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殺戮者には真実を、英雄には嘘を5

 裏道の奥で、俺たちはみんな黙って俯いていた。遠くで女たちの笑い声が聞こえる。さっき言われたことが、頭の中から離れない。

 俺たちがやろうとしていることは、結局は、こういうことなのかな。

 大勢の笑い声を遠くで聞きながら、誰もいない暗い裏道で誰も聞いていない理想を吐き出すかのような。

 自分の剣を手にした瞬間に、何でもできるような気がしてたんだ。

 剣から体内に流れ込んできた大量の熱は、これまで冷たく硬く縮こまっていた衝動を爆発させるには十分だった。自分が、太陽になった気さえした。

 でも、これまで俺たちがやってきたことは。

 輩のように、何人かの貴族を脅し、いたずらにその運命を壊したにすぎない。そして、その数だけ同胞たちの収入源を奪った。

 剣のあるなしで、こうも人が変わるとはね。

 胸に浮かんだあの言葉は、きっと裏返しなんだ。変われた自分の自信と喜びに対するね。

 でも、今はとても同じことを思えやしないな。


「よーし、じゃあ、帰ろう! 夜じゃあジェーンも見つけられないし? ってか、もう死んでるかもしれないし? 今すぐには革命も無理そうな感じだし? あの小屋に四人で帰ってゆっくりしよう!」


 レオンの間の抜けた声が響く。その他人事のようなセリフに殺意が沸くほどにむかつきながら、でもさっきの言葉で冷え込んだ頭には、内容自体がそこまで的外れであるとは思えなかった。少なくとも革命については完全に俺たちは失速してしまっていた。共鳴してくれたメアリーは殺された。この街に、同士は誰もいない。

 このおとぼけ野郎のふざけた言葉に、仲間たちはそれぞれ全く異なる表情で顔を上げた。


「てめぇ……、腰抜けが」


 怒り狂うシャルロット。


「……まだ、それは総意ではないわ」


 ゆっくりと目を開けるユミカ。そして、黒い瞳で、じっと俺を見つめる。

 決めなさい。

 そう言っている。


「俺は……」


 言葉を出そうとした瞬間に、近くで悲鳴が鳴り響いた。

 路地裏を走り抜けて、大通りに出たときにはもう、大きな人だかりができていた。そして、あの臭いだ。

 何が起こったのか、分かっていた。


「また、喉切られてんぞ……」

「見て、あれ。死体の横の文字も、同じじゃない?」

「こんなに立て続けに殺されるなんて」


 あちこちから、震える声が上がる。

 頭がくらくらする中で、人ごみをかきわけて入る。そして目に映った光景を前に、俺は心を決めた。

 俺たちノーブレードは、偽りによって剣を奪われた存在。

 今の偽の王、貴族、神官よりも、高貴な運命を授かっている存在。

 やつらの言いなりにも、やつらのものにもならない存在。

 やつらに、魂と命をもてあそばれていいはずのない存在。

 それなのに、こんなことがまだ起こるというならば。

 初めは、どれだけ同胞から罵声を浴びせられてもいい。

 さっきみたいに平手打ちを受けてもいい。

 それでも。

 俺は強く思った。


 こんな世界、変わらなくていいわけがないだろう。

 

 三人の女性が、メアリーと同じように喉をかき切られて倒れていた。集団で客引きをやっていたときに、襲われたのだろうか。白目を剥き、必死に血が噴き出すのを防ごうとしたのか、同じように首を自分で絞めるような形で絶命していた。そのそばには、さっきと同じ血で書かれた文字が残っていた。


『我が剣名は殺戮者。汚れた言葉で満ちた街に、沈黙をもたらすもの』


 この事件はまだ、終わりそうにない。

 憲兵団が笛を吹きながら、こちらに駆け寄ってくる。


「邪魔だ、どけ」


 守れなかったくせに、声の威勢はいい。手近の娼婦たちを何人か蹴り飛ばして、死体のそばに寄ってくる。


「……馬鹿な」

「どうして、今になって……」


 違和感がする。これまで、憲兵団は捜査に全く本腰を入れず、三ヶ月もこの連続猟奇殺人事件を放置していた。それにも関わらず、なぜ、今になってこんなに焦りを露にするのだろう。

 だが、事件が起こったことに対する驚きは見えるものの、そこには同族が理不尽に殺されたなどという動揺や同情など欠片もなかった。飼っている家畜の何匹かが死んだ。もったいない。こうなる前に、生きた女として抱けばよかった。

 こいつらの思考回路なんて、どうせこんなもんだろう?

 まだ、終わらないし、このままでは終わらせられない。

 俺は大きく息を吸って、後ろのユミカ、シャルロット、レオンのみならず、娼婦たちをはじめとする周囲のノーブレード全員を見回す。

 さっき仲間たちに言いかけた言葉を、この場で宣言しよう。

 これから言う言葉が独りよがりの戯言になるか、真の革命の引き金になるか、それは俺次第だろう。

 言葉の責任は、きちんと背負うよ。

 俺はゆっくりと剣を抜いた。


「ノーブレードなんて、こんなもんだろう?」


 全員の視線が俺に、俺が天に突き上げた剣に集まる。

 ざわめきは霧散して、痛くなるほどの沈黙が降りた。

 驚きも動揺も混乱も、全てこの剣へと集まっている。

 いいんだ。

 俺は止まれないし、それが怖くても、もう止まるつもりもない。

 俺の剣は言っている。

 全てを、正しき朝日のもとにさらせ、と。


「みんなもうずっと前から分かってただろう? 死体は、鋭利なもので切り裂かれている。しかも、一撃のもとに。かなりの腕前だ。そして、犯人は剣名を語っている。そうだよ」


 俺を見てぎょっとしている憲兵団を視界に捉えながら、俺は言った。


「犯人は、貴族だよ」


 沈黙の種類が変わった、気がした。

 動揺、混乱といった類の感情が、どんどん一つの方向へ収束して、萎んでいく。それは、諦め、だった。


「だから、憲兵団も本腰は入れなかった。俺たちノーブレードは、こうしてまた、延々と奪われていく。平穏も、命もね」


 気がつけば夜空には満月が昇っていた。振り上げた剣の先は、確かにその青白い円の中心をさし示している。

 俺は小さく首を横に振って、一人一人の顔を見ていく。


「いつもと同じ、嘘と惰性と怯えにまみれた朝日を待っても、きっとそこにはノーブレードの血と死体と屈辱が照らされるだけで何も変わりはしない。だから」


 大きく息を吸って、宣言した。剣をさらに高く突き上げる。


「俺が、正しき朝日のもと、全てをさらしてやるよ。この悲劇の終わりも、理由も、そしてこれらの出来事が一体何につながっていくのかもな。俺は、この先に革命の開幕があることを信じている」


 振り上げた剣を額の前へともってくる。御伽話で聞いたことがある大昔の剣士が剣聖母様に誓いを立てるときにやっていた儀式の動きのように、柄を額へと当てて、俺は静かに目を閉じた。


「全てのノーブレードのために、この剣にかけて」

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