ディアの決心
「まさか……」
「そんな、国王が……」
その後、ザーラを拘束した兵士たちに、リリーは改めて現状を説明した。
いきなりの、予想も出来ないだろう話……それを受けて、当然兵士たちは困惑する。話自体を信じられない、そしてあんな男でも真に忠信を置いていた兵士は、多かったはずだ。
それが、このわずか短時間で覆された。
「しかし、あまりにも……リリー様が、勇者と結託して我々をはめようとしているのでは?」
「バカお前、リリー様がそんなことするはずがないだろう」
中には、リリーを疑う者もいた。それも、当然であろうか……長く国を治めてきた国王と、しょせんは王女のどちらを信じるか、だかな。
だが、これは意外……というほどでもないか。リリーの人柄が、多くの兵士に受け入れられていたことがプラスに働いた。
ザーラは、確かに国の運営に関しては敏腕で、忠を置く兵士も多かった。だが、人としての……中身に関しては、あまり好まれてはいなかったようだ。
その点、リリーは王女であるにも関わらず兵士や国民とも向き合ってきた。なので、支持率がすごい……人として、圧倒的にリリーを信じる声が多かった。
「ま、むさいおっさんと可憐な少女どっちを信じるかっつったら、後者だろうよ。男はバカだからな」
「……それブーメランじゃないか?」
「わかって言ってんだよ」
まあ、ゲルドの戯言は放っておいても……これまで兵士をただの兵士としてしか見てこなかったザーラと、兵士にも真摯に向き合ってきたリリーのどちらを信じるか、ということだもんな。
それに、リリーは単なる嘘なんかで父親を貶めるような子じゃない……それを、誰もがわかっている。
「国王……いや、前国王は、我々を異空間に閉じ込めるにとどめず、殺そうとした、ということでしょうか」
「……残念だけど、そうなります。皆さんだけじゃなく、私も含めて」
「なんてことだっ……じゃあ、そこにいる、勇者様も……」
「父が、【未来視の】の『スキル』で勇者に殺される光景を見て……自分が殺される前に、彼を殺そうとした。初めのうちは、追い出すだけでもいいと思っていたのでしょう」
俺が、あの男を殺すかは置いておいて……ザーラは、俺をはめてこの国に居られなくした。俺を遠ざければ、自分は無事だと考えたのだろう。
だが、俺はこの国に戻ってきた。だから、殺し屋を雇ってでも俺を殺そうとした。
……もっとも、俺がこの国に戻ってきたのは、リリーに危害が加えられたからだ。そして、それをやったのが、国王が雇ったあの殺し屋……
「あのまま縮こまって暮らしてりゃ、ロアが戻ってくることもなかったってのになぁ?」
「……」
忘れている……うん、忘れているから、いいんだけど。
ラーダ村で俺を殺そうとしたお前が言うと、全然説得力がないんだよな。
「でも、これでロアが無実だってことは、みんなわかってくれるよね」
「……そうだな」
国王が俺をはめたという話が広まれば。当然、俺の容疑も晴れる……むしろ、俺に罪を被せようとして、罪なき兵士を殺したザーラの罪は増えるだろう。
これで、すべて終わった……のか。
「それで、ロア……」
「ん?」
「ロアが、なにもしてないってことがわかったらさ。もう一度、この国に……」
……ディアの言わんとすることはわかる。きっと、そう言うんだろうなとも、思っていた。
ザーラが捕まり、彼の悪事が暴かれれば……俺の罪が濡れ衣だったことがわかれば、俺はこの国での居場所を取り戻せる。
だから、この国で暮らすことだってできる。ディアが言いたいのは、そういうことだろう。
けれど……
「悪いなディア、俺の気持ちは変わらない。この国での俺の立場がどう変わっても、戻っても……もう、この国で暮らすつもりはない」
「……あの村が、住んでる人たちが、大事?」
「あぁ」
「……そっか」
ただそれだけ、ディアは答えた。きっと、俺にこの国に住んでほしいに違いない。
それでも、俺の意思を尊重してくれている。俺としても、またディアと離れるのはつらいが……ラーダ村のみんなと離れるのもまた、つらい。
「ま、これからはいつでもここに帰ってこれるし。これまでは俺の存在がバレちゃいけなかったけど、そうじゃなくなったなら、ちょくちょく帰ってくることだって……」
「よし、決めた。私も、ロアと一緒にその村住む!」
「でき…………ん?」
これからはちょくちょく帰ってこれる……そう、言おうとしたが……なんだろう、聞き間違いだろうか。
今、ディアはとんでもないことを言わなかったか?
「ディア?」
「なぁに?」
「なぁにって……はは、聞き間違えたかな。今、ディアが俺と一緒にラーダ村に住むって……」
「うん、言ったよ?」
………………なん、だと?
いや、そんなあっさりと……え、そんなもんなの?
「いや、ちょっと待って。ディア、本気……?」
「もちろんだよ」
「いやいやいやいや」
「……ロアは、迷惑?」
「迷惑ってことは、ないけど」
迷惑なんてことは、欠片もない。問題は、そこじゃないのだ。
育った場所を捨て、俺と一緒に暮らす……嬉しいが、そんな一大決心をこんなあっさりと……!?
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