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第七話 「来訪者アリア 前編」

皆さんこんばんわ。

昼間の方はこんにちわ。

活動報告にコメントしてました通りぎっくり腰になってました。

が、元々なっていたヘルニアを悪化してしまい、パソコンに向かえず携帯で作業してるため投稿が遅延しています。

本来は「ヒトというナ」を投稿してからのつもりでしたが、今回の話を前後に分けました。

尚、今回から視点切換を表示する場合があります。


御迷惑をかけますがお付き合い下さい。

 by,せんだいとりゃ


―――――――――――――――――――――――――――――――――





明け方、夜空が東から昇る太陽により薄くなり出す頃。

儚い星達が地上を見下ろしているように、薄闇に紛れて上空からその様子を眺めていた者がいた。



「やれやれ、お転婆な事だな…」


眼下には小高い丘の上にある一軒家に向かう少女がいた。

嬉しそうに顔を綻ばせながら銀色の髪を靡かせて駆けていく少女。

屋敷の扉にノックもせずに勝手に入っていく姿にヴァーリは人知れず溜め息を吐いた。

その訪問が独断専行の行動によるもので、屋敷の灯りが無い事からも確実に家主側には伝わっていないからだ。

本人は嬉しいかもしれないが、この時間に訪ねられる者の心境を考えると非常に止めたくもなるが、それは俺が関与すべきではない。


まず彼女もここなら大丈夫だろう。と、監視を兼ねた護衛に見切りを付けたヴァーリは屋敷に背を向ける。

朝焼けに照らされ出すレギンレイブ城の眩しさに眼を細目ながら城へと向かった。






―――――――――シン サイド―――――――――――






レギンレイブ城にある二本の巨塔の内の一つ。

多くの兵や騎士の為の設備が入った騎士の塔の鍛練場では、朝から冷たい石材の床にシンが汗を撒き散らしていた。


「ハアッ!」


滴る汗を拭う事もせずにシンは剣を振るう。

朝日が射し込む室内に金属を打ち合う音が響く。


「打ち込みが甘いっ!こうやるんだっ!」


正中線を捉えた上段に迫る剣を避ける事が出来ずに剣で受け止める。


「ぐっ!」


ガンッという金属同士の衝突音。

精確且つ素早い一閃をいなす事も出来ず、その重すぎる衝撃に思わず腰が沈み身体ごと後方に弾かれる。


「隙は新たな隙を生むぞ!」


追撃してくる猛攻を防ぐ事に専念して辛うじて防ぐ。

一撃、二撃、三撃、と剣撃を受ける度に接触面からは火花が飛び、刀身が軋み、揺ぎ、剣からぱっと青い光が散っていく。

その光は自身の魔力。

一撃ごとに剣が削られていき悲鳴を挙げるように魔力が舞う。

それにより一気に重みが増していく剣と身体。


「腕力だけで剣を振るうな!全身と心を一体化させろ!」


叱咤の声と共に鋭い一刀が向かってきた。


「はあああっ!」


横薙ぎを迎撃するように剣を下段から斜めに振り上げる――


「あっ…」


――が横薙ぎは止められなかった。


剣同士が衝突した瞬間、僕の剣は空を飛んでいた。

手元には剣自身が明滅している容易く折れた残りだけ。

首筋に当たる冷たさに思わず唾を飲み込み相手を見詰める。


「ここまで」


剣を突き付けてくるピシッと背筋の伸びた金髪碧眼の女性は、まだまだだな、わざわざ剣に当てにいかなければ今の間だけで八回は死んでいたぞ。と溜め息混じりに言って首から剣を外す。


