6話 全ての始まり 涼の場合⑥
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
この状況で歩けないのはやばい非常にやばい。
尾絵留先輩がズボンをゆっくりと脱ごうとしているときに俺は逃げることはおろか走ることさえできないときた………やばい。
ゆっくりズボンを脱ごうとしている尾絵留先輩を見て涼はこれがまるで死刑宣告のように思えた。
否、これは涼にとっての死刑宣告だった。
(あ、これ……死ぬ………マジで死ぬやつだ………俺の心が……。)
やばいよやばいよ、マジでやばいよ、どうする?どうしたらいいの?
走って逃げる………足が動かないから無理。
口で説得する………こんな大胆なことをしようとしてる時点でおそらく無理。
叫んで助けを呼ぶ………口も震えてて叫ぶことができないから無理。
諦めて楽になる?
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うん。
いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?
やだよーーー!?俺こんなところで童貞失くしたくないよ!?てか相手が男って!?しかも尾絵留先輩って!?もう!?どうすりゃあいいんだよ!!!?
どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ!!!?
涼がこの後どうするか必死に考えていたとき………その時がきてしまった………。
尾絵留先輩はズボンを脱ぎ足が露出してしまうも………止まらなかった………そのままパンツに手お当て………下ろした………そして下半身を…………あらわにした………。
………えっ…………。
ナニアレ?
………マジやん………なんか目がすっごく怖いんだけど………これヤバくね?………ヤバくね?
尾絵留先輩は羞恥心が全くないかのようにいたって堂々としている。
「さあ、涼!お前も脱げよ!そして始めよう!『恋愛』を!」
「なに言ってんの!?てかしねーよ!!?てかち○ち○かくせ!!てかなにが『恋愛』だよそして早くパンツを履けえええーーー!!」
「……?なにをそんな叫んでいるんだ?」
「そりゃあ叫ぶわ!!てかパンツを履きなさい!!」
「まあまあ、そんなに硬くならないで」
「なってねーよ!?てかお願いだからパンツを履け!?ち○ち○見えてるから!!」
「……見せてんのよ♡」
「やめろーーー!!?お姉さん口調で少しエッチな感じでいってんじゃねえぞー!!?」
あまりの発言に震えて喋ることが出来なかったはずの口が動き声を発することができた。
とはいえ………。
「涼、見てみろこれがお前への俺の『愛』の形だ!」
先輩は自分のち○ち○を指差してそう言った。
「ただのち○こじゃねーかー!!なにが『愛』だよ!かっこよく言ったつもりだろうけど全くかっこよくないわ!!てかキモいわ!!」
「ただのち○ことはひどいな、よく見ろ!特大にボッ○したち○こじゃないか!!名付けてボッ○ち○k『やめろーーー!!それ以上喋るなー!!てか名付けんな!!ていうかなに言ってんだ!!あと下ネタばっかいってんじゃねえーー!!?』
「涼だって下ネタ言ってるじゃないか」
「あんたのせいだろうが!」
「涼よ、人のせいにするのはよくないぞ」
「だからあんたのせいだよ!てかパンツを履け!」
涼は叫びすぎて「ぜーはーぜーはー」と息を切らしらしていた。
尾絵留先輩はいたって変わらず堂々としている。
俺は叫びすぎたおかげか徐々に冷静になっていき、さっきまで緊張していたのが嘘のようになくなった。
(はあ〜なんかすっごく疲れた………てか早く帰りたい
……てかパンツ履いてよ………もうどうなっちゃうんだよ)
このままだと終わる…………覚悟を決めるか………。
俺は勇気を振り絞ってもう一度聞いた。
「先輩………もう帰ってもいいですか?」
なんて答えられるのかは予想がつく………おそらく逃がしてはくれないだろう。だが今の俺は緊張が解けたおかげで走ることが可能になっている。
だから俺はこの質問に………いや願いの答えを聞いた瞬間に全力でここから走って逃げる。
覚悟はもう決まった………こい!
そして尾絵留先輩の答えは……………。
「ああ、いいぞ」
「えっ……………えっ!?」
それはあまりにも意外な答えであった。
自分から帰ると言ってそれを肯定されて驚くのは普通に考えておかしいのだが、尾絵留先輩の今までの行動・発言などから帰る許可が下されたことに驚くなという方が無理な話だった。
そのため涼は驚いて一瞬目を丸くしたが早くこの場から去りたかったのですぐさま先輩に背中を向けて「じゃあ俺はこれで」と言って帰ろうとする…………その時だった。
「だがただで帰すとは言ってない」
尾絵留先輩がそう言った時、涼には止まるという選択はなくさっさと走って逃げるという答えだけが残っていた。
(………なんかまたさっきと同じことになりそうだな………よし………逃げるか)
普通に考えて尾絵留先輩がここまでしてただで帰すわけがないので尾絵留先輩のこの発言はあまり驚かなかった。
なので俺はすぐに走った。
早くこの場から………尾絵留先輩から逃げたかったから………。
ビリ
ビリビリビリビリ
だがそれを尾絵留先輩がただで帰すわけがなかった……………。
突然背後から何かが破れるような音が聞こえた………。
俺は何事かとその場で立ち止まってしまい音の鳴った方向に目をやると………。
そこには全裸の尾絵留先輩がいた。
否、全裸になった尾絵留先輩がいた。
「はっ?」
俺は何が何だか全くわからず口を開け間抜けな顔を晒してその場で停止してしまう。
だが尾絵留先輩は変わらずいたって真面目で堂々としている。
「さあ、始めようか!」
「………えっ?…………ナニオ?」
「セッ○スだ!そして始めよう!俺たちの『恋愛』を!」
そう言って尾絵留先輩は一歩、また一歩とゆっくりと涼のもとへ歩き出した。
さっきと似たような場面になっているが違うところがある。
先輩の目が今は正気とは思えないほど鋭く怖くなっていること。
先輩が全裸になっていること。
そしてとてつもなくやばいこと。
なにがやばいって?
