想形じゃん!」
「ふふん、褒めてもこいつしか出ねえぞ」
ある種土地限定のクソ甘い缶コーヒーもどきを段ボール箱から一本取り出し、椎名に渡す。
「ありがと……って、エナドリじゃないんだね?」
「コスパが悪いのと、あんま味が好きじゃなくて買ってないんだわ。椎名はエナドリ派だったか?」
「私はどっちも飲まないかな。そもそも炭酸が苦手だし……あ、これ美味しい」
椎名はこくこくと小さく喉を鳴らし、勢いのまま一本飲み干していた。
「甘すぎるって聞いてたから忌避してたけど、疲れた時にはちょうどいいねぇ」
ぷはぁと一息つき、ほっこりとろけた微笑を浮かべて一言の感想。
「だろ?自分はこいつに何度も救われたもんだ。椎名の口にも合ってよかったよ」
「カフェオレ自体は好きだからね。ちょっとハマりそうかも」
「ああ、カフェオレの仲間だと思うじゃん?成分表示見てみ」
「うん?なんかおかしいことでも……は?」
言われるがまま缶の側面記載の成分表示を見て、そのままフリーズした。
「ねえこれ、コーヒー飲料じゃなくて乳製品ってこと?一番頭に練乳って書いてあるんだけど!しかも120kcal あるじゃん!」
などと途端に慌てだす。そんな気にすることかね、カロリーなんぞ。
「甘いんだからそんくらいあるだろ、気にすんなって」
何を当たり前なことを、と流すように自分は横目を向けて返す。
「気にするよぉ!ただでさえちょっと太りやすい体質になっちゃったってのに……てか、かっしーこそカロリー気にしなくて大丈夫なのさ?」
こちらの体を一瞥し、怪訝な表情で椎名が訊ねてくる。
中学の頃からやたらと訊かれるんだよな。他人様の体質なんか知ってどうするというんだ、というのが率直な疑問である。だからって教えないわけではないんだけども。
「別に。太らないからな」
太らないから気にしない、ただ当たり前のことを答えた。
ただそれだけのことなのに。
瞬間、空気が凍った。
「は?」
椎名の目つきが急に鋭くなった。おお、こわ。もしかして地雷だったかな。
えー、どうしよ。とりあえず煽るか。
「食っても太らない体質なんだわ。ごめんねぇ、強くってさぁ♪」
てへっ☆と舌を出し、絶妙に腹立つ笑みを浮かべて煽りに煽った。
ぶちん、と何かが切れた音が聞こえた気がする。
「ふーっ……!ふーっ……!」
椎名の呼吸が荒い。あれ、本気で怒らせた?
小刻みに体を震わせ、プレッシャーを感じるオーラを身に纏っている。まるで聖戦士のようだ。
「うがあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「うおぁっ!?」
怒りが爆発した椎名によって、自分は床に押し倒された。
すかさず馬乗りの下敷きになり、逃れられない状況に追い込まれる。
おっとまずいな?椎名がゾーンに入ってるっぽい。
「ほ、本当に太ってないかはちゃ~んと確かめないとねぇ!覚悟しろぉ!」
その手が制服のボタンを一つ一つ外していく。
え、マジでやるの!?ちょちょちょ、タンマタンマ!それは聞いてない!いや待て止まれ!
