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第7話「剣と哲学」

森の帰路、鳥たちの囀りが静かになったその瞬間、ヴァレナがアルナの前に飛び出した。漆黒の毛並みを逆立て、低く唸りながら前方を睨みつける。

「悪意を持つ者が潜んでいる、剣を取れ、アルナ。」

ヴァレナの警告にアルナは一瞬緊張した面持ちでクレイナの肩を掴む。

「クレイナ、止まって……。」

クレイナは驚いた表情を浮かべつつも、すぐにアルナの言葉に従い立ち止まる。その瞬間、木陰から閃光のように剣が飛び出した。反射的に剣を抜いたアルナがその一撃を防ぎ、激しい金属音が森に響く。

目の前に現れたのはエルフの刺客。しなやかな体躯と鋭い眼光を持つその者は、鋭い剣先をアルナに向けながら、じっと彼女を観察している。

「……ヴァレナがいなければ、今頃私は斬られていたかもしれない。」

アルナは覚悟を決め、戦士としての意識を切り替えた。かつて戦場で培った技術と知恵を総動員し、目の前の敵の全てを分析する。装備、動き、剣の型、表情……ありとあらゆる情報がアルナの頭に流れ込み、一つの結論が導き出される。

「なぜ私を狙う?」

問いかけるが、返ってくるのは無言の殺気。次の瞬間、刺客は再び間合いを詰めて襲いかかる。

アルナは即座に一歩後退しながら、敵の動きに集中した。剣筋にはわずかな癖がある。上段からの攻撃がわずかに早いが、横の動きには隙がある――その分析を瞬時に頭の中で組み立てると、アルナはわずかな進路に荷物を投げ込んだ。

「……!」

敵の足が一瞬止まる。それを見逃さずに懐へと飛び込むと、左手で敵の剣を押さえ、右手の剣を敵の胸の急所に突き立てた。刃が血を噴き出しながら深々と刺さり、刺客はうめき声を漏らしてその場に崩れ落ちた。

だが戦いはまだ終わらなかった。森の奥からわずかな草木の揺れる音が聞こえ、アルナが振り返ると、もう一人の刺客がクレイナを人質に取っていた。

「動けば、この女の命はないぞ。」

剣を突きつけられたクレイナは恐怖に顔をこわばらせながらも、アルナを見つめて声を振り絞る。

「アルナ様……私のことは……っ!」

「黙れ。」刺客の低い声がクレイナを制する。

アルナは剣を強く握りしめ、悔しげに歯を食いしばる。しかし、無理に動けばクレイナの命が危うい。

「武器を捨てろ。そして後ろを向け。」

深く息を吐き、アルナは剣を地面に落とした。敵の命令に従いながらも、アルナの思考は止まらなかった。敵の持つ剣、その構え方、そして剣戟の音――それらが頭の中で繋がり、ある可能性が浮かび上がる。

――イザベルの、フランマード家が代々使用する独特な型を。

「イザベルの使いか……。神託を受けた私を疎ましく思ってのことだろう?だが、それを理由にこんな卑劣な手を使うとはね。」

アルナは挑発的に煽りながら、相手の動揺を誘う。

「王家の血を継ぎながら…落ちたものだね…」刺客の表情が一瞬険しくなり、ついに憎悪に駆られてクレイナを突き飛ばし、剣を振り上げてアルナに襲いかかってきた。

「……イザベル様を侮辱するな!」

その怒声とともに、敵はクレイナを突き飛ばし、剣を振り上げてアルナに襲いかかってきた。しかし、彼らがその挑発に乗ることをアルナは予測していた。

間合いを一歩ずらし、相手の剣をかわすと同時に、その顎へと全力の掌底を叩き込む。


鈍い音が響き、刺客の体が地面に崩れ落ちる。アルナは息を荒げながらその姿を見下ろし、相手が息をしていないことを悟った。

「……力を抑える余裕なんてなかった。」

彼女は深い悲しみを抱えながらも、クレイナの元へと急ぎ、無事を確かめた。

「クレイナ、大丈夫だったか?」

クレイナは震えながらも、アルナの目を見つめ、かすれた声で答えた。

「……怖かった。でも、アルナが助けてくれて……ありがとう。」

その言葉にアルナは微笑みながら、小さく頷いた。

「ヴァレナが村から離れろと言っていたのは、このことだったのか。」

だが、アルナは逃げるわけにはいかなかった。握りしめた拳を解き、森の向こうに広がる街を見据える。

「知恵を信じて前に進む。必要なら剣も使おう。でも、逃げることはしない。」

アルナの決意を胸に、二人と一匹は再び街への道を歩き始めた。


11/29 イザベルの名家に「フランマード」という名前を加えたのでそれを追記しました

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