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第13話:「君の目指す先」

第13話:「君の目指す先」

ルネが手際よくセレナの足に包帯を巻きつけている。布越しに伝わる彼女の手はあたたかく、セレナは少しだけ目を細めた。銃弾を受けた傷口は痛むが、これまでの奴隷としての苦痛に比べれば、彼女にとっては大したことではなかった。

「急に外へ出て行ったかと思えば、まさか奴隷を拐ってくるなんて…」

包帯を巻き終えたルネが、呆れたように口を開く。

クレイナは即座に否定する。「違います!拐ったわけじゃなくて…!」

だが、アルナも少し考え込むように唇を噛んだ。

「確かに、奴隷として買ったわけではないから…生き延びた商人たちがいれば、そう見られても仕方ないかも…」

その言葉にクレイナが驚いた顔で振り返る。

「……もしかして、あの男、ちゃんと息があるか確認して、トドメを刺しておくべきでしたか?」

物騒な提案にアルナは目を見開き、慌てて声を上げた。

「いやいや、そんなことしなくてもいいよ!何言ってるの!?」

その時、セレナが落ち着いた声で話に割って入った。

「その心配はないと思うよ」

「え?」

「奴隷商人の館にはドラゴンの幼体がいたでしょ?あれ、近々高額な取引が予定されてたんだけど館から脱出するために、盗賊にその情報を流したんだ。ドラゴンのことや、財宝のありか、それに警備のルートまで」

セレナの言葉に一同が息を呑む。アルナが思わず問いかけた。

「え、待って…あれ、君が仕組んだの?」

「そう…だね、何が言いたいかって言うとあのドラゴン…ちょっと暴れただけであんなにしちゃう凶暴性。高額な取引がされる希少なドラゴン…あんな設備と警備の奴隷商人が取引していいものじゃないはずなんだ」

もし生き延びた商人がいたとしても、今頃はそのことで兵に捕らえられて戻っては来れないだろうとセレナは語った。

その大胆な計画に、ルネは感心したように頷く。

「すごいじゃないか。頭も回るし、勇敢だ」

セレナは少し照れたように笑ってアルナを見た。

「君が私にどう生きるかを説いてくれたから、勇気が出たんだけどね」

クレイナが突然セレナに抱きつき、彼女の頭を撫でた。

「とにかく無事で良かった!」

アルナはそんな様子を見つめながら、ふと真剣な表情になり、セレナに向き直る。

「セレナはもう奴隷ではない。元の人間族の国に戻るのなら、できる限りのことをしよう」

その言葉に、一同が驚いた声を上げた。

「え?」

アルナもキョトンと目を丸くする。クレイナが視線を泳がせながら上を見つめ、「そうよね…セレナが決めることだもんね」と呟いた。

しかし、セレナはきっぱりと答えた。

「私は君の奴隷になるんじゃないの?」

今度はアルナが「うん?」と驚いた声を出した。

ルネも補足するように、「私もてっきりそのつもりなんだと思っていた」と告げる。

アルナは頭を振りながら答えた。

「そんなつもりで助けに行ったわけじゃないよ!」

「私が奴隷になっても、なんの力にもなれなさそう…?」

セレナが項垂れたように肩を落とす。

アルナは慌てて否定した。

「そんなことないけど!でも、セレナは奴隷から抜け出すために頑張ったんじゃないの?」

セレナは真剣な眼差しでアルナを見つめた。

「君が来なかったら私は死んでたよ。だから、私の命は君のものみたいなもんだ。それに…私も君の力になりたいんだ」

その言葉に、クレイナが再びセレナをぎゅっと抱きしめる。

「それに君は、奴隷になったからといって酷い扱いをする人じゃないだろう?」

セレナの問いに、クレイナが力強く頷く。ルネも慎重に意見を述べた。

「彼女が元の国に戻るならまだしも、人間である彼女がこのエルフの街で生きるのは厳しい。アルナが守る意味でもその方がいいと思うし、彼女はきっとアルナの目指す先の大きな力になると思うよ」

アルナはセレナを見つめ、少し考えた後に問いかけた。

「本当にそれを望むの?」

セレナは冗談めかして笑った。

「君がやれって言ったんだから、責任とってよね」

しかし、次の瞬間、彼女はおずおずと手を上げて質問する。

「ところでアルナ…このお姉さんが言ってた君の目指す先ってどこ?そもそも君って何をしている人なの?」

その言葉に、アルナは少し困ったように笑った。そして、不安を覚えながらもこう答える。

「それを知るために旅をしているんだよ」

その日から、セレナはアルナの「弟子」として、新たな旅路を共に歩み始めることになった――。


**


セレナがアルナの弟子として過ごし始めてから数日が経った。ルネの館は街でも有数の豪奢な屋敷で、広い庭や大きな書庫がある。館には数名の奴隷や使用人が働いていたが、彼らは主の命令に従い、決められた役割を黙々とこなしていた。そんな中、セレナやクレイナの姿は異質だった。

「ねえ、なんで私たち、こんなに自由なの?」

セレナが居間で本をめくりながら、クレイナに尋ねた。

クレイナは食器を磨く手を止めて、セレナに微笑む。「それはアルナが、私たちをそうしてくれてるからよ。」

「アルナが…?」セレナはきょとんとした表情を浮かべた。

「アルナはね、他の誰よりも、人を対等に見ようとしてるの。」

クレイナは少し遠くを見つめるように続けた。「主人と奴隷っていう関係を超えて、一人の人間として私たちに接してくれる人なんだよ。」

その言葉を聞いて、セレナはなんとなく納得がいったような表情を浮かべた。

「でも、アルナ。」セレナが真剣な顔つきで振り返る。「あなたがここで何をしているのか、いまだに私にはよく分かってないの。討論って言うけど、そんなことが本当に意味あるの?」

