懐かしい笑顔
「はぁ!」
「ぶはっ!」
このまま喉を突くつもりは、ない。ゲルドの動きが止まったところで、逆の手でゲルドの頬をぶん殴る。
もちろん、渾身の力を込めて、というわけではないが……それなりに、力を込めて。本気で殴ったら、首と胴体が離れてしまいかねない。
「げ、ゲルド殿!?」
ゲルドは、軽く吹っ飛び地面に転がる。しかし、俺を睨みつけすぐに起き上がろうとして……
「させません!」
「! シャリーディア、てめぇ……!」
起き上がろうとするゲルドの手首、足首が光の紐のようなもので縛られる。たちまちゲルドは拘束されてしまい、起き上がれなくなる。
それをやったのは、他ならぬシャリーディアだった。彼女は、ゲルドへと手を向け、精霊術によりゲルドを拘束したのだ。
「し、シャリーディア……?」
「てめぇ、なんのつもりだ……!」
「なんのつもり、はこちらの台詞です。あなたが、まさかロア……さんに」
シャリーディアは、キツくゲルドを睨みつけている。ゲルドは、拘束から抜けようともがいている。だが、抜け出せない。
周りの兵士たちは、なにをすればいいのかわかっていない様子だ。ゲルドの目的は知っている、だが積極的に俺を捕まえることもしないわけか。
元々勇者としての俺の力は知っている……加えて、魔王を倒した(と思っている)勇者を自分たちで対処できるわけがない。そんな気持ちが伝わる。
「くそが! 離しやがれ!」
「離すわけないでしょう」
「シャリーディア……」
「……行こう、ロア!」
シャリーディアがどうして、俺を助けてくれたのかはわからない。仲間だからだろうか。だが、そんな疑問もすぐに消えた。シャリーディアは俺の手を掴み、走り出したから。
その時の言葉は、シャリーディアらしくないほどに砕けていて……彼女に引っ張られるように、俺たちはその場から逃げるように走っていく。
「ろ、ロア殿! ゲルド殿、わ、我々は……」
「くそっ、役立たずに棒立ちしやがって! ちっ、てめぇらじゃロアに敵うはずもねぇ、それよりこの縄を外せ!」
後ろで、ゲルドが拘束を解かせようと叫んでいる。だが、シャリーディアがそう簡単に外せる拘束をしているとは思えない。
ここから、逃げるだけの時間はあるはずだ。
「くっ、そが! 外れやがれこの……待ちやがれ、ロォオオオアァアアアア!!」
……もう、俺は振り返らない。背中に、ゲルドの恨めしそうな声がただぶつけられていた。
シャリーディアも、振り返らない。そして、迷うことなく走っていく……目的地が、あるのだろうか。
「……ふぅ。ここまで来れば、大丈夫」
とある建物に、入る。ここは教会の隣に立っている小さな建物だ。小さなといっても、教会と比べるとで、建物自体としては普通に一軒家くらいはある。
中には、誰もいない。
「シャリーディア、さっきはありがとう」
「いえ……まさか、ゲルドがあんなことを、するなんて」
ゲルドの行動には、シャリーディアも驚いているようだ。当然だ……俺は、ゲルドに殺される未来を知っていた。だから、今回の流れに驚きこそしても、シャリーディアほどではないだろう。
シャリーディアにとっては、そもそも仲間が俺を殺しに来たのだ。驚くのも無理は……
「せっかく、ロアがうまく切り抜けたと思ったのに……」
「うん?」
……あれ、なんだ今の言葉。なんか、違和感があるような……?
それに、ちょくちょくロア呼びになるのは……
「えっと……シャリーディア、さん?」
「……なんていうか、ホント鈍感だよねロアって」
軽くため息を漏らし、シャリーディアは笑う。砕けた口調で、今までに見たことがないほどの笑顔で。
いつもは、口元を押さえおしとやかな笑顔だった。だが……今の笑顔は、歯を見せ、にんまりと口を広げて、笑っている。
シャリーディアらしくない口調と笑顔。だが、その笑顔に……俺はどこか、懐かしさのようなものを感じていた。
この、懐かしさは……
「……ディア?」
「……やっと、気づいた」
そう告げて、シャリーディアは……ディアは、舌を出して笑った。
ディア……俺が、村にいた頃、仲良くなった男の子。その子の正体が……いや、シャリーディアの正体が、ディアだって!?
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