その終了の合図に安堵したシンは力が抜けて床に膝から崩れ落ちる。

緊張が解けると一気に息は乱れ汗を拭い持っていた剣を見ると、半ばから折れた剣は透けるように薄くなって消えると僅かに目眩がした。

飛んでいった折れた部分も今のように消えただろう。


「しかし…驚いたぞ。まさか、王都に着くなり剣の相手をさせられるとはな」


「ごめんアリア姉さん。わざわざ付き合わせて」


既に何も持っていない手を腰に当てて呆れ顔の女性はアリア姉さん。

僕と同色の髪と瞳した三歳年上の彼女は姉さんと呼んでいても姉弟ではなく、従姉弟であり僕の姉的存在の人物だ。


「いや、私はお前のマスターだからな。

鍛練に付き合うのは構わないが…」


差し出されたアリア姉さんの手を掴んで立ち上がる。


今姉さんが言った通り、彼女は僕を見習いとして指導してくれた先生で、今、僕が正騎士となれたのは先生である彼女の許可と推薦のおかげだ。


「四日もかけてこんな朝方に王都に帰ってきたのに真っ直ぐ鍛練場に連れて来られるのはいささか困る。

私だって女だ。

せめて、旅の汚れと着替えくらいどうにかさせて貰いたかった。

やっと入浴が出来ると思ったのに、また汗をかくことになるなんて…(ぶつぶつ)」


「本当にごめんなさい」


服の汚れ具合を確認するように白いブラウスを摘まむんで愚痴を呟くアリア姉さん。

──汚れてるってどこがですか?

と言いたくなるくらい彼女のブラウスは真っ白で、悔しい事に汗だくでウェットな僕に対して少しも汗をかかずに実にさらっとドライでいるアリア姉さんに若干イラッとした。

しかし、王都に到着するや真っ先に鍛練場に直行で連れて来たのは間違いなく僕なので素直に謝るしかない。

僕は姉さんと違って我慢強く寛容なのだ。


ここでアリア姉さんを少し紹介しておく。


彼女は叙任式を受けずして騎士になった例外の人物で、もう一人のように騎士隊の隊長を務めている。

騎士になる経緯と長身で端整な顔の作り、その美しい容姿も相まって隊長まで務める彼女の人気振りは絶大だ。

今思い出しても今朝の様子を見る限りその人気振りは衰えていなかった。


普段は水の国に常駐する騎士なのだが、先日成人した王女に挨拶とそれに伴い新たな辞令を受ける為に今朝王都に到着した彼女の荷物は、城に着くなり僕のように華麗な隊長だけを待ち構えていた衛士やメイド達が頼まずして喜んでかっさらっていたので、今頃は隊舎にあるいつまでも綺麗に掃除され続けている彼女の部屋(隊長クラスになると個室が与えられ、別の国に派遣されても部屋は無くならない)に本人が望まぬ沢山の花束やプレゼントやらを添えられて届けられているだろう。


