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第18話サイドストーリー:「信頼」

朝日が昇りきり、澄んだ空気の中で屋敷の庭が柔らかな光に包まれる。クレイナは薄手のエプロンを手に持ちながら、朝食の支度を手伝おうと厨房に向かっていた。小鳥たちのさえずりに耳を傾けながら歩いていると、ふと中庭の方から微かな声が聞こえてくる。

好奇心に駆られてそっと覗くと、エリシェ様とルネが向き合って話しているのが見えた。クレイナは少し迷ったが、「おはようございます!」と明るく声をかけた。二人がこちらを振り向くが、その瞬間クレイナの目に飛び込んできたのは、ルネの手元にある小さな木箱だった。中には見慣れない物――それは間違いなく、小型の銃だった。

「これ、銃ですよね?」驚きを隠せずに尋ねると、ルネは箱を閉じながら困ったような顔をした。「ええ、いざという時のためにアルナに持たせるべきだと思って……」

「いけません!」エリシェ様の声が厳しく響く。

「ルネ、その考えは分かるけれど、アルナがそんなものを持ったらどうなるか、あなたは考えた?」

ルネは少し反論する。

「ですが、エリシェ様。知恵や対話を重んじることと、危険を回避する手段を持つことは矛盾しないはずです。いざという時に守れるのなら、少なくとも持たせておくべきではないでしょうか」

エリシェの瞳が鋭くなる。

「それこそ矛盾よ、ルネ。銃で場を制して対話が成り立つと思う? アルナはそんなものを受け取らない。知恵を貫くということは、力に頼らずに真実を導き出すということよ」

ルネは一瞬言葉に詰まり、諦めたように銃を箱に戻そうとした。しかし、その時エリシェ様が手を伸ばし、箱を取り上げた。「だから、私が持ちます。いざという時は私が――」

「エリシェ様!」クレイナは慌てて銃を取り上げ、箱に戻してルネに押し付けた。「エリシェ様なら本当にやりかねませんから!」

ルネは目を見開き、逃げるようにしてその場を立ち去った。

エリシェは少し肩をすくめ、ため息をつく。

「まあ、いいわ。今日、出かけたい場所があるの。あなたも付き合いなさい」

「どちらへ?」と尋ねると、エリシェは簡潔に答えた。

「留置所よ」

クレイナは少し前に街でアルナとイザベルが争い、イザベルが拘束されたことを思い出した。

「イザベルのところへ?」

エリシェは無言で肯定し、足早に街へ向かう。途中、クレイナは疑問を口にする。

「なぜ、危険を招いた彼女のところへ行くのですか?」

「状況を確認するだけよ」とエリシェは短く答えた。


**



留置所で面会手続きを済ませ、イザベルが連れられてきた。かつての堂々とした姿はなく、力ない歩みが痛々しい。

「何の用だ……」と低い声で問いかけるイザベルにも覇気はない。

エリシェは容赦なく言葉を投げかける。

「だらしないわね。あなたらしくない」

イザベルの目がわずかに動いた。

「アルナとの戦いを望んだのはあなたでしょ? たった一度の敗北で全てを失った気になっているなんて、笑えるわ」

「……お前には関係ない」

エリシェは微笑みながら、さらに追い詰めるように続ける。

「関係あるわ。あなたの誇りと強さはこんなものではない。あなたなら立ち上がるはずよ。」

イザベルは黙ったまま拳を握りしめる。それを見て、エリシェは声を和らげた。

「あなたは負けたけれど、それが終わりだとは思わないわ。あなたは強い人間よ。立ち上がらないのなら、それこそ負けたことになる」

イザベルは苦笑しながら呟く。

「簡単に言うな」

エリシェは肩をすくめた。

「簡単じゃないのは分かっている。でも、あなたってそんなに簡単に諦めることができる人だったかしら?」

その言葉に、イザベルは何かを飲み込むように目を伏せた。

激励とも皮肉ともつかない言葉を残し、エリシェ様は踵を返した。クレイナはその背中を追いながら、少しだけ元気を取り戻したイザベル様の姿に安堵する。

留置所を出ると、クレイナは思わず口を開いた。「エリシェ様、イザベル様を心配しているなんて、優しいんですね。」

エリシェは少し間を置いて答える。

「そんなわけないでしょ」

そして少し柔らかい口調で続ける。

「アルナには多くの人が支えてくれているけれど、それだけじゃ足りないのよ。アルナに必要なのは、真っ向から向き合い、渡り合える相手。それがイザベルであること、あなたも気付いているでしょう?」

クレイナは黙って頷いた。

その言葉に、クレイナは胸が詰まるような思いがした。自分はただアルナ様を好きで支えたいと思っているだけ。それに比べ、エリシェ様は信頼があるからこそ、あえて敵を作り、嫌われ役を買ってでもアルナ様を導こうとしている。そんなエリシェ様には到底敵わないと感じる一方で、彼女のそばで仕えることができる自分もまた、アルナ様とエリシェ様を支えようと決意を新たにするのだった。


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