現る殺し屋
周囲で俺のことを狙っている者は、もういない。不思議と、城の周辺に他の人気もない。
それでも、正門から堂々と入るわけにはいかないだろう。俺は、昨日と同じく、城の壁を登る。
「よっと……」
誰にも見つかることなく、城の敷地内に侵入。
さてと、後はこの壁を登れば……
「……は?」
そう思って、空を見上げた……その、ときだった。
視界の先に、黒いものが見える。それは、だんだんと大きくなっていく……
……つまりは、なにかが空から、落ちてきていると、いうことで。
「な、なんだありゃ……」
誰かが、俺を目掛けてなにか落としてきたのか? それとも、たまたまなにかが落ちてきただけか?
とにかく、このままじゃぶつかる。その前に、避けようと思って……
「……!」
黒いものの全貌が見えた瞬間、俺の体は動いていた。
それを避けるのではなく、キャッチするために。
「ぬっ、おぉ……!」
落ちてくるそれを、俺はキャッチした。
高い所から落ちてきたのだろう。本来軽いはずなのに、重く、思わず落としそうになってしまう。
だが俺は、それ……いや、彼女を落とすことはなく、ギュッと抱きしめた。
「リリー……?」
落ちてきたのは……血まみれの、リリーだった。ひどい、怪我だ。それに、意識も失っている。
この上にあるのは、リリーの部屋。だが、足を踏み外して落ちてきた……というには、あまりに信じられない光景だ。
いったいなにが……
「! また……」
直後、またも空からなにかが落ちてくるのが見える。
しかし、先ほどのリリーとは違い、緩やかで、そして……
「……っと」
あんな高い所から落ちてきたとは思えないほど、華麗に着地した。
「お前は……」
「おや、また会いましたね」
着地した人物に、俺は見覚えがあった。それも、昨日会ったばかりだからだ。
仮面を付けた、怪しげな人物。昨日、リリーの部屋に侵入し、リリーとディア、メラさんを気絶させた人物。
そのスキルは、【幻影】。室内を血にまみれさせ、ディアたちも血まみれに……見せた、スキルだ。
「なにやってんだお前……まさか、これも……」
リリーが血に塗れている。リリーが落ちてきた場所から、この人物も降りてきた。これは、この人物の仕業か?
一瞬、今のリリーも血に塗れているように見せられているのでは、と考えた。
だが、このにおい……それに、この手に感じるぬるっとした感触。
間違いなく……本物だ。
「なにをしている、ですか……見て、わかりませんか?」
「!」
仮面を付けているから、その声はこもっている。
だが、それでもその人物は、俺を小馬鹿にしているように、思えた。
「あぁ、まさかあなたがこんなにも早く……アレらは、足止めの役割も充分に果たせませんか」
「アレら……?」
それは、まさか……先ほど俺を襲ってきた複製体、そして狙撃手のことを言っているのか?
「あれが、こいつの仕業なら……」
複製体には、ちゃんと感覚があった。つまり、【幻影】の類いではない。
ということは……この人物とは別に、もう一人、複製体を作り出せる人物がいる、ってことか。
「リリーをこんな目に遭わせたのは、お前か」
「えぇ」
「どういう、つもりで……それに、あんな高さから落としたら、死んでしまうだろ!」
こいつは、自分がやったと認めた。認めて……悪びれた様子など、ない。それどころか、俺の言葉に、喉を鳴らして笑う。
リリーの『スキル』は【絶対防御】。魔物の攻撃すら防ぐそれは、たとえあの高さから落ちても傷ひとつつかないだろう。
……リリーの意識が、あればの話だ。
「気を失っていたら、『スキル』も発動できない。そんな彼女に、こんなこと……冗談じゃ、すまないぞ」
「冗談、とお思いで? くくっ……殺すつもりで突き落としたに、決まっているでしょう」
「……っ!」
事もなげに、あっさりと……リリーを殺すつもりだと、暴露した。
「あぁ、あなたがここにいなければ、今頃その少女ただの肉塊になっていたでしょうね」
「てめぇ……」
この人物が、なにを考えているのかわからない。そもそも、殺すつもりなら昨日の時点で、チャンスはあったはずだ。
なのに、なぜ今……
その疑問は……
「しかし、あなたも運がいいのやら悪いのやら。ほら、早くあの部屋に行ってあげないと……死んでしまいますよ? 昨日の、かわいらしいお嬢さんが」
「……!」
その言葉で、完全に吹っ飛んだ。
リリーを近くの壁に座らせ、俺は目いっぱいの速度で、その人物の懐へと潜り込む。
リリーだけでなく、ディアやメラさんにもなにかしたのか……この、野郎!
ドゴッ……!
渾身の力を込めた一撃は、その人物の顔面へと打ち込まれた。仮面が、ピシッと割れる音がした。
……だが、それだけ。
「……!?」
「この程度、ですか?」
その人物は、倒れるどころかよろめくこともなく……仮面で表情は見えないが……不敵な笑みを、浮かべているようだった。
そんな……俺がこの国を追われてから、特になにか訓練していたわけではない。だが、かつては魔物も殴り殺したことだってある。
それを、まったく通用していないような……
「お前、なんなんだ……」
「……ふふっ」
仮面が割れ、口元のみが露になる。
その口元は、歪な笑みを、浮かべていた。
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