彼女のファン達の話によると遠方の国に勤務する元祖お姉様は届かぬ憧れで、二世の存在は身近な希望の星らしい。

ちなみに二世で希望の星というのはティアの事らしく、二人のおかげ(・・・)で百合に目覚めた者も多いらしい。


「私から見てもお前は努力家だ。

無理な鍛練は無駄ではないが効率が良いとはいえないぞ」


「こうして休んでいる最中でも置いていかれるようで不安になるんだ」


「何がそんなに不安にさせるんだ?」


「アインって知ってますよね?」


「あぁ。色んな意味で有名人だからな彼は。

直接話した事は無いが、数年前に見たことはあるし、私のマスターの御子息だしな。

彼がどうかしたのか?」


「話してなかったけど、姉さんがまだ王都にいた頃に剣の勝負を挑んで負けてるんだ。

家を出たばかりで調子に乗ってたせいもあってか負けた時はショックが大きかったよ」


「そうか…それで家では腑抜けの練習嫌いだったお前が努力家になった訳だな」


「腑抜けはヒドイけど、まあその通りだよ。

最初はあいつの事が嫌いでしたね。

無愛想で人付き合いも悪くて…でも、それ以上に凄い奴なんですよあいつ。あまり、努力なんてしてる所なんて見せないんです。

それでも分かるんですよ、次に対峙した時にはもっと強くなってるんです。

その時に思うんです。

あぁ、コイツはまた僕よりも努力して強くなってるなって…だから、休んでる暇なんて無いんですよ。

アイツの隣に並ぶためにも」


僕の努力の理由についての独白を聞いていた姉さんは嬉しそうに微笑んで共感してくれた。


「そうか。良きライバルなんだな彼は」


「僕にとってはそうかもしれないけど、アイツの中にはたぶん後にも先にもライバルで目標なのはずっと一人だけです」


アインと初めて対峙して剣を交えた当時を思い出す。

彼は言っていた。


―俺と会えて良かったな―


勝負の最中に何言ってるんだコイツは?と思った。


―俺はお前と会えて良かった。まだまだ強くなるぜ俺達─


僕を見つめる黒髪の少年は嬉しそうに笑っていた。

その時の笑顔は力を誇示する事に躍起になっていた僕にとって羨ましいくらいに眩しくて、高みを見据えた彼に負けたくないと思う同時に敗北を味わった。


「偉大過ぎる父親を持つ者は大変だな」


アリアの呟きにシンは苦笑するしかなかった。

しかし、次のセリフは笑えなかった。


「うん、そう話を聞いてみると会って話してみたいな」

「え゛っ!?」


一人腕を組んでうんうん頷くアリアに絶句する。


「なんだえ゛っ!?ってのは。決めたぞ!これから案内しろ!」


「え゛っ!?これから!?」


ダメだ!

姉さんはアインと相性が絶対に悪い!


これは絶対なる自信を持って言える予感だ。

この真面目で硬過ぎる洗練潔白人と会わせる友人、恐ろしく我の強い二人は相性が悪過ぎる。


「そうだ!これからだ!・・・といっても、アッシュ様は城にいるとはいえ御子息に会いに行くにこのままの格好で訪ねては失礼にあたる。

汗を流して着替えるから、お前も着替えてから私の部屋に来い」


「えぇ!?僕も行くんですか!?僕、今は隊舎じゃなく11番街に住んでるんですよ!」


いつの間にか自分も行くことになっている事と、11番街に行くのに11番街にある自分の家に行って一度戻るという矛盾にシンは抗議した。

だが、アリアはシンの必死の抗議を聞いても眉一つ動かさずそれが当然とした顔だった。


「それは手紙で知ってる。私はマスターの家の所在を知らんからな、お前が私を連れて行くんだ。だから早く帰れっ。そして戻って来いっ」


この人は一度決めたらもうテコでも動かない。

そう思い、早々と友人と姉の接触回避を諦めたシンは言われるがまま従順に泣く泣く走り出すしかなかった。


「私は最低30分は入浴したいから、40分後にな〜」


背中に聞こえた呑気な声に、そんなん知るかあ!と叫びたい衝動を堪えてシンは鍛錬場を駆け足で出て行きながら、心の中では一騒動が起きる事を確信していた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――






王都の象徴であり、騎士の総本山とも言えるレギンレイブ城には毎日三千人を越える人数が働いている。

外壁や城門の警備、都内巡回などの城外の者達も合わせると一万人という人数が日夜汗を流す事で王都が成り立っている訳だが、その内の約九割の人員が王都外の出身者であり、彼等が毎日寝泊まりする共同宿舎が王都の内周部西側、城に面した6番街にある。

宿舎には兵士と騎士だけに限らず、当然、給仕、執事、侍女に司書や宮廷調理人等と多くの職種の人間がまとまって生活している。

ある程度の役職がある者なら希望すれば家族も同居可能な宿舎に住む事も可能であり、その家族も合わせると二万人という大人数で、彼等だけでちょっとした町が成立する。


それらとは違い、レギンレイブ城敷地内の騎士の塔と隣接した五階建ての建物。


その建物の一、二階には王宮勤務当直者用の仮眠と休憩を含んだ宿直室があり、上階層に隊長クラス以上の隊舎がある。

共同宿舎のように六人共同の団体部屋ではなく、各隊長クラスに与えられるのは団体部屋の者が憧れるプライベート空間。


個室部屋だ。


そして、四階にある個室部屋の一室。

暫く使われていなかったアリア部屋と同じフロアに、ここにも朝から一騒動に巻き込まれる事になる残念な人物がいた。


その部屋は他の個室部屋は元より、一般兵達の部屋よりも質素で飾り気が無かった。

備え付けのタンスとテーブルとベッドと机のみという、明け渡されてそのままの状態に近い室内。タンスの中は収納がほとんど使われておらず、テーブルの上は綺麗に重ねられた書類だけでランプさえ存在しない。


