勇者を狙う人影
囲まれてしまったこの状況。それを打開する手は、いくつかあるが……
俺ができるのは、せいぜいこれくらいだ。
「一点、突破……!」
前方に走り、そこを塞いでいる敵をなぎ倒す。
八方ふさがりの包囲をされていても、一点を開くことさえできれば、活路は見出せる。
「どけ!」
「やめてロア!」
「……っ」
前方に立つは、ディアの顔をした女。そいつが、悲痛な表情で叫ぶ。
顔だけではない、声まで真似できるのか。こいつは……
「悪趣味、なんだよ!」
「ぶっ……!」
ディアの顔をした女を、俺は難なく殴り飛ばす。
俺の仲間の……好きな子の顔と同じ顔なら、声なら、俺が躊躇するとでも思ったのか?
「確かに、ちょっとだけ心が痛むけど……偽物に邪魔されて、本物を危険に遭わせるわけには、いかないんだよ!」
こいつらが、なんなのかは俺にはわからない。だが、はっきりしているのは……こいつらは、俺の邪魔をしようと、していることだ。
俺は、城に……ディアたちの所に、向かう。本物の、彼女たちの所へ。
それを邪魔しようというのだ。躊躇など、するはずもない。
「くっくく……ひどいなぁ、ロア」
「その声で、俺の名前を呼ぶな」
吹っ飛ばされた女は頬を押さえながら起き上がる。その表情は、邪悪に歪んでいた。
俺の名前……やっぱり、俺個人を特定して、何者かが狙ってきている。
「お前らを操ってるのは誰だ」
「くすくす……」
「なんで俺が帰ってきたことを知っている」
「くすくすくす……」
「ディアたちは無事なんだろうな」
「くすくすくすくす……」
「……はぁ」
ダメだな、肝心なことはなにも喋らないな、こいつら。
……まあ、いいか。一人だけ残しとけば。
「同じ顔が複数……人間じゃないのは確か、か」
人間ではなく、『スキル』で生み出されたなにか……生き物ですらないから、魔族、魔物とも違う。
それだけ、充分だった。
「遠慮なく、始末できる……って、ことだな」
人間なら当然、魔族相手であっても、生き物を手にかけるのはやっぱり思うところがあるのだ。いくら世界を混沌に陥れる、生物でも。
でも、相手が生物でもないのなら……そんな、気遣いは一切いらない。
「知り合いの顔を集めれば、数を揃えれば、俺を倒せると思ったのか……舐められた、もんだな!」
こちとら、人生二度目の勇者なんだ……隠れて、こそこそ『スキル』しか使ってこないような奴に、俺は負けない!
殴りにくい顔ではあっても、イコール殴れないわけではない。
「お、らぁ!」
「きゃ!」
目の前の、知った顔を殴り倒していく。それは、決して気持ちのいい行為とは言えない。
知った顔で、知った声で、そいつらが倒れていく。
それでも、やらなければ、いけないことで……
「邪魔、だぁ!」
囲まれても、それでも進んでいく……倒れていく、屍がその度に、増えていく。
こいつらが、『スキル』により生み出されたものだというのなら……倒したら、この場から消えてくれれば、ありがたいのに。
「はぁ、はぁ……」
無我夢中で、拳を振るう……気がつけば、俺を囲んでいた女たちは、全員が倒れていた。
顔は同じでも、その戦闘能力は本人には、遠く及ばない。それに、本人と同じ『スキル』も使わなかった。
もしも本人の強さを持った、複製体なら……こうも、あっさりとはいかなかっただろう。
「はぁ、余計な時間食った。とにかく、急がないと」
倒れている屍たちを一瞥。ここに、人が来たら騒ぎになるだろうが……後片付けをしている時間は、ない。
俺は、その場から駆け出した。
ディア、リリー、メラさん……この三人の複製体が、俺を襲ってきた。なぜその人選だったのか、そこに俺の複製体がいなかったことは幸いだが。
自分自身というのは、いろんな意味でやりにくいだろうからな。
「さて、と」
足止めは食ってしまったが、元より城との距離はあまり離れていない。走ればすぐなのだ。
周囲に人影がないことを確認。城の壁を伝って、リリーの部屋に行こうか。
そう考え、一瞬足を止めたときだった。
「……!?」
かすかな殺気。とっさに横へと呼び、体をそらす。先ほどまで俺が立っていた場所を、弾丸が過ぎ去る。
なんだってんだ、次から次へと……!
「誰だ!」
「……」
誰か、いる……しかし、出てはこない。気配はあるのに。
狙撃……狙撃手は、姿を現すわけないってことか。それは、おそらく狙撃手の本分なのであろう。
俺を狙っているのは……三人、か。三方向から、俺に狙いを定めている。
「どうあっても、俺の邪魔をしたいらしいな……」
ふぅ、と、軽くその場で深呼吸。意識を集中し……俺を狙っている一つの場所へ、即座に移動。
「……は?」
「あい、ごめんよ」
突然目の前に現れた俺の姿を認めた狙撃手が、間の抜けた声を漏らす。知らない顔だ。
有無を言わさず、その顔面に蹴りを打ち込む。
「っ……!」
「お休み、っと」
そいつが気絶したのを確認し、俺は次なる狙撃手のところへ。それをニ度、繰り返す。
三人の狙撃手を気絶させた俺は、そいつらをまとめて、縛り上げて……
「さて、どうしたもんかな」
三人とも、知らない顔だ。先ほどの女たちとは違い、複製体……ってわけでも、なさそうだ。
俺を、狙撃して殺そうとしたのか……しかも、ご丁寧に城の近くに、配置して。
よほど、俺を城に近づけたくない理由でも、あるんだな。
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