女怪盗として
『怪盗メーラー』……かつて、王都を賑わせた女怪盗の名前だ。その呼び名と、性別が女であること以外、すべては謎に包まれていた。
その身のこなしは人並み外れていて、鍛えられた兵士や警備隊でも手を焼くほど。
また、あるときは同時刻、まったく違う場所に現れたこともあるとして、人々を混乱させた。
「その、女怪盗がメラだったなんてねぇ」
「あまり、その話は……今では、恥ずかしい過去なんだから」
メーラーは、人々を混乱させながらも、その実人々からの評判は悪くなかった。
彼女が盗みを行うのは、決まって金持ちの貴族。それも、あくどい方法で金を肥やしている、いわゆる汚い金だ。それを盗み、貧しい平民などに配っている。
彼女が盗みを行った貴族は汚いことに手を染めている……いつしかそういった風潮が広まり、彼女が盗みを働いた夜の翌日は、その貴族宅に警備隊が入り、逮捕される者もいる。
「すごい身のこなし、もう見えなくなっちゃった」
「あれでも半減してるけどね」
「ほぇー」
人々からは応援すらされ、警備隊も積極的には捕まえようとしなくなった女怪盗。そんな彼女が、王都を賑わせたのは16年も前のこと。
そう……ちょうど、リリーが今、16歳でもある。
「私も見てみたかったなー、その姿」
「勘弁して。もう忘れたい過去なんだから」
苦笑いを浮かべる彼女、メラが、女怪盗からどうして王女の給仕にまで至ったのか……その経緯は、また語るときが来るだろう。
それよりも今は、女怪盗であった当時の能力を駆使して、ロアを探すための情報収集に向かったということだ。
16年経っても、その動きは衰えていない。
「ではリリー、もう夜も遅いから寝なさい」
「えー、でも……」
「待ってても、今日明日で情報が集まるとも思えないわ。いいから、夜ふかしはお肌の敵よ」
「はぁーい」
女怪盗時代、あくどい貴族の居場所を突き止めた。その情報収集能力が、ここで役に立つときがくるとは。
人生、なにがあるかわからないというものだ。
「メラは? 一緒に寝ない?」
「寝ません。いいから、ほら」
「はぁい」
ベッドに潜り込むリリーは、ふぁっと大あくび。最近、ロアのことについてできることはやっている。だから、こうして休めるときに、しっかり休んでもらわないと。
実際、疲れていたのだろう。ベッドに潜り込んだリリーは、しばらくもしないうちに眠ってしまった。
「さて……」
リリーの就寝を確認して、メラは部屋を出る。すっと意識を、【分身】の方へと集中する。
『スキル』を授かってから、ずいぶんの付き合いになる。初めこそ、意識の分割に苦労したものの、今ならばそれなりに使いこなすことができる。
それも、やはり少人数での作業に限られるが。
「……ふむ」
王都を走る【分身】……いや彼女もメラであることには違いない。メラは、城を飛び出す前に動きやすい、黒い服装に着替えている。
そんな彼女は、掲示板に貼り付けてある、ロアの似顔絵を見つけた。指名手配となり、もはや王都中にこれは広まっている。
なので、こういった情報はわざわざ調べるまでもない。リリーが求めているのは、もっと深いところにある……
「さて、どう調べるか……」
今や夜とはいえ、やはり王都ゆえに人通りは多い。黒い服装に身を包んでいるとはいえ、怪しまれる要素はないので人目を気にすることはない。
ロアのことに関して、その辺を歩いている人に聞いても、所詮は一犯罪者という情報しか出てこないだろう。
なので、ロアのことをよく知る……それでいて、例の現場を見ている、人間が好ましい。
そんな、人間は……
「一人、か」
今に至るまで口をつぐみ、そしてリリーも話を聞けていない。リリーの見立てではロアに女性としての感情を向けていた。
彼女に会うのは、容易ではない。しかし、女怪盗メーラーならば……行ける。
「……行きますか」
軽くため息を漏らし、目当て人……大神官のいる場所、教会へと、メラは走り出した。
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