この部屋の持ち主はカーテンさえ付いていない窓からの月明かりだけで仕事をするのだろうか。


一番異様なのはベッドだ。

団体部屋の二段ベッドの者達からすれば、恋い焦がれる一人用の木製ベッドが存在するにも関わらず、その上には、あるべきマットどころかいるべき人物もいない。

しかし、この部屋の主は確かに現在進行形で寝ているのだ。


キイッと木製の部屋の扉がノックも無く開く。

かつかつとブーツを鳴らしながら入って来た人物は寝ている部屋の主を見下ろした。


「せっかくベッドがあるのに。相変わらず床で寝ているんだな」


アリアは部屋に入るなり部屋の隅にいる黒衣の青年に話かける。

部屋の主はベッドに引かれるはずの毛布を直接床の上に引いて壁に寄りかかって寝ていた。


「あぁ。床以外で眠るとしたら起きる事が出来なくなった時だけだ」


間を空ける事無く返事をするヴァーリにアリアは眉を寄せた。


「変わらないな、お前は」

アリアの後に続いて若干緊張しながら室内に入っていたシンは、寝ていると思ったのにさも起きているように喋りだしたヴァーリに驚いた。

実際に彼はさっきまで寝ていたのだろう。

それが部屋に僕達が入って来た時に起きたのか、はたまたその前に起きたのか、いずれにしても彼が常に熟睡は出来ないタイプなのだと思う。

そんなヴァーリの姿に呆れるようにアリアは笑う。


「全く、よくこんな固い床で寝ていられるな。痛くはならないのか?」


アリアは床に敷かれた薄い毛布を屈んで摘まみながら訝しげに繁々と眺める。

挨拶も無しにあまりにナチュラルに会話を続けるアリアとヴァーリ。まともにヴァーリと話した事さえ無かったシンは、ヴァーリに挨拶するタイミングを完全失いただ二人のやり取りを観察していた。


「ところで何の用だ。見た通り俺は寝ていたんだがな」


ヴァーリは僕が今も身体の下に敷いている毛布を持ち上げるアリアに若干の苛立ちの視線をぶつける。

これがシンや普通の騎士達なら、平謝りして機嫌を取ることに尽力するだろう。

それだけ、このヴァーリという若き騎士隊長は実力を兼ね備えているからだ。


「こんな固い石床で毎日寝るなんて私には真似出来ないな。身体中が痛く無ってしまう」


しかし、ヴァーリの圧力よりも自身の興味が勝るもう一人の若き騎士隊長は気付かない。ヴァーリはそんな変わらないアリアに毒気が抜かれて、方向性を変える。


「やれやれ、人の話を聞かないお前も変わらないようだな」


「むっ、相変わらず失礼だお前はっ。私は前々から疑問に思ってた事を口に出しただけだっ。

用件は当然あるっ!

あるが、私の疑問に答えたら用件を答えてやろうっ!」


「勝手に寝てるとこを起こしておいてその態度を取れるお前に疑問を感じなくは無いが…

俺はお前の用事など聞かなくても困らん」


「なっ!

わざわざ訪ねて来てやったのにその言い方は無いだろうっ!?」


僕の記憶にある限り、アリア姉さんが血族以外の男性を訪ねてこんな親しげに会話している姿を見たことが無い。

男嫌いという訳ではないが、恋愛事なんか聞いた事も無い。

それに、元々男全てをライバル視していた傾向があったが「百剣」の使い手に認められてからはそれが強まった節がある。


ただ、姉さんがどんな感情かまでは分からないが、その顔にはヴァーリに対する明らかな好意を感じる。


「あまり薦めはしないが…まず、お前の方が痛くないはずだが?」


「ん?どういう事だ?」


「お前は女だなと言っているのだ」


「へっ…?」


「俺から見てもお前はそこらの女よりスタイルだって良いし、立派な淑女だ」


…更に嫌でも気付いてしまった。

明らかにこの男は姉さんをからかっている。


「そ、そうか。改めて誉められるとさすがに恥ずかしいな」


たしかに、姉さんは身内の贔屓目抜きにしても鍛えてるだけあって無駄な贅肉等なく引き締まっていて、女性にしては長身でスタイルが良い。

おまけに麗人といって良いくらい騎士としとも淑女としても品があって美人だ。


だが!


