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scineVII おわりのゆめ

それからの数日間、亡霊(サンタ)はかつてない忙しさで動き回っていた。

セーラとの約束を果たすため。

──そして、ここで終わらせないために。


出だし二日の遅れもあって、それなりに真面目に仕事をこなしてきた例年より増しに増したあわただしさで、街中を走り回っていた。

記憶を思い出すときにあった頭痛やノイズは、セーラと話してから不思議と収まっていた。

仕事をこなすことの目的ができたからか、ここ数日の仕事のはかどり方も、これまたかつてないくらいに順調だ。


「案外、『役目を効率よく果たすため』という名目でセーラと会うのも許されたりしてな」


そんなことを思いながら、最後の調整を行う。

……勿論、会うことくらいはそんなに咎められることでもないのだろうが、ここで言うのは『そういう感情をもって』会うことだ。



「────さて、後は仕上げか」


街中の人々の、『求めるモノ』は全て収集し、それらについてできるだけの感情や志向の調整を行ってきた。

あとは、『クリスマスの雰囲気』に乗じてストッパーを外してそれを反映させればいいだけだ。

その作業も、すぐに終わる。

今年のクリスマスの、亡霊(サンタ)としての仕事は、もうほぼ終わったといっていい状態になっていた。


「今回はいつになく効率の良い仕掛けにできたかもしれないな。……さて」



日付は12月25日。

数日というのもあっという間で、気づけばその日を迎えている。


「それじゃぁ、向かうとするか」


時間帯は夜。街にはネオン。空から振るのは白い雪。

今宵はホワイトクリスマス。

その、自分には決して積もることのない白の結晶に降られながら、男は公園へと向かった。




――――――――




クリスマスに、なった。

セーラはあの後すぐに、天界へ行って帰ってきた。

カリンの最終試験についてはセーラの見立てどおり、本来の対象者であった姉に代わって弟のほうが新たな対象者となったらしい。



────あの子なら、滞りなくうまくやるだろうけれど。



そう思いながら、一度軽く様子を見に行ってみる。

すると、男の子は年上らしいもう一人の男の子と、仲良く遊んでいた。

カリン曰く『実の兄弟のよう』な関係を得て、その子つながりで気にかけてもらえる相手も増えたらしい。

後はこの世との接点が薄れつつある姉の亡霊との別れをどうするかに苦心していたようだが、それも無事乗り越えたそうだ。


「まぁ、流石というかなんというか……ですね」


カリンに試験の扱いについて伝えた後、セーラはもう一度天界に呼ばれた。

あまりいい予感がしないままに天界に戻った彼女が聞いたのは、予想外の決定事項(コト)だった。



────試験期間が終了次第、カリンをセーラの助手として、この街の担当に任命する。



まぁ、予想外というか、試験がこの街であったことを考えれば十分にありえることだったし、最終試験担当者が幼い子供であったことを考えてもそれがベストなのかもしれない。


セーラとしては、十二分に頼もしい後輩ができるのがうれしい反面、助手が自分よりはるかに優秀、なんてことになりかねない事態にどぎまぎしたり、

分かっていたこととはいえカリンの合格がほぼ決定しているのを、伝えたいけどまだ伝えるわけにいはいかないことにやきもきしたり。

そんな気分でいたのだが、彼女が呼び戻されたのはこのことだけではなかった。



そこからは、彼女自身についてだ。

最初に感じた『あまりいい予感がしない』についてはこちらで当たったといっていいのかどうか。


要は、担当の街における『クリスマスの亡霊(サンタ)』現象について、遠まわしに注意を受けたのだ。

受けた注意の要旨は『クリスマスシーズンには、亡霊の動きに注意せよ』『ただし、過度な接触は控えよ』というもので、追ってカリンにも同様の注意がなされるらしい。

カリンが助手になるのも、半ば監視のためであるっぽいあたり、天界のほうにもある程度のことはばれているというか、警戒されているというか。

とはいえ逆に、度を過ぎなければ黙認されてるっぽいあたり、どう受け止めればいいものか。



「とはいえ、クリスマスに接触を持つ(あう)くらい、『過度』にはならない……ですよね」


────なんだか、織姫と彦星みたい。


