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第11話:「共鳴する心」

街の通りはいつも以上に賑わっていた。商人たちの叫び声、行き交う人々の足音、子どもたちの歓声。アルナとクレイナは、騒がしい人波の中をゆっくりと進んでいた。歩きながら、クレイナがふと足を止めた。

「どうしたの?」

アルナは振り返り、クレイナを見つめた。クレイナは一人の少女をじっと見ていた。少女は奴隷商人の行列に加わっており、その姿に何かを感じ取ったのだろう。

その少女は傷だらけで、足取りも重く、痩せ細った身体が一層痛々しい。だが、彼女の目にはどこか冷徹で強い意志が宿っていた。商人が指を差しながら怒鳴る。「おい、荷物を運べと言っただろ!」

少女がその命令に反応する暇もなく、次に商人が指を差したのは、より弱々しい中年の女性奴隷だった。足を引きずりながら、女性は立ち上がろうとする。しかし、その様子を見て、少女が勢いよく声を上げた。

「無理だよ!彼女はもう限界だ!」

商人が振り返り、険しい表情を浮かべる。「誰に許可を得て口を挟んだ?」

少女の目は鋭かった。「彼女を使えなくしたら、お前たちの損だろう!」

周囲の奴隷たちが一瞬息を呑む。商人たちの間に動揺が走るが、すぐに一人が怒りを爆発させた。「調子に乗るな!」鞭が振り上げられる。

「やめろ!」

その瞬間、少女は鞭を振り下ろす商人の手を素早く掴んだ。その反応に周りは驚くが、少女の腕力ではそれ以上抵抗することはできず、商人たちに押さえつけられて倒れ込んだ。

「てめぇ!」

商人たちが少女を囲み、険しい顔をしながら迫ってきた。その時、護衛が銃を抜いて、少女を狙い始めた。

「そこまでにしなよ。」

アルナの声が低く響いた。彼女は一歩前に出て、少女を庇うように立ちはだかり、その瞳で護衛たちを見据えた。

「アルナ…?」

銃を向けた男が驚きの声を上げる。「お前、あの戦場の――」

「そんなの今はどうでもいい。」

アルナは冷静に言い放ち、続けた。「彼女を撃つのはやめて。」

その背後で、突如として少女がアルナに迫り、アルナの短剣を抜き取ると、その刃先をアルナの首に押し当てた。

「アルナ様…!」クレイナが今にも駆け寄りそうな声で声を上げる。

「退け。」

少女の声は低く、震えていた。しかしその目は、アルナを見据え、まるで真剣に命令しているかのようだった。

商人たちがざわつく中、アルナは冷静にその場の空気を見守った。しばし沈黙が流れる。

「こんなことをしても、自由にはなれないよ。」

アルナは穏やかに言った。彼女の声は冷徹でも、どこか親しみを感じさせた。

「黙れ!」

少女は短剣を握り締め、力を込めるが、手のひらは震えていた。「何もせずに従うよりマシだ!」

「その気持ちはわかる。」

アルナは静かに言葉を続けた。「でも、このままじゃ君は本当に撃たれるだけだ。話し合いで解決できる道を探そう。」

「何を企んでいる。」

少女は警戒心を剥き出しにして言った。

「企んでなんかいない。」

アルナは穏やかに微笑んで続けた。「ただ、君と話をしてみたいだけだ。」

少女はアルナをじっと見つめ、その手に力が少しずつ和らいでいく。商人たちが動き出そうとしたが、アルナが手を上げて制止した。

「彼女は私が説得する。だから、少し待っていてくれ。」

商人たちは不満げに顔を顰めながらも、銃を下ろし、しぶしぶ頷いた。



少女はアルナを見返し、視線を交わす。

「……君の名前は?」アルナがようやく問いかけた。

少女は一瞬躊躇い、そして低い声で答えた。「セレナ。」

アルナは頷きながら、その名前を口にした。「セレナ……。良い名前だ。」

セレナは返事をせず、ただ短剣を握りしめている。アルナは少し考え込んだ後、優しい声で尋ねた。「どうして君が奴隷になったのか、聞いてもいいかな?」

セレナは目を伏せたまま、低く呟いた。「戦場で捕まったんだ。負けて、捕虜になって……そのまま奴隷にされた。」

