模擬戦
体の基礎体力作り、自分に合った武器の選び方及び武器の扱い方、チームで戦う際の注意点……
なにより、戦うということ。それらを、この数日で体に覚え込ませた。
「おらぁ!」
「はぁ!」
現在、俺はゲルドと模擬戦のようなことを行っている。互いに、得物は木刀……真剣はまだ早いということで、木刀になった。
木刀でも当たれば痛いし、当たりどころが悪ければひどい怪我になりかねない。そのために、模擬戦を行う際にはシャリーディアが付き添うのが決まりとなっている。
木刀が、ぶつかり合う。俺は一本の木刀を持っているが、ゲルドは二本……ただし普通のものよりも短く、短刀と同じくらいの長さだ。
「やっぱり、こっちのほうがしっくりくらぁ!」
以前、ゲルドも剣ほどの長さの木刀で訓練してみたことがあった。だが、性には合わないということで、手に馴染む現在の二刀流スタイルに変更したのだ。
それも、刃の長さもさほど長くない、短刀に。
「っ、やっぱ、すごいな……!」
「あぁ!?」
二刀の木刀が、休む間もなく打ち付けられる。なんとかそれらを木刀で防ぐものの、防ぐので手一杯だ。
俺の【勇者】は、武器に触れた瞬間にその武器の使い方がわかり、身体能力も上昇する。初めて見る武器でも、完璧に使いこなせるようになる。
複雑な武器であろうが、木刀のようなシンプルな武器であろうが。
「だってのに、全然隙が見えない」
「さっきからなにを一人でぶつぶつ言ってんだ!」
二本……いや三本の木刀の猛攻。絶え間なく打ち続けられるそれは、ただ速いだけでなく隙がない。反撃をされないように、うまく調整して打ち込んでいる。
おかげでこっちは、攻撃の合間の隙を見つけて反撃することもできない。ただ、防戦一方となるだけだ。
乱暴に見えて、考えられた連打……これが、ゲルドが単独で得た力か。
「けど、俺だって……!」
「!?」
村で、少しでも力をつけられるように鍛えてきた。走り込み、筋力トレーニング……それらは、決して無駄ではなかったはずだ。
そして、これは少々卑怯だが……俺は、ゲルドの動きを知っている。動きを読ませないように見せて、その動きにはクセがあること。それを、知っている。
それは、何回か見ただけではわからないもの……前世で、何年もの時間を共に過ごしたからこそ、わかるクセ。その記憶は、確かに頭の中に刻まれている!
「はっ!」
「なっ……しまっ」
ゲルドの繰り出す二刀の木刀、それを絡みとるように、俺の木刀を挟み込み……上空へと、打ち上げる。
ゲルドの手にしていた木刀は手から離れ、宙を舞う。それは一瞬のこと……その隙を逃さず、俺はゲルドの喉元に、木刀の切っ先を突きつけた。
「ぐっ……ま、参った」
「そこまで! ロアの勝ちだ!」
「わー、すごーい!」
勝敗は決し、ゲルドは降参。それを受け、審判を名乗り出てくれていたドーマスさんが声を張り上げ、それに伴い後ろでリリーが明るく騒いでいる。
「ふぅ……」
勝敗が決したことで、俺は木刀を引く。とりあえず、一息だ。
危なかった……一瞬でも気を抜いたら、俺が負けていただろう。それほどまでに、ゲルドの動きは鬼気迫るものがあった。
「っち、参ったぜ。やるじゃねぇか」
「ゲルドこそ」
「いやぁ、まるで俺の動きを読んでるかのようだったぜ。【勇者】ってのは、そんなこともできんのか?」
「あはは……」
参ったと言うゲルドは、悔しそうであるがどこか、嬉しそうでもあった。あれだけの実力ならば、きっとこれまでの勝負で負けたことはなかったのかもしれない。
だから、負けという新鮮さが珍しい、とか思っているのだろうか。
「まだ剣を握って日が浅いってのに、もう俺よりも上達してるたぁ……自信なくしちまうぜ」
「そんなこと……ゲルドだって、すごいじゃないか。俺は『スキル』頼りだけど、ゲルドは『スキル』なしでそれなんて」
「二人共、見事でしたよ」
こうした、模擬戦は実戦のいい練習になる。お互いの力を高め合うことにも繋がり、俺たちは暇があれば相手を変えて、模擬戦を繰り返していた。
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