先輩が全裸になって俺を犯そうとしていること……。
うんやばいね、確かにやばいね、絶体絶命だね………でもね………違うんだよ………。
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なんかまた体が動かないんだけど………。
なんなら口も震えて喋ることもできないんだけど………。
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この状況で…………………。
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足動かないんだけどーーー!!!!??
やばいやばいやばいどうしよどうしよどうしよ。
一旦落ち着け、そうだ落ち着くんだ深呼吸しよ深呼吸、スーハースーハー………。
この場面で足を動かすことも喋ることもできないと、とてつもなくやばい状況だが一旦落ち着こうと目をつぶり大きく息を吸い深呼吸して冷静になり緊張をほぐして改めてこの場から逃げることを試みる。
スーハースーハー………よし。
少し落ち着き目を開ける………
……………………………………
目の前に……てか息が当たるほど近くに尾絵留先輩の顔があった。
「ぎぃゃあああああああああああああああ!!??」
思わず叫んでしまう。
(やばい!?これはやばい!?深呼吸なんてする暇がなかったよ!!?)
「涼……いくぞ」
「や、ややややややややややややめめっめめっめめめめってってってってってくりゅりゅりゅりゅりゅさゃさゃさゃさゃさゃい!!??」
恐怖のあまり口がうまく動かず盛大に噛んでしまう。
だが尾絵留先輩はやめない。
そしてとうとう尾絵留先輩が俺の両肩に手を置きぎっしりと強く掴んだ。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!???
体が震えて動かすことができない!?
「できるだけ痛くしないようにするから」
そして尾絵留先輩が俺の口に口づけをしようと顔ををゆっくりと接近される。
やべえ!?これやべえ!?終わる!全部終わるぞこれ!?
俺の甘酸っぱい青春が!?
俺の中学校生活が!?
俺の………童貞が!?
終わる!?
今!?ここで!?
尾絵留先輩の顔が超接近してくるが涼の体はまだ動けない。
ああ、俺………ここまでなのか………。
正樹、蓮季ちゃん、千冬………りっちゃん………どうやら俺はここまでのようだ………みんな………ありがとう。
涼の心はもう、HPが0になっていた。
涼はもう諦めてしまった………何もかもを。
もう終わる……………………………。
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ーー………ぐす………た、たすけて…………ぐす………りょーちゃんーー
それは涼でもなく尾絵留先輩でもない涙声で叫ぶかのような誰かの声だった。
その声を………誰の声なのかを涼は見逃さなかった……………。
バン!!
自分の意思とは関係なく目の前の先輩を勢いよく押し飛ばした。
一瞬、なにがあったのか涼と尾絵留先輩の2人はわからなかったが………涼はその時気づいた。
体の震えがなくなっていることに。
刹那、涼は走った。
どこに向かっているのかわからないがとにかく走った。
いつのまにか涼の目から溢れるほどの涙が溜まっていた。
だが走るのを止めない。
そして…………感じた………。
あの涙声から聞こえた「たすけて」という言葉を。
様子を見るに尾絵留先輩は聴こえてなかったのだろう。
だが俺は聞こえた、あの声を、あの言葉を。
あれはりっちゃんの声だった。
きっと幻聴だろう。
だが、その声をおかげで俺は今こうして先輩から逃げることができている。
だから俺は、俺は!
「あ"り"か"と"う"!り"っち"ゃあ"あ"あ"あ"あ"ん"!」
叫んだ。
涙で顔が凄いことになっているが叫んだ。
ありがとう、りっちゃん。
りっちゃんのおかげで俺は今こうして動けている、走れているんだ!
本当にありがとう!りっちy
「おい!待て!りょおおおお!!なぜ逃げる!?俺たちの『恋愛』はどうするだ!?」
涼の心のセリフを遮って尾絵留先輩が叫ぶ。
少し、ほんの少しだけ後ろをチラッと見ると。
そこには顔を……いや体全体が真っ赤になった尾絵留先輩が怒りの形相で俺を追っていた………ちなみに全裸で。
「おいから待て!!俺とセッ○スはどうするんだ涼!?」
怖い、ものすごく怖い。
恐怖で体が震えるが走ることばできる。
だから俺は走るのをやめない。
「ぜってえ犯してやる!!俺との『恋愛』を始めようぜ!!涼!!」
もしこれが『恋愛』というのであれば俺は、俺は。
「恋愛なんて………クソくらいだ!!」
俺は自分が思った感情をそのまま口に出して叫んだ。
少し長くなってしまいました。
すいません。
次からもう1人の主人公の凛の話になります。
涼の話の続きはちゃんとやるので安心してください!