町の案内は任せなさい
その日は、セント町に泊まっていくことになった。というか、いつもは基本的に泊まっているらしい。
さすがに、ポニーで数時間の道を日帰りするのは、やはり少しキツイらしい。ということで、いつもお世話になっているのが……
「ささ、荷物はこっちで預かっとくさ。ゆっくり、観光なり休憩なり、好きにしときな」
柔らかい笑顔を浮かべるダガさんは、俺たちの荷物を回収する。後々、二階に持っていくとのことだ。
ここはダガさん、サーさんの家でもあり、軽い酒場でもあり、そして宿屋でもある。二階は、客が泊まるためのスペースが確保されている。
いつも、エフィとヨルガはそれぞれ部屋を取り、止まっている。今回は、俺とヨルガが同室になる形だ。
「アーロさん、どうします? 部屋で休みますか?」
「うーん、俺は町を見て回りたいかな。ちょっと興味がある」
「なら、案内は任せな。おーい!」
ダガさんが道案内を買って出てくれる……かと思いきや、ダガさんは二階に向けて声を上げる。宿なのに他の客はいないのだろうか。
それから少しして、「はーい」と元気な声で応答があり……ドタドタと、誰かが降りてきた。
「なぁにー、お父さん」
「お前、今日暇だろ。この兄ちゃんに町の案内をしてやってくれ」
「んー?」
降りてきたのは、くせっ毛の強い、薄い紫色の髪の色をした少女だ。肩まで伸びた髪、所々ぴょんぴょんと跳ねている。
彼女は、ダガさんの視線をたどるように、俺の顔を見た。タレ目な瞳が俺を捉えた。
「こいつはラニー。俺たちの娘だ」
「どうもー、ラニーでーす」
「ど、どうも」
なんとも、だらしな……ふわふわした感じの人だ。これまた癖のある……ダガさんとサーさんの子供というには、もっと元気の塊みたいなイメージがあったのだが。
だが、それとは別に彼女に対して、だらしないと思ってしまう印象があって……
「こらラニー、またそんな格好して! はしたないよ!」
「えー、いいじゃん家の中なんだし」
「お客さんの前でしょう!」
「呼んだのそっちじゃん」
はしたない……そう言われるラニーの姿は、シャツ一枚であった。
ダボッとした、シャツ。シャツが大きいのか、彼女が小さいのか……とにかく、シャツ一枚のみの彼女は、その姿に恥じらいも覚えていないようだ。
手も、袖に若干隠れているし、ちょっと子供っぽく見えてしまう。
「私は、どうしようかな……」
「ならエフィちゃん。お茶の淹れ方、教えてあげようか?」
「! ホントですか!」
部屋で過ごすか、それとも外出するか。それを悩んでいたエフィに、サーさんがお茶の淹れ方を申し出る。さっきお茶の話で盛り上がっていたし、ちょうどいいのだろう。
女性同士、気も合うようですでに盛り上がっている。
「俺は、休む」
ふぁ……とあくびをするヨルガは、先に二階へと上がっていく。ここに来るまでの間、モンスターとも戦ったし疲れているのだろうな。
というわけで、俺はラニーさんの案内の下、町を見て回ることになった。
「とにかく、あんたは着替えてきなさい」
「えぇー」
「えぇじゃない」
渋々といった感じで、ラニーさんはニ階へと着替えに上がっていく。
……大丈夫だろうか?
「悪いなぁ、あの通りズボラな性格でな」
「は、はぁ……」
「けどまあ、変に知識だけは人一倍あるからよ。町回ってる間に気になることでもあったら、遠慮なく聞いてくれ」
「はは、そうさせてもらいます」
まさかいきなり、見知らぬ人に町の案内を頼むことになるとはな。これまでにもそういった経験はないこともないが、一人だと少し、緊張するな。
その後、エフィはサーさんと店の奥へと引っ込み、ラニーさんが降りてくるまでの間、適当な雑談をダガさんと交わしていた。
……ラニーさんが降りてきたのは、それから十分以上経ってのことだった
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