ダメだ姉さん!

それは巧妙な罠だ!

照れてる場合じゃない!あの獲物に食らいつこうとする蛇のような眼に気付いてくれ!


「ね、姉さん…」


姉さんの肩に手をかけて揺する、が、既にアリアはヴァーリの放たれた蜜に誘われその甘言に酔っていた。ヴァーリは姉さん、という単語におやっ、と一瞬視線をシンに向ける、が、スグに悪魔の微笑みのよいにニヤリと口の端を吊り上げてシンの発言を邪魔するように畳み掛ける。


「そうだなアリア。

君はとても女性らしくなった…その腰回りといい胴体といい女性らしく…肉付いたな」


ドオ〜ン!と音がした気がした。いやバリ〜ンか?


きっとヴァーリは胸とヒップの膨らみを言っているのだが、直接それを言わず遠回しに指摘している所に嫌味を感じる。


「それだけ大きければ仰向けでもうつ伏せでも痛くは無いだろう」


姉さんの身体は部屋ごと地震でも起きたかの如く全身がガクガクと震え出す。

危機感を感じて両手で肩を強く抑えると、シンの視界まで揺れていた。



「お、おおっお前というやつはっ!!

久し振りに会ったというのに憎たらしいくらいに変わってないなっ!!」


激昂し声を荒げるアリアの身に青い光が灯り出す。


「ちょ、姉さん!こんな部屋の中じゃまずいって!」


外なら良いという訳じゃないが、少なくとも同じ血族としてアリアが何を発現しようとしているのか分かったシンはそんな冷静な思考を働かせる余裕は無かった。


「うるさあああいっ!」

「うわあっ!」


シンの身体は青い奔流によって弾かれて壁に叩き付けられた。

アリアから発せられた魔力は凝縮するように右手人差し指に輝きを集め、左手の薬指と絡める。


アリアはその繋がりを振り抜き魔力を切って落とす。


パンッ!とグラスが割れるような音がして指先に集まった魔力が弾け飛ぶ。

それは自分と彼女の血族、ソレイユ家の血統のみが保有する系統固有魔法。

自分が苦労してる魔法がこんな痴話喧嘩で出されるなんて、シンは心底頭が痛かった。


「こんな事で百剣を出すとは中身はやはり成長していなかったな」


怒り心頭のアリアに対して、最初から己のペースを崩さずにいたヴァーリは面倒臭そうな面持ちで立ち上がる。

180後半はある長身のヴァーリ。

あくまで女性の中で長身のアリアの身長は170センチで必然的に見上げる事になる。


「黙れっ!私が気にしている事をそうやっていつも指摘するお前は悪魔だっ!」



一瞬で手の中に握られた確かな質量のある自身が保有する剣をぶんっと振るって正眼に構えてキッと上目遣いに睨み上げるアリア。

ヴァーリは視線を受け流しながら肩に立て掛けていた剣の鞘を淡々と腰に括り付けてアリアを見下ろす。


その二人の様子を部屋の隅で怯えてシンは脅えて眺めていた。


姉さんがアインに会う前にもう一人連れていくから着いて来いなんて言うから来てみれば、なんでこんな事になってるの?

顔面どころか耳まで真っ赤になって目尻に涙を溜める姉さんなんて二人で遊んでいた小さい頃以来で、その顔を満足気に眺めてニヤリッと笑みを見せるほぼ初対面といっていいヴァーリ隊長がとても怖い。

とにかく二人を止めないと!


