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 朝陽が窓からさしこみ、宿屋《まどろみ亭》の食堂にはおだやかな時間が流れていた。テーブルには焼き立てのパン、彩り豊かな果実、香ばしいハーブティー。

 サイラスは、いつもの席で――もうフードなどかぶっていない――優しい眼差しでユーリを見ている。今日はユーリがお休みの日だ。


「サイラス様、はい、あーん!」

「ん……ほんとに、こういうの、恥ずかしい……」


 サイラスはやや困った顔をしつつも、ユーリの差し出すスプーンを口に運ぶ。その横顔に、ユーリはにっこり微笑む。


「美味しいですか?」

「……ああ。お前と食べると、何でも美味くなる」

「ふふっ、よかった!」


 食事のあと――二人はそっと手をとりあう。食堂から裏庭へ、柔らかな日差しに包まれながら、静かな時間を歩く。



 裏庭に咲く花畑のそば。ユーリがふいに振り返って、サイラスを見上げる。


「ねぇ、サイラス様」

「なんだ?」

「私ね、ずっと考えてたんです」


「何を?」


 ユーリは指を絡め、サイラスの手の甲を撫でながら、どこかいたずらっぽく――でも真剣な目で言う。


「サイラス様に似た子どもが、たくさんいたら幸せだなあって」


「……っ」


 サイラスの顔に瞬く間に朱がさし、思わず息をのむ。


「な、な……」

「だって、きっとみんなきれいな瞳で、優しくて、ちょっと頑固な子。サイラス様みたいに、不器用だけど温かくて」


「ゆ、ユーリ……」


 サイラスは言葉を失い、手のひらに汗がにじむ。その頬の赤さに、ユーリはにっこり、さらに距離を詰める。


「だめですか?」


 上目づかいでじっと見つめる。サイラスはごくり、と喉を鳴らして俯いたが、すぐに意を決したように、そっとユーリの肩を抱き寄せた。


「やめろ、そんな……お前……」


 低い声。それでも、拒めない。むしろ、昂る想いを持て余しているように。


「……そんなこと言われたら、永遠にお前を離せなくなる」


 やさしく髪を撫で、もう一度手を握る。


「俺は、……ずっと、誰にも必要とされないと思って生きてきた。でも今は、早くお前を俺だけのものにしたくて――」


「……結婚したい。今すぐにでもしたい」


 声は震えていたけれど、それは何よりまっすぐな願いだった。ユーリの目にも喜びの涙がにじむ。


「私もです! サイラス様とだったら、どこに行ったって幸せです。毎日一緒にいてくれますか?」


 サイラスは思わず、その額にキス。


「もちろんだ。……お前が望むのなら」


「ふふふ、サイラス様、私の愛は重いですよ。覚悟してくださいね?」


「もう覚悟はしている。それに俺のがずっと重いと思う……命ある限りお前の隣にいる。俺にはそれしかできないが――それでもいいか?」


「もちろんです!」


 そうして、二人はもう一度ぎゅっと抱きしめ合った。頬をすり寄せ、指先を絡め、幸福な静寂に身を委ねる。


 サイラスは小さな声で付け加える。


「なぁ、ユーリ……“好きだ。世界でいちばん”。

多分、お前がしつこく言い続けてくれなかったら、俺は一生、こんな幸せを知らずに生きてた」


「じゃあ、もっとしつこく言おうかな……好き、大好き、愛してる。……これから毎朝毎晩、何度でも言いますから」


「やめてくれ、そんなに言われたら、キスしたくなる……」


 ユーリは目を閉じ、サイラスの両手をとって小さく囁く。


「……して、いいですよ」

「……ん」

 

 そっと、二人の唇が重なる。


 咲き誇る花々の香る庭、世界には彼ら二人しかいないような幸せな静けさ。太陽は高く昇り、二人だけの永遠の物語が、優しく、熱く、始まっていく。


――Fin.

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