いったいそこでなにが
「っつぅ……」
腹部の傷は、致命傷とはいかなくてもそれなりに深い。俺は、服を千切り、その布で応急処置する。
さて、と……気絶した殺し屋は縛ったし、ひとまず安心だ。
あとは……
「リリー!」
座らせていたリリーの容態を、確認。
顔も、血がべったりだ。いったいどれほどの傷を……
「! 傷が、ない?」
軽く、リリーの体を確認したが……血を流すほどの傷口が、見当たらない。
この血は、本物のはずだ。なのに、この血は……リリーのものではない? 誰かの、返り血?
ならば、いったい誰の……
「っ……」
俺は、リリーの部屋を見上げる。リリーと殺し屋は、あの部屋から落ちてきた。
あの部屋で、なにかが起こっているのか。リリーの全身が、血に濡れるようななにかが……
「……ぅ」
「! リリー!?」
「……ロア……お兄ちゃん……?」
小さく声が漏れ、その主はゆっくりと目を開ける。
意識を失なっていたリリーは、俺の腕の中で、目を覚ました。
「リリー、無事か?」
「ん……う、ん。いたた……」
頭を押さえるリリー。この血がリリーのものではないにしても、頭を打ったことは事実らしい。
いったいそこでなにが
それから、違和感を覚えたのか、リリーは自分の手を見て……
「な、なにこれ……!?」
驚愕に、声を震わせた。なんせ、手のひらが血まみれなのだ、驚かない方がどうかしている。
それから、自分の体をペタペタと触っていく。
「え、え? ……私の血じゃ、ない?」
「みたいだな」
しばらく触り、自分の体に傷がないことが分かったのだろう。ほっと、一息。
だが、直後にまた、顔色を変えて……
「メラ! ディアお姉ちゃん!」
部屋を見上げる。その表情には、焦りがあって。
その視線は、すぐに俺に向いて。
「あ、あの、えっと! へ、部屋にね! 変な男が入ってきて、それでね!」
「落ち着いてリリー、深呼吸深呼吸」
焦る状況だというのはわかる。だが、だからこそ落ち着くことが必要だ。
リリーも小さくうなずき、何度か深呼吸をする。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがとう」
放蕩なら、リリーの体についた血を拭ってやりたいが……
残念ながら、さっきの戦いで俺も汚れてしまった。きれいなタオルとか持っていればよかったんだが。
「それで、なにがあった? ゆっくりでいいから」
「うん……寝ていたらね、いきねり変な男が入ってきて」
「変な男」
「うん。変な仮面付けてた」
「それってもしかしてあれ?」
気絶する前の記憶を思い出すリリー。彼女が指す人物は、おそらくさっき俺がぶっ飛ばした人物だろう。
今縛られているそいつを指差すと、リリーは目を補足して……
「わっ、びっくりした。さすがお兄ちゃん、倒してくれたんだ!
うーん……多分、そうだと思う。服一緒だったもん」
うなずいて、答えた。
さっきぶん殴ったせいで、仮面が割れてしまったからな。
あいつが、いきなりリリーの部屋に現れた……と。
「あいつは、自分のこと殺し屋だって言ってたけど」
「こ、殺し屋!? メラが、なんかすごい形相で私を守ってくれたんだけど、あれが殺し屋だったからなのかな」
まあ、王女の寝室に忍び込んだ時点で、警戒するには充分すぎるだろうが……
メラさんは、突然の侵入者に、リリーを庇って……
「っ……ごめん、よく、思い出せない」
「いや、無理するな」
頭を打ったショックか、それとも目の前で起きた出来事がショッキングすぎたのか……リリーは、まだすべてを思い出せていないらしい。
それとも、そもそも事前に気絶されられ、なにが起きたか知らないのか。
ともあれ……
「部屋に侵入した殺し屋、リリーを庇ったメラさん、そして部屋から落ちてきたのはリリーと殺し屋……」
これらを組み合わせると、嫌な予感がする。
なにより、リリーの体に付着した大量の血……だ。考えたくはないが、この血は……
「とにかく、リリーの部屋に行ってみるしかないか」
部屋で、今騒ぎが起こっている様子はない。だが、悠長にもしていられない。
無言で、リリーを見つめる。リリーは、力強く、うなずいた。
「行こう」
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