一瞬即発の二人の間に立って二人を止めるべく、シンは勇気を持って二人に近付いて行く。


「あ、あの…ヴァーリ隊長も姉さんはただ隊長を誘いに来ただけで…

姉さんも止めましょうよ…ねえ」


しかし、既にお互い相手しか眼に映らない二人にはシンの決死の勇気の仲裁も届かない。


その顔を満足気に眺めてニヤリッと笑みを見せるほぼ初対面といっていいヴァーリ隊長がとても怖い。

とにかく二人を止めないと!


一瞬即発の二人の間に立って二人を止めるべく、シンは勇気を持って二人に近付いて行く。


「あ、あの…ヴァーリ隊長も姉さんはただ隊長を誘いに来ただけで…

姉さんも止めましょうよ…ねえ」


しかし、既にお互い相手しか眼に映らない二人にはシンの決死の勇気の仲裁も届かない。


その顔を満足気に眺めてニヤリッと笑みを見せるほぼ初対面といっていいヴァーリ隊長がとても怖い。

とにかく二人を止めないと!


一瞬即発の二人の間に立って二人を止めるべく、シンは勇気を持って二人に近付いて行く。


「あ、あの…ヴァーリ隊長も姉さんはただ隊長を誘いに来ただけで…

姉さんも止めましょうよ…ねえ」


しかし、既にお互い相手しか眼に映らない二人にはシンの決死の勇気の仲裁も届かない。


「ふんっ。俺のささやかな楽しみを邪魔した罪は重い」


「当然だ!知ってて来たんだからな!」


えぇ〜ヴァーリ隊長の楽しみって寝る事なのっ!?

って、姉さんも確信犯だったの!?


それを聞いてよく考えてみれば二人がぶつかるこの状況は必然だった気がして――


「乙女の敵!ヴァーリめ今日こそ覚悟しろ!」

「その三流セリフも聞き飽きた。やれるものならな」


もう勝手にして下さい。

――窓を開けて、今日も快晴だな。なんて現実逃避に走ったシンは二人を止める事を放棄した。


そういえばヴァーリ隊長がこんな話してるのも初めてだな。

そりゃそうか、二人は英雄の弟子で異例の騎士で同期なんだから。


なんて思って、姉さんのオリャアアアという男顔負けの気合いに、乙女はオリャアアアなんて言わないよ。と心と背中で突っ込みを入れた瞬間――


「シンだったな、逃げるぞ」


――ゴオッと室内に突風が吹き荒れて、シンの体はヴァーリに掴まれたまま塔の窓から風によって中空へと放り出されていた。


「えっ?ええええええぇぇぇ!?」


当然人間は鳥のように羽も無ければ、魔法でも使わない限り空を飛べないもので。

生憎とシンは他者とは全く違う魔法を持つ人間で空を飛ぶ事なんて出来やしない。

そして、飛べない人間にとってはこの四階の地上への高さは恐怖に値する。


「ちょっ!?逃げるってそそそっ空にですかあああああああ!」


パニックになっているシンは真下じゃなく風に煽られているせいか斜めにゆっくりと降りていく事に違和感を見出だす事が出来ず。

恐怖の余り見ることを止めた。






主のいなくなった部屋では、騒ぐ弟を連れて黒衣の男が中庭の方へゆっくりと降りていく様子をアリアは窓から眺めていた。


「む…また、今回も逃げられたか…」


飛んで逃げたヴァーリをアリアが追いかけれないと分かっていての手段に文句を言いたげに大きく溜め息を吐いてアリアは振り返る。


「全く、逃がしては駄目じゃないか」


背後にいたのは背中に四枚の翅というか羽が付いた40センチ程の少女の妖精。


妖精は神霊や神獣といった神格化された存在には及ばないが人間よりも遥かに高霊な存在と呼ばれている。


緑色の髪で瞳がクリクリとした可愛い幼女といった外見の少女は羽をパタパタと動かして緑の魔力を鱗粉を撒き散らすように光らせながらアリアの顔の高さに浮いていて、わ〜い\(^o^)/、といった感じで満面の笑顔でアリアの顔面に飛び付いた、というか特攻した。