そんな風に、この国に伝わる言い伝えだと以前に聞いた、ひとつのお話を想い起こしつつ、独り言を言いながら。

彼女は独り、公園で待つ。




――――――――



夜、誰もいない公園。

この公園は、元々人の寄り付くことが滅多にない場所だった。

数日の間、男の子が彼の姉とともに遊び場としていたため、彼の姿を見ることはできたが、その男の子も、仲間を得、亡き姉から離れることで遊び場を移した。



今。

この場に、人間は誰もいない。


「──お待たせ、かな……?」


クリスマスの夜。聖夜。最後の夜。


「────ええ。お待ちしておりました」


この場に在るのは、天使と亡霊。

かつて使命と死の前に出会い、外れた場所に想いを託した、影なき影。



「うん……待たせてごめん。それと、おめでとう」

「え……?」

「天使になれたこと。そういえば、まだ言ってなかったから」

「──ありがとうございます」

「うん」


セーラの持つ、自然な微笑み。

セーラがくれた、その微笑み。

語るべきことは、そう多くはない。

探せばあるのかもしれないが、今はこの笑顔があるだけで、いっぱいいっぱいだ。



そのまま、二人で時間を過ごす。

元々そんなに時間はない。いくら効率よくやったからといって、遅れを考えると本来時間が余っただけでも頑張ったほうなのだ。

だから、すぐに時間は過ぎ去ってしまう。



たいしたことは話していない。

ただ、自分たちは『夢を与えるモノ』と『夢を守るモノ』なのだとか、そんなたわいないことを話していた。

そうしてすぐに、二度目の終わりはやって来る。



「────ああ。もう時間か」



消えかかる身体を見て、男が言う。

サンタである亡霊の身体は、クリスマスが終われば消えるしかない。


「そのよう、ですね」

「ああ……また、来年だ」

「はい、一年後に」


一年後。

その季節が来れば、また会えるかもしれない。

確証はない。

男の記憶は元通り(きえたまま)になっているかもしれないし、また同じように召喚される保障はどこにもない。

天使はこの街にいられるだろうが、どこまで許されるか、どこで折り合いをつけるかは定まらない。



それでも、彼らは、約束する(ちかう)

一年後、必ずここで、会うのだと。

それこそ七夕、織姫と彦星のように、彼らは誓う。



「────夢を、私にくれますか」

「────夢を、守ってくれるかな」



視線、想い、心、存在。

全てのモノが交差して、二人の距離は、近くなる。


互いに一歩、ほんの一歩。

最後の一歩で、これが限界。


決して触れあうことのない存在(ものたち)

ギリギリまで交わり、ギリギリで止まり。

二人の夢を────。



「メリークリスマス」

「はい。メリークリスマス、ですっ」



そういって、サンタだった亡霊は、消えていく。

これでまた、公園にはセーラ以外いなくなる。

そしてまた、自分以外誰もいない公園で、彼女は待つのだ。




────そこには何も、ないけれど。

    そこにはきっと、彼がいるから────




それを信じて、死んだ男に惹かれた天使は、約束(ちかい)を胸に彼を見送るのだった。



-fin-

もうすぐクリスマスですね。

クリスマスにちなんだ作品を、ということで、これまたリメイクではありますが、ある種自分の原点に近い作品のひとつを投稿してみました。


この作品の設定のうち、「見習い天使の最終試験」は、今はすでに倒産されてる某美少女ゲームメーカーさんの作品を参考にしております。


私がその作品に出会ったのは中学生の時で、小説を本格的に書くようになったのも、ついでに二次元オタクの世界に明確に足を踏み入れたのも、その作品がきっかけでした。


作品名は「てんたま」。かなりマイナーな作品かと思いますが、知る人ぞ知る良作だと思います。


私にとっての入り口の原点。

自分への影響としては「Fate」の方が大きいのは確かなのですが、「てんたま」がなければ「Fate」にも出会わなかったかもしれない……と考えると人生を変えた作品と言っても過言ではないですね。



今回の私の作品も、切なさの中に少しの救いが儚くもしっかりと残る、キレイな作品になっていれば嬉しいです。


それでは、読んでいただいた方、ありがとうございました!

また次回もよろしくお願いいたします。

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