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第4話:『嫉妬と誇り、過去の影』

イザベルは王都の自宅に戻り、静かに息を吐き出した。外からの喧騒はどこか遠くに感じられ、月明かりが差し込む窓辺で、彼女の銀の髪が淡く輝いている。

「…アルナ、あなたの言う『知恵』が、私の力に勝るって証明してみせてくれる?」ふと、先ほどの自分の挑発的な言葉を思い返す。アルナの前では勝気に振る舞ったが、心の奥にはどうしようもない迷いがあった。なぜ、あのような挑発をしてしまったのか、その理由が自分でもわからなかったのだ。

彼女は心の中で押し殺そうとする感情に気づかぬふりをして、窓の外を見つめた。しかし、どうしてもある光景が脳裏を離れない。それは、アルナを見つめるエリシェの穏やかな視線と、彼女の背中を支える優しい手のひらだった。

「…なぜ、そんな風に…」イザベルは小さく呟きながら目を伏せる。エリシェがアルナを支える姿に、なぜこんなにも胸が締め付けられるのだろう。もしかすると自分は、アルナがエリシェのように誰かに支えられることを当然のように受け入れている姿に、無意識に羨望を抱いているのかもしれない。そして同時に、その自分自身の感情を認めたくなかった。

気持ちを振り払おうとしたとき、ある記憶が脳裏に浮かび上がった。彼女は幼い頃から自分の力で王族としての価値を証明し続けてきた。それが、自分の道だと信じていた。

あの日の戦場でも、イザベルは王族の誇りを示すべく、自らの剣を振りかざして戦った。しかし、予期せぬ危機に直面した瞬間、彼女の剣は折れ、周囲に援軍の姿はなかった。全てを一人で支え、誰にも頼らないと誓ったはずが、その力が足りなかったのだ。結果として戦場での功績は挙げられず、一族や王宮からの信頼も揺らぎかけた。

そして――その時、彼女の代わりに戦場で活躍したのが、若き戦士アルナだった。アルナは冷静さと知恵で戦局を見事に打開し、一族や仲間たちから称賛を集めた。若いエルフの少女が、まるで導かれるように戦局を一変させた姿は、今も鮮明に焼き付いている。

その光景が、今もなおイザベルの心に深い傷跡として残っていた。

思い出すたびに、イザベルの胸の奥が締め付けられるように痛んだ。自分には王族としての血がある、力も知識も誰にも負けない…そう自分に言い聞かせても、心の中にはいつも挫折の痛みが燻っている。

「アルナはいつも支えられている…。でも、私には私の道がある。誰にも頼らない、自分の力だけで立ち続けることが私の誇りなのだから…」イザベルは自分の拳をぎゅっと握りしめ、胸の奥に渦巻く感情を封じ込めようとした。しかし、エリシェがアルナに寄り添い支える姿が再び心に浮かび、胸の奥に激しい嫉妬が芽生えた。

「…でも、私は絶対に負けない…あの子なんかに負けるわけにはいかない…」自分に言い聞かせるように呟く彼女の声は、まるで孤独な決意のようだった。

その時、部屋の扉が静かにノックされ、忠実な従者が頭を下げて報告した。「イザベル様、大神殿からの使者が参られました。神託を受ける資格が、あなたにあると告げられております」

その言葉に、イザベルの心は大きく揺れた。神託…それは王族の中でも選ばれた者にのみ許される、神々の知恵を授かる機会。偉大なる知恵と真実を授かることで、彼女は再び誇りを取り戻し、アルナにもエリシェにも自分の価値を証明できるかもしれない。

イザベルは再び窓の外を見つめ、銀の髪が月明かりに照らされる中で静かに覚悟を決めた。彼女の拳は、期待と決意で小さく震えていた。

「そうね…今こそ、私が試される時が来たのかもしれないわ。私は私の力で、誇りを守ってみせる」


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