表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

第1話:「沈む刃」

全30話を予定しています

夜が更け、月光が薄く差し込む戦場には、鋭い刃の音と甲冑がぶつかり合う音が絶え間なく響き渡っていた。その中心に立つのは、若きエルフの少女、アルナ。彼女はエルフ族の兵士としてドワーフ族の敵兵たちに囲まれながらも、凛々しい表情で槍を構え、次々と襲いかかる敵を打ち倒していく。

「これ以上は通さない!」 息を切らしながらも、アルナの瞳には強い意志が宿っていた。彼女の槍は敵を一撃で貫き、冷静に隙を突いて次々と倒していく。その小柄な体からは想像もつかないような力強さがあり、エルフ族としての俊敏さと精練された技が光っていた。周囲の兵士たちも、彼女の戦う姿に思わず一瞬見惚れていたほどだ。

しかし、ドワーフたちも一歩も退く気はなく、その戦士魂を見せつけるかのように士気を高めていく。彼らの一人ひとりが、鍛え上げられた体と重厚な甲冑を身にまとい、低い重心から力強い攻撃を仕掛けてくる。その顔には、戦場で勝ち抜くための覚悟と執念が刻まれていた。

「くっ…!」

アルナは槍でドワーフ兵の攻撃をかわし、盾で防ぎながら必死に戦い続けた。彼女の心には、エルフの仲間たちと故郷の集落を守るという強い使命が宿っていた。ドワーフの兵士たちは倒れても倒れても次々と現れ、まるで果てしなく湧き出してくるかのように押し寄せてくる。そのため、包囲はますます狭まり、戦場の空気は一層の緊張感で張り詰めていた。

「……どうしてこんなに……!」

戦士として何度も修羅場をくぐり抜けてきたアルナでさえ、圧倒的な敵の数と迫力には、次第に体力を奪われていった。彼女の手は汗と血でにじみ、握りしめた槍がわずかに震え始めている。呼吸も荒くなり、次第に視界がぼやけていく中、ふと脳裏に浮かんだのは、かつての師匠の姿だった。

師匠が言っていた「真実を追い求めよ」という言葉――

どうしてその光景を今になって思い出したのだろう。

その瞬間、目の前に現れた一人のドワーフ兵が、隙をついて彼女の背後に忍び寄り、鋭い剣が彼女の肩に突き刺さった。

「……っ!」 激しい痛みが体を貫き、アルナは声にならない叫びをあげる。膝が崩れ、肩から溢れ出す血が鎧を濡らしていく。呼吸は次第に浅くなり、周囲の光景がゆっくりとぼやけていく。痛みと疲労が体を蝕み、意識が遠のく中、ただひとつ、彼女の心に残ったのは深い孤独感だった。

「私は…ここで……」

力なく地面に倒れ込み、深い闇へと引き込まれそうになったその時、ふいに目の前に黒い影が滑り込んできた。その影は、闇夜に溶け込むような黒い猫――他の猫とは違う、どこか神秘的な存在感を漂わせていた。冷ややかな瞳が月光を反射し、鋭く輝いている。

黒猫は一言も発さず、敵の群れに飛び込んでいく。ドワーフ兵の剣や槍が彼女に届く前に、黒猫の素早い動きがそれを阻む。まるで風が舞うかのような軽やかさで、敵兵たちを次々と蹴散らしていく猫の姿には、見る者を圧倒する威厳と神秘があった。

「……何…この猫……?」

弱々しく目を開けたアルナの視界に、その黒猫が映り込んでいた。黒猫は無言で彼女を見つめ、その瞳には冷たい光が宿っている。そして、周囲の敵をすべて一掃し終えた後、黒猫はアルナのそばに歩み寄ると、低く冷ややかな声で一言だけ告げた。

「――死んでもらっては困る。」

その言葉に、アルナの意識は一瞬だけ覚醒した。だが、戦いの疲労と傷の痛みが再び彼女を深い眠りへと誘う。彼女は最後に、黒猫の神秘的な瞳を目に焼き付けると、静かに意識を闇にゆだねた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