その質問に、アルナは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。

「討論はただ言葉をぶつけ合うだけのものじゃない。真実を探り、知恵を深めるための大事な道具なんだよ。」

「知恵を深める…?」

セレナは首をかしげる。彼女にとって、「知恵」とは抽象的すぎて掴みどころのないものだった。

クレイナが横から口を挟む。「アルナは、神託を受けた存在なんだからね。その使命の一環みたいなものなのよ。」

「神託…」

セレナの目が輝いた。「もしかして、それって本当に何かすごい力を持ってるとか?」

「違うよ。」アルナは苦笑いを浮かべた。「私はただ、自分が賢いかどうかすら疑っている。だからこそ、いろんな人と話して、その答えを探しているんだ。」

セレナはアルナの答えをしばらく考え込んでいたが、やがて頷いた。「なんだか分かったような、分からないような。でも、君がそう言うなら、私も手伝うよ。」


**



その日の午後、アルナはルネと一緒に街の広場へと向かっていた。すでに多くの人だかりがあり、これからアルナが討論をすることをルネが告知していたことによるものだろう。賑やかな市場が立ち並び、人々が行き交う中、アルナの姿はすぐに注目を集めた。

「今日は『自由』について話し合おうと思います。」

その言葉に反応して、近くの商人が口を開いた。「自由とは、他人の指図を受けずに自分で決められることだろう。」

「いや、それは身勝手というものだ!」別の老人が反論する。「自由とは、責任を伴うものでなければならない。勝手に振る舞っていては社会が成り立たん!」

若い旅人が笑いながら言葉を挟む。「そんなの堅苦しすぎるよ。自由ってのは何にも縛られないことじゃないのか?」

それぞれの意見が交わされる中、セレナとクレイナは少し離れた場所でその様子を眺めていた。セレナはアルナに仕える立場にありながら、普段からアルナが「奴隷」として扱っていないことを知っていた。それでも、「自由」というテーマにはどこか遠さを感じていた。

やがて議論が加熱し、各々の意見が錯綜する中、セレナがぼそりと呟いた。「結局さ、みんな言ってることがバラバラで、答えなんて出てないじゃない。」

その声を拾ったアルナは、セレナに振り返ると柔らかく微笑んだ。「そうだね。だからこそ、議論をする意味があるんだ。いろんな考えが交わることで、知恵が深まるからね。」

セレナは少し照れたように目をそらしながらも問いかけた。「でもさ、自由ってそんなに大事なこと?結局、誰かのために動いてるなら、自由なんて意味がないんじゃない?」

アルナは少し考え込むように視線を空へ向けた後、ゆっくりと答えた。「セレナ、君は自分で決めて、私に奴隷として仕えることを選んだ。そうだよね?」

セレナは頷いた。「そうだけど…それが自由かどうかなんて、分からないよ。」

アルナは静かに言葉を続けた。「自由ってね、何でも好きにやることだと思われがちだけど、そうじゃない。私は自由とは、自分の行動や選択に責任を持つことなんじゃないかって思う。君が私に仕えると決めたのも、君自身の選択だ。その選択を大事にすることが、自由の一部なんじゃないかな。」

セレナはその言葉に驚いたような表情を浮かべた。「じゃあ…私は自由ってこと?」

アルナは笑顔で答えた。「私の目から見れば、そうだと思うよ。ただ、それをどう感じるかは君自身が決めることだ。それがまた、自由なんだ。」

セレナは少しの間黙り込んだ後、小さく頷いた。「なんだか、少しだけ分かった気がする。」

夕陽が広場を包み込む中、議論に集まった人々が徐々に散っていく。セレナはアルナに歩み寄り、いつもの明るい調子で言った。「ねぇ、次は何を話すの?私はまた聞いててもいい?」

アルナは微笑みながら答えた。「もちろん。君がどう思うか、それを知るのが私にとっての楽しみだからね。」

その言葉にセレナは少し赤くなりながらも、嬉しそうに笑った。

討論は夕方近くまで続き、多くの人々がその場に残っていた。結論こそ出なかったものの、集まった人々はそれぞれの考えを持ち帰り、満足そうに立ち去っていった。

ルネがアルナのそばに歩み寄り、静かに声をかける。「今日の議論も実りがあったみたいね。少しずつ、君の考えは人々に浸透していってる。」

「でも、それだけじゃ足りないよ。」アルナは軽く肩をすくめながら答える。「みんなが本当に自由について考えるきっかけになればいいけど。」

「十分にそのきっかけを作ってるわ。」

ルネは微笑みながら言葉を続けた。「君の言葉が、街の人々を動かしているんだから。」

セレナがその会話に割り込む。

「君って本当に不思議な人だね。でも、そんな君に付いていこうって決めた私も、なかなか変わってるかも」

その言葉に、アルナとルネは笑い合い、討論を終えた広場を後にした。


まるで全てが順調に進んでいるかのように思われた、そんなある日だった。

広場からの帰り道、人々の間に感嘆の声が広がる中、突然、周囲のざわめきが大きくなった。振り返ると、豪奢な装飾を施した馬車が広場に入り込んでくるのが見えた。

馬車はアルナのすぐ近くで停まり、扉がゆっくりと開く。

その瞬間、アルナの足元に黒い影が現れる。ヴァレナだ。

アルナの胸に、じわりと警戒心が湧き上がる。

ヴァレナは馬車をじっと見つめた。

やがて、ゆっくりと馬車の扉が開く。その中から現れたのは、銀髪を揺らす高貴な女性。

「イザベル…!」

アルナはその名を口にした瞬間、胸が騒ぐのを抑えきれなかった。

アルナの一人称の修正

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