全滅必死の防衛戦
家の中には、俺とディア含め村中の子供たちが避難している。お年寄りや女性、戦えない者も。各家に隠れるよりも、一つの場所に置いておいたほうが守りやすいからだ。
ここは村の中でも一番広い建物だ、これくらいの人数ならばなんとか入る。
この家にも窓はあるが、いつの間にか外の状況を見せないように、大人たちが隠している。子供に過激なものは見せられない、というわけか。
「くそ、いったいどこからこんなに……」
「弱音を吐くな、これ以上進ませるな!」
……状況はわからなくても、大人たちの声は聞こえる。モンスターの唸り声は聞こえる。
モンスターの大群……それを相手にするだけでも、一般の村人なんかでは相手にならない。
村を出てから知ったことだが、この村の大人たちは基本、体力などがやたら高い。鍛えているためだろうか、他の村と比較しても、個人個人の戦力が全然違う。
とはいえ、襲い来るモンスターは、どれもレベルの高いものばかり。おまけに様々な種類がいるため、対処の仕様が難しい。
「みんな、大丈夫、大丈夫だからね」
と、大人たちが子供たちを必死になだめている。泣き叫ぶ子供を、優しく諭すように。ここにいるみんなは、なにもできない……ただ無事を願うのみだ。
個人的には俺も外に出て、戦いたい。俺もみんなの助けになりたい。だが……いくら鍛えているとはいえ、この子供の姿ではモンスターには相手にもならないだろう。
戦力にならない俺は、足手まといとなり周りの大人たちの足を引っ張りかねない。それに……無理に出ていって、もし殺されたりでもしたらも思うと……ぞっとする。
「ロアぁ……」
「!」
ふと、俺の服の袖をなにかが握る。弱々しい力で、しかし離すまいと確かにぎゅっと握っていた。
それは、ディアの手だった。まるで、俺が外に飛び出してしまわないか、それを止めるかのように。その目は、不安でいっぱいだった。
「大丈夫、ここにいるから。な?」
「……ん」
逆の手で、ディアの頭を撫でてやる。時折こうして頭を撫でることがあるのだが、ディアはどうやらこれがお気に入りらしい。嬉しそうに目を伏せるのだ。
無謀に、外に飛び出すことはしない。とはいえ、このままではみんなは、モンスターの群れに押し切られる……いくら鍛えているからとはいえ、一介の村人にモンスターの群れに太刀打ちできる方法などないからだ。
せいぜいが、足止め程度……防衛戦がやっとだ。このままでは、大人たちどころか俺たち避難している人まで、一人残らずモンスターに殺されてしまうだろう。
……だが、そんな未来は訪れない。村人たちが前世よりも強くなっているからだけではない。同じような危機は訪れたが、前世でも天は俺たちを見放してはいなかったのだ。
「くそ、もう……ダメ……」
「ヒヒィイイン!」
「!」
外の様子は見えない、それでも押しきれない戦況に大人たちの何人かが、諦めにも似た声を上げ始めた頃だ……それは、唐突に訪れた。
獣の、鳴き声。しかし、それは凶悪なモンスターの唸るような声ではない。気高く、その場の注目を一身に集めてしまうような、そんな声。
それは家の中にまで響いた。
「な、なんだ……馬!? 新手か!?」
「いや……待て、誰か乗ってる。あれは……」
その声を聞き、この戦場となってしまった村に、何者かが現れたことがわかる。
外の様子が見れない状況では、それが何者か、わかるはずもない。だが、俺は知っている……前世での流れ通り、来てくれたのだ。
彼女たちが。
「我らは、ファルマー王国国王、ザスティア・マ・ファルマーの直属の兵士隊である! ファルマー王国領地、カルボ村の窮地に駆けつけた次第! 私は兵士長のリデューダ・カイマン、諸君らに加勢する! 行くぞ!」
高らかに、家の中にまで聞こえるほどの大きな声が、村中に響く。
駆けつけてくれたのは……このカルボ村を領地とする、ファルマー王国の兵士隊だ。突然のことに、みなぽかんとしている。
だが、彼女らは味方だ。その理由は、彼女が語った通り……国の領地であるこの村が、窮地に陥ったから駆けつけてくれたのだ。どうしてこのカルボ村が窮地なのかわかったのか……その理由は、後で本人の口から明かされることとなる。
ともかく……全滅しかねない状況に、心強い味方が現れたっていうことだ!
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