「っ!?おいおい、そんなしがみ付かれては前が見えないぞ」


アリアはむんずと妖精の背中辺りの服を掴み顔からひっぺがす。

離されても尚両手を上下にぱたぱた動かしてアリアに触れたくて仕方がない妖精さん。

全くキミは相変わらず可愛いな、と小さな顔の顎を擽ると羽を震わせて気持ち良さそうに微笑む姿が非常に愛らしい。


「あの男はやめて私の精霊にならないか?」


「((`Δ´))」


アリアの冗談に声こそ出ていないが抗議するようにぱくぱくと小さな口を動かして、怒っているのかぷう〜と頬を膨らます姿が尚更可愛らしかった。


「アハハ、冗談だよ」


とはいえ、あの男の文句を言うとまた彼女が起こり出すから口には出さないが、この可愛さはあの男には似合わん!

一人思うアリアは、再び顔面に抱き付いてくる彼女を撫でている内に、『飛べないアリアを置き去りにヴァーリを逃がした的確な逃走手段』に対する彼女への文句なんて罪悪感の無い好意的な無邪気の笑顔でどこかへ飛び去っていた。







外に飛び出した後、思わず僕は目を瞑ってしまっていた。


やけに地面に落ちるのが遅いな?と、思って恐る恐る目を開ければいつの間にか既に足が着いていた時は嬉しさと若干の恥ずかしさに笑ってしまったくらいだ。


シンは中庭の芝の上に座り地上を実感しながらまだ足が震えてる脚を揉みほぐしていた。


さっきまでいたはずの騎士の塔はここから見えないけど姉さんも移動してるだろうし、ヴァーリ隊長も多分姉さんを待ってるんですよね?たぶん…

「あの〜、良いんですか?姉さんをあのままにして」


中庭の植樹に目を瞑り寄り掛かっているヴァーリにおずおずと訪ねる。


シンの中でヴァーリは寡黙なイメージだったのだが、先程の二人のやり取りでそのイメージは壊れかけたものの、それはやはり間違いじゃなかった。

こうして二人でいると、まともな挨拶も交わせていない事も相まって若き隊長で間違いない実力者の無言のプレッシャーを感じてしまう。

「フム、そうだな…シン」


「ハッ、ハイッ!何でしょうか!」


そろ〜と顔を窺う為に下から顔を覗き込もうとしていたら、急に名前を呼ばれてシンは驚いた。

何を言われるのだろうかと緊張する。


「俺は中庭にいるからを呼んで来てくれ」


「ええっ!?僕がですか!?」


若き上司の命令は勝手に喧嘩しておいて実に理不尽だった。

しかし、隊長の命令に逆らう事も出来ず渋々承知すると。


「それと一つ、頼まれてくれないか。……ああ。それだけで良い」


ヴァーリ隊長の頼み事はさして難しい事では無かったので僕は軽い気持ちで了承して、『ここで待つ』というヴァーリ隊長を置いて姉さんを探しに行った。


意外にもスグに見つかった姉さんは上機嫌でヴァーリ隊長に対しての怒りも冷めていた。

姉さん曰く『アイツと私はいつもあんな感じだ』らしいのだが、さっきから思っていた事をシンは口にした。



「姉さん。ヴァーリ隊長ってなんだか変わった人ですね」


「あぁ…昔から何を考えてるのか全く分からん」

捉えどこが無い奴だ、と言う姉さん。

今日だけで姉さんは沢山の喜怒哀楽を見せていたが、この時の姉さんの顔は寂しそうだった。


これだけ感情を露にする姉さんとヴァーリ隊長の関係も気になる、が。


「僕もそう思います」


と、踏み込む事はせず頷くだけにした。


その後、ヴァーリ隊長と合流しても二人はぶつかり合う事も無く、僕はヴァーリ隊長に遅れた挨拶と経緯を説明してから三人で11番街へと向かった。





―――――――――シン サイド終了―――――――――――






今回の話からアリアとヴァーリ、二人のエースが活躍してきます。

携帯のレスポンスと変換の勝手悪さにめげず、ノートパソコンを勝っておけば良かったと後悔しながらも、二人の関係とその実力を皆様に早くお届け出来るように御頑張ります。


次回予告


当初の予定と変わって二つに分けてしまいましたが、次回は当然後編です。

アイン達が出てきます。

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