「椎名ストップ!いくら友達同士でも故意に人の服を脱がすのはどうかと思う!煽ったことは悪かったから!ここまでキレると思ってなかったんだって!ごめん、謝るからそれ以上脱がすのは!」
慌てて弁明するも時すでに遅し。椎名は止まることなく、Yシャツのボタンまで外していく。
「あの、椎名さん……無言のままは怖いんですけど……」
淡々と手際よくボタンは外され、下着と肌が露出させられる。
「かっしーが悪いんだから!煽った罰!いいから大人しくまさぐられろぉ!」
「さすがにそれ以上はライン越えで……」
「どの口が!」
「まって、せめて優しくしてえええええええええええええええ!!」
制止の叫びも空しく、捕食者の目をした椎名に体のあちこちを揉みしだかれる。彼女が冷静になるまで、自分はひたすら身体を弄ばれるのだった。
***
「……満足しましたか」
制服を着直し、口をとがらせて訊ねる。
「満足!」
げんなりした自分とは真逆に、つやつやてかてかの笑顔で応える椎名。
姉貴以外に身体を触られるのは初めてのことで、流石の自分も恥ずかしい。
椎名の小さくて柔らかい手の感触が、胸やお腹に残ってままならない。今日の夜まともに眠れるかな。
「いやー、実際見てみるとかっしーってスタイルいいよね。栄養全部その胸に言ってるんじゃないの?サイズいくつなのさ」
うりうり~と、肘で胸をつつく椎名。さっきの件以降、スキンシップというか距離感がバグッている気がする。気恥ずかしいったらありゃしない。
「い、Eある、かな……うん。最後に測った時のサイズ」
口ごもりながらも、何とか言葉を絞り出して応える。
自分も自分で顔が熱い。全身が火照っているように、ほんのり熱を帯びている気がする。
参ったな、今の自分はどうかしている。
「うわぁでっか……着痩せしすぎでしょ。それでいてお腹は引き締まってるし、背は高いし、顔はいいし、私が惨めになるんですけど!」
自己肯定感の低い椎名の発言が、自分の意識を現実へと引き戻した。さっきまでの自分は何だったんだ、浮ついて恥ずかしがって、らしくもない。
「惨めなもんか、椎名はちゃんとかわいい個性のある女の子だよ。自分が保証する」
「……ひょえっ!?」
今度は椎名の顔が真っ赤になる。咄嗟に片手で顔を見られないようにする仕草から、照れて恥ずかしがっていることが伺える。ここからは自分のターンだ。
「小さくて表情ころころ変わる小動物的なところが可愛い、頭を撫でやすい身長なのが庇護欲をくすぐるね。一生守ってやりたいくらいには愛くるしい」
椎名の顔に手を添え、真っ赤な顔を真っすぐ見つめる。
顎クイで視線の逃げ先をつぶし、強制的に目を合わせる。
「あの、えと……ふぇぇ……?」
何が何やらと戸惑う彼女に構うことなく、自分はダメ押しの一言を告げる。
「それとも逆に食べてやろうか?」
囁くように耳元で誘惑してみる。
「あ、あぅ……喜んで……」
ひたすら困惑して口をパクパクさせてる姿が面白くて、とうとう我慢できずに吹き出してしまった。
「ぷっ、はははははははは!ひぃ~!顔真っ赤になってやがる!してやったりってなぁ~!ああ満足した!ははははは!」
自分が笑い転げている横で、長い沈黙の後憤りの咆哮が遅れてやってきた。
「は、はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
勢いよく掴みかかってくる椎名に、自分はさらに畳みかける。
「なあにが反則だ、人の体弄ぶのもほどほどにしときやがれ!」
「な、なぁ!?ちょっふざけっ、本気にした私の純情返してよ!ライン越え!ライン越えだぁ!異議申し立てますぅ!乙女の恋心を弄ぶのはレギュ違反でーす!」
「違反ならさらに違反重ねてやるが!?殆ど本心っていうカミングアウトをなぁ!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?!?!?」
再び椎名は固まり、声にならない声を上げて立ち上がる。
「かっしーの女誑し!こんなことで勝ったと思うなよぉ~~~~~~!!あと飲み物ごちそうさま!!」
ササッと置いた荷物を慌てて抱え、捨て台詞を吐いてどたどた帰ってしまった。
結局遊びに来たというのは何だったのか、ただいちゃつくだけいちゃついてそれっきりの時間だったな。何がしたいのかわからなかったが、楽しかったし何でもいいか。
椎名が去ったことで、部屋着に着替えて家事に切り替える。
さっきの時間を冷静に思い返し、とんでもないことしたなと途端に顔が恥ずかしくなる。
勢いって怖いな、後で謝っとこ。
大きくため息をつき、心を落ち着かせて家事に勤しむのだった。
キャラプロフィール
名前:雨月 柏
性別:女
身長:168cm
年齢:15歳(高校一年生)
誕生日:8月9日
髪の色:白
一人称:自分(たまに私)
二人称:呼び捨てor苗字+さん付け
イメージアニマル:ワタリガラス




