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scineVI-I めぐりあい(1)

「────ッ!!」


痛む頭をおさえてへたり込む。

だがこれで、ほぼ全てを取り戻した。

亡霊の存在に、このことがどんな影響を及ぼすのかは知らない。

ただ、想うべきはひとつだけ。


「この街にいるのか。セーラ」


オレ(かれ)が最期に想ったという、見習い天使。

あの後ちゃんと天使になれたのか、試験には受かったのか。

その後、どこでどうしているのか。

気になることは幾つもあるが。


「────まずは、彼女に会いに行かないと」


それが許されるのか。

亡霊(サンタ)はそれに、耐えられるのか。

彼女は、会える立場にある存在(モノ)なのか。

彼女は、会ってくれるのか。

会って、それでどうするというのか。



──そんなもの、知らない。知ったことか。今はただ、彼女の元へ。



頭痛を押して、駆け出す。

どこへ向かえばいいのかなんて、ワカラナイ。

ただ、そうすれば彼女に会えるとだけ信じて、駆け出した。

頭痛はひどいが、それすらもシラナイ。

そんなもの、ただ耐えれば済むだけだ。


ただ、ひとつだけ。

彼女に会う前に消えてしまうとかがありえるなら、それはいやだなぁと。

考える余裕もないながらに思い浮かべて、ただ、走った。




ーーーーーーーー



「天使として、彼を本当に幸せにできていたのかは正直、疑問です。でも彼は、幸せだったといってくれた。そして私は、その試験によって天使になった」

「彼を……想っていたのですか?」

「どうなんでしょうね。でも、試験前に与えられた対象者の資料から彼の人となりを探ったときから、とても気になってはいました。

 それがどういうものだったかはわかりませんが、それは実際に触れ合う中で大きくなっていたことは確か……だと思います」

「…………」

「想っていた……かもしれません。それがいつからのものだったのか、どういう性質のものであったかは自分でもわかりませんが……」


でも、惹かれていた。

ソレがどんなカタチであり、どんなものであったにしても。

彼のことを思う、その中で、少なからず惹かれていた──惹かれてしまっていたことは、確かだった。


「そうですか……」

「天使として失格なのはわかっています。でも……」



天使が人に恋をすることは許されていない。

その昔、それを叶えた見習い天使がいたようだが、その後も大変な目に遭ったらしい。

天使は、人に幸福を与えると同時に、人の感情を律し、導く存在でもある。

故に、人との感情に流されるがままに人と付き合うことは、天使にあるまじきことだった。



「……いえ、十分だと思います」

「カリンさん……?」

「すいません。ちょっとついて来てもらっても、いいでしょうか」

「え、ええ、かまいませんが」


セーラが答えると、カリンは路地を出て、来た道を戻る。


向かった先は、小さな公園。


そこに、彼らと──彼が、いた。



「「あ────」」



声がハモる。

公園にいたのは、サンタである亡霊と、小さな姉弟。

重なった声は、ついてきた天使と、先に走ってきていた亡霊のものだった。


「セー、ラ……」


彼女の名前を、男が言う。

それで気がついたかのように、セーラは息を漏らす。


「カリンさん、これは……」


どういうことですか、と説明を求めるセーラを制するように、カリンが前に出る。


「あなたが──亡霊ですか」

「ああ──オレは確かに亡霊だ。

 けど、『あなたが』ってまるで俺を知っていたかのような言い方だな。キミは……見習い天使、なのか」



驚いたように男はいう。

カリンにとって、まだ確証のないことではあったが、これで確定といっていい。



「ええ、私は見習い天使です。

 そして、全て知っている……すべて、聞きました」


自分の後ろにいる天使と、目の前の亡霊。

この二人は、先ほど聞いたばかりの話に出てきた、見習い天使とその試験対象者に他ならない。


「ですが……私はそのことについて触れるつもりはありません。私には他に、目的がありますから」


カリンは二人に、感謝していた。

特に、目の前の亡霊。セーラのかつての試験対象者であり、サンタの役目を負って具現化した亡霊であり……セーラの想い人といっていい存在。

そして、彼は、カリンにとって重大な先例でもあった。



「あなたは、亡くなる直前……ほぼその死が決まっていながら、セーラさんの試験対象者になった。 

 つまり、不幸であればその度合いにかかわらず……たとえ死に掛けであっても、対象者として選ばれることはあるということです。

 加えて、それが決まるのは試験よりかなり早いタイミングであり、見習い天使に知らされて人間界に送られるのは自動です」

「! それって……」


男が後ろを振り返る。

その視線の先には、『?』を浮かべたような表情で天使たちを見守っていた男の子と、その傍らでうつむいている女の子──今は亡き、男の子の姉の亡霊が、いる。



「そういう……ことですか。現世とのつながりがまだはっきりしているところを見ると、彼女は亡くなってから日がまだ浅い。

 つまり、カリンさんの対象者は」

「はい。私の対象に決まったときにはまだ生きていた……おそらくは数日以内に亡くなった……彼女でしょう」

「…………」


言葉を失う。

既に亡くなっていた試験対象者。

確かにそれなら、いくら探し回っても見つからなかったのも納得できる。

通常、こういうエラーはきちんと修正されるはずだが、亡くなったタイミングがギリギリで、偶然修正が追いつかなかったとしたらこういうこともありえるのか。


「カリンさんは、いつこのことに……?」

「先ほど、この付近で彼と遭遇しかけた時です。既に亡くなっているので僅かなものでしたが、近くに対象者とのつながりを感じました。

 そして、セーラさんの話を聞いて、確信しました。この世のものじゃない存在が、対象者になりえる可能性を」


またしても、セーラは驚かされる。

自分が彼との遭遇に……正直、うろたえていた傍らで、カリンはそこまで冷静に考えていたのだ。

最終試験の対象者は、その見習い天使が優秀なほど難しい相手が選ばれることを、セーラは天使になってから知らされたが、これなら『死者』に近かった人間が対象に選ばれたのも頷ける。


自分のときも似たような状態だったのかもしれないが、この子は自分などとは規格違いなのではないか。

セーラはいろいろな思いが混じった息を吐く。



「……わかりました。では私は、この場合の試験の扱いについて天界へいって確認します。

 それまで、カリンさんはその子達についていてあげてください。おそらく、次の対象者はその男の子になると思いますから」

「はい」

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