謎の人物、その目的は……
「あらら、見つかっちゃった? なんで〜」
なにもない場所から、声が聞こえる。短剣が弾かれた場所だ。
そして、景色が変わる……なにもない空間、その一部が歪んでいく。そして、くっきりとした、人の姿をしたシルエットが出てきて、そして……
「……だ、誰?」
そこにいたのは、見知らぬ人間だった。背丈の高い、男だ。
人のシルエットは、やがて色づいていく。灰色の髪を撫でつけ、糸目の男は困ったように笑っていた。
「ちょっと、タンマタンマ。ボク、なにか悪いことしました? あと、なんでボクの居場所わかったんです?」
「悪いことはしてねぇが、聞きてぇ事は山程あるな」
両手を上げ、男は抵抗の意思がないことを見せる。対して俺たちは、警戒を解かない。
こいつが、魔王を倒した人物であることには変わりはない。でなければ隠れている意味がないし……服には、もう消えつつあるが魔族の、おそらく魔王の返り血がついている。
こんな、ニコニコした奴が……前世では、俺たち六人がかりでなければ倒せなかった、魔王を……?
「まず、質問だ。お前はなにもんだ?」
「ぼ、ボクはマーチ……ただのマーチです。貴族じゃありません、平民です」
「へい……」
マーチと名乗る男は、自分を平民だと言う。その言葉に、少なからず動揺が生まれる。
だが、俺もゲルドも、他のみんなだってそれを素直に信じてるわけじゃない。この男が、素直に真実を告げているとは、限らないのだ。素直なリリーだけは、信じているかもしれないが。
初対面な上に、こんな胡散臭い笑顔を浮かべる男、簡単には信用できない。
「そうか、マーチ……そこの魔王を殺したのは、お前か?」
「は、はい。なぜかバレてるんで言いますが、ボクの『スキル』は【透明化】です。それを使えば、魔王にも気づかれることなく、命を取ることができたわけです」
……マーチの『スキル』は、ゲルドが暴いた【透明化】。これは、本人の申告がなくてもゲルドが言ったことから間違いない。実際、目の前で透明になっていたしな。
【透明化】には気配遮断の能力でもあるのか? 俺たちでも、マーチの存在に気づくことができなかった。
だから、魔族に気づかれずに城に侵入し、魔王にすら気づかれずに魔王を殺せた……
……筋は、通ってるな。
「透明かぁ……じゃあ、壁とか通り抜けれるのかな?」
「もしそうなら、すでにここにはいないと思うわ」
後ろで、リリーとミランシェが会話している。
そう、もし壁をすり抜けられるなら、俺たちが部屋に入っても構わずに部屋から出れたはずだ。
そして、その会話が聞こえたのか……
「えぇ、ボクのは透明になるだけ、ですよ」
マーチが、答えた。透明になるといっても、それは物理的なもので、質量までなくなるわけではない、と。
「なら、なんでそのまま扉から逃げなかった? 開きっぱだったろ」
「いや、皆さん怖い顔をしていたので。側を通るなんて恐ろしくて、無理ですよ」
俺たちが来た時には扉は閉まったが、今は部屋に入るために開けた扉は開きっぱなしだ。その気になれば、俺たちが驚いている隙をついて逃げられたのではないか? その疑問に、マーチは答える。
怖い顔って……そりゃ、こんな現場を見ればそうもなるよ。
魔王を倒しに来たら、その魔王が死んでいて……魔王を殺した人物が、どこかに潜んでいるかもしれなかったのだから。
「ほぉ……じゃ、本題だ。どうして魔王を殺した?」
「どうしてって……殺しちゃ、だめでしたか?」
「だめじゃねぇが……解せねぇだけだ」
ゲルドの質問に、マーチはどこか困った風だ。困ったのは俺たちなのだが。
結局のところ、マーチの正体よりなにより、どうして魔王を殺したのか……それが、一番の疑問だ。
魔王を討つ使命は、俺たち勇者パーティーにしか課せられていないはずだ。それに、マーチの言葉を信じるならマーチは平民……ますます、魔王を殺す繋がりがわからない。
「…………」
「おい?」
これまで、こちらの質問に答えていたマーチが……急に、口をつぐんだ。さっきまで、名前も『スキル』も答えていたのに……どうしてだ?
俺たちは、警戒心を強める。ヘラヘラしているようだが、こいつは、魔王を殺した人物だ。それも、おそらく一撃で。
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