「そうか……」アルナはゆっくりと息を吐き、遠い目をした。「戦場で負けるって、そういうことだよね。私も戦場にいたから、少しだけ分かる気がするよ。」

セレナは驚いたように顔を上げる。「君も、戦ってたの?」

「うん。私はエルフだから、剣や魔法を学ぶのは当たり前みたいなところがあってね。だから、戦場では何度も『強い者が勝つ』っていう現実を見てきた。でも……」アルナは少し目を細めながら言葉を続けた。「勝った側が何でもしていいわけじゃない。そう思うことも多かった。」

セレナは眉をひそめる。「そんなこと言っても、結局負けたら従うしかないんだろ?それが戦争だ。」

「それは分かるよ。でも、君の目を見てると……なんていうか、君はただ従っているだけには見えないんだよね。」アルナはセレナの瞳を真っ直ぐに見つめた。「君は、心まで負けていないように見える。」

セレナは一瞬、言葉を詰まらせた。「……何が言いたいんだ?」

アルナは少しの間、言葉を選びながら話し始める。「戦争が終わった後も、その力に縛られていることが、君の自由を奪う。力を持っている者が支配する、そうして支配されている者が生きる道を選ぶことは、結局その者が何者であるかを忘れさせてしまうんだ。」

セレナは無言で、目の前のエルフをじっと見つめている。アルナはその視線を受け止めながら続ける。

「君が持っている力を、もし本当に自由に使いたいのなら、それを握りしめ続けることは、結局自分を囚われの身にしてしまう。戦争がそうさせるものだとしても、君自身がその道を選び取ることができるんだ。」

セレナは短剣を少しだけ緩め、その刃先がわずかに揺れた。アルナはその動きを見逃さず、さらに語りかける。

「力だけでは何も解決しない。君が何をしたいのか、どう生きていきたいのか。それが本当に大切なことだ。」アルナは優しく言った。

「私は……私にはもう、何もできない。」セレナは低くつぶやいた。

「それに…」セレナはクレイナの方を見てアルナに問う。

「あんたも同じだろ…奴隷として連れ歩いてる…」

その言葉がアルナの胸に突き刺さる。アルナは思わず、クレイナの方を見つめた。クレイナはその視線に気づき、すぐに歩み寄りながら答えた。

「セレナ、違うの。」

クレイナは冷静に語りかける。「アルナ様は私を無理に縛りつけているわけじゃない。私は…彼女と一緒にいることを選んだの。」

セレナは疑わしげに目を細めた。「選んだ?そんなの嘘だ。奴隷に選ぶ自由なんてあるわけない!」

「そうかもしれない。でも…彼女は私をただの『もの』として扱ったことなんて、一度もない。」

クレイナはその目をセレナに向け、静かに言葉を続けた。彼女は短剣を持つセレナの手に触れ、そっとその力を解こうとした。

「セレナ、あなたがどう思っているのか分かるわ。私もずっと苦しんできた。でも、誰も信用しないままでいたら、きっと何も変わらないわ。」

セレナの目に動揺が走る。震えていた手のひらが、少しずつ力を緩めていくのが感じ取れる。アルナはその変化をじっと見守っていた。

「彼女の言葉を信じなくてもいい。でも、傷つけることでしか道を選べないわけじゃない。」

アルナの声が再び響く。

沈黙が続いた後、セレナは短剣を地面に落とした。その音は乾いた音を立てて響く。クレイナはほっと息を吐きながら、セレナをそっと抱きしめた。

「…ごめん。」

セレナは小さな声で呟くように謝った。

アルナはその場に膝をつき、セレナと目の高さを合わせた。「謝らなくていいよ。でも、次に何をするかは、自分で考えるといい。」

セレナはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。



アルナの一人称の修正

セレナが名乗る前から名前が出ていたのを修正しました

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