モンスター襲撃に備えて
モンスターの襲撃……それに備えるべく、俺はさりげなく村の大人たちに言葉を送っていくことにした。
村は基本的に塀で囲まれており、村に入るには正面の門をくぐるしかない。だが、大量のモンスターが押し寄せれば、塀なんてあってないようなものだ。
だから俺は、塀の強度をもっと上げたほうがいいのではないかとか、いざというときの逃げ道を作ったほうがいいんじゃないかとか、それとなく伝えた。パトロールの頻度も、以前より増えた。
このカルボ村に住む大人たちは、普段から鍛えている。周辺の程度の低いモンスターなどを相手にしたり、自給自足の生活を送っているうちに、自然と鍛えられた。
それは、モンスターの大群にも一応の抵抗はできるほどだ。それでも、みんなが無事にその日を過ごすためには、今のままでは全然足りない。
「……ねぇ、ロア。ぼくも、体鍛える!」
「ディア……」
例のコアウルフ騒ぎがあってから、ディアはいっそう俺に着いてくるようになった。どうやら、ディアを庇うようにコアウルフに向かっていった姿が、かっこよく映ったらしい。
まあ、ディアを危険に晒したのも俺なわけだが。
それを機に、ディアは自分も強くなりたいと、一緒に体を鍛えることになる。
「けどディアは、この村の子供じゃないだろ。なら、村に来る頻度を減らせばモンスターの心配は……」
「や! ロアと会う時間が減るのはや!」
「んむ」
とはいえ、俺もディアもまだ七歳。体もできているわけではないし、そもそもこの体でいくら鍛えたところで、大人の足元にも及ばない。もっと昔から鍛えている俺がそうなのだ、今から鍛えても焼け石に水だ。
なのでできることといえば、せいぜいが自分の身を守れる術を身につけるくらい。それでも、やらないよりましだ。元々子供だ、モンスターの大群に挑めるとも思えない。
「んっ……く……」
そのためにも、まずは力を蓄える。腕の筋力を鍛えるためには腕立て伏せ、足の筋肉を鍛えるためにはスクワット……といった具合だ。
ディアは、細身だった。だからだろうか、筋力トレーニングはなかなか厳しそうだった。俺だって、前世の記憶があるから頑張れるだけで、そうでなかったら……
……そうして、日々の時間は過ぎていく。こうして過ごしていると、この平和な村にモンスターの大群が、それも凶悪なものが襲いかかってくるなんて、信じられない。
……でも、その日は来るのだ。
「ロアは最近、毎日外で走り回ってるな」
「ディアちゃんも一緒みたいよ?」
「おーい、頑張れよー」
両親に見守られることもあれば、他の大人たちから激励を受けることもある。大人からして見れば、これはただの遊びの延長に過ぎないだろう。
それが証拠に、ちょくちょく他の子供たちも俺とディアの訓練に混ざるのだ。当初は邪魔だとも思ったが、考えてみれば一人ひとりに身を守る術くらい覚えさせておくのも悪くない。
そんなわけで、他の子供たちにもそれなりに体の使い方を教えるようにした。子供だからか飲み込みが早く、小回りの効く小柄な体は逃げるのに最適だ。
俺が教えるのは、モンスターと対峙したときに倒す方法ではない。子供の筋力では、いくら鍛えても限界があるのはすでにわかっている。
だから、逃げる方法。一目散に逃げる、相手の視界を奪い逃げる……その過程で、身を守る術も、一緒に教える。
「……もう、一年か」
そして早いもので、コアウルフとの遭遇から一年が経とうとしていた。俺は八歳となり、ディアもあと数日で同い年になる。
……思い出した。モンスターの襲撃は、ディアの誕生日に起こるのだ。ディアは隣村からここへ遊びに来て、ささやかながら誕生日を祝う……その、最中のことだった。だからその日にディアを村に来させないことも出来ない。
ディアは、いやみんなはそんなことが起こるなんて、思いもしない。村の防衛強化こそしてはいるが、あれ以来コアウルフといった凶暴なモンスターは発見しないため、当時の緊張感は薄れてしまっている。
だが……忘れていても、来るものは来るのだ。
「お誕生日おめでとーう!」
「ありがとう!」
あっという間にディアの誕生日となり、村の人間でささやかなお祝いをする。幸せな時間……
その、最中だ……
カンカンカン!
村の中にある、外を見張るための高台。そこにある鐘が、勢いよく音を立てた。それは、村への異常を知らせる合図。
それは……ついに、その時が来たことを意味していた。
「モンスターだ! モンスターの群れが、来たぞぉおおお!」
家の中にまで響き渡る、その声は……俺たち全員に、一気に緊